人の形②

タクシーの中に香水の匂いが充満する。鼻に刺さるような強い匂いはまるで女性の気の強さを物語っている。

僕は女性の質問責めに遭う。

「即答してね。本当に仕事してたの?」

「はい。最近辞めてしまいましたけど…」

「手取りは?」

「17万くらいでした」

「課長の名前は?」

「吉崎です」

「部長は?」

「秋田です」

「どっちが好き?」

「秋田さんです」

「ごめんね。私、疑い深いの。運転免許は持ってる?」

質問が続いていく途中で気づいた。彼女は疑い深いのではない。きっと人を信じることが恐い人。何かが彼女をそうさせている。

「僕ね、嘘つかないですよ」

僕は勉強ができなかったし、本も読まない。だから知っている言葉がきっと他の人よりも極端に少ない。でも、なんとなくわかることがある。言葉がどんなふうにその人に届くのかが、なんとなくわかる。その人が欲しい言葉、探していても見つけられない気持ちの言葉が、なんとなくわかる気がする。

「彼女に嘘つかれたんです。だから、嘘は嫌いなんですよ…」

どんなトーンで、どんな顔をすれば言葉が届くのかが、なんとなくわかる。僕はまるで純粋無垢な少年の眼をして、彼女の黒い部分に、そっと言葉を置きに行く。

僕は彼女の横に座っている。心も同じ方向。敵対していないことをそうやって伝えてみる。わざとらしくならないように。

「お腹減ってる?」

「はい」

「何が食べたい?」

「おにぎり」

「わざとらしくて可愛いわね」

わざと可愛い子ぶっただけではない。彼女は外で食事をするような精神状態ではない。そして、きっと自炊もできない。だから一番簡単な方法、彼女にとって嬉しいことを即答したつもりだった。

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