人の形③
彼女の部屋でおにぎりを食べていた。彼女は缶ビールを開けて一気飲みし、2本目を少しだけ飲むとタバコに火をつけた。
テーブルの上には今まで見たことがない鮮やかな色と綺麗な形をした餃子が置かれて、彼女はそんな上品な餃子の上にポン酢をドボドボとかけた。
「私がどんな仕事をしてると思う?」
「何歳なんですか?」
「34。もう質問返しは無し。答えて」
香水臭くて化粧が濃くて、派手な赤いコートを着ていた。僕の好きなタイプではないけど、顔も美人な方だと思う。そして高級マンション。お金はたくさん持っている人。でも、今の僕が知る限りの夜の匂いは感じない。
「うーん…全然わかんないです」
「アメ車のディーラー」
「飴社のディーラ…」
僕の頭の中にはディーラという飴を作る会社が浮かび、ぺろぺろキャンディーがお花畑のように広がる。想像の中の彼女はそれを収穫していた。
「車は好き?」
「ああ、えっと…全然興味ないです。子供の頃もミニカーよりも電車のおもちゃが好きだったみたいで」
「あんた、可愛い子ぶるよね。そうやって若い女を騙してるの?それで騙せてると思っているところが可愛いけど」
彼女はそう言うと僕の前に来てテーブルの上に座り、大胆に脚を開いて僕を逃げられなくした。スカートの中はもう完全に見えているはずなのに、彼女の視線が見ることを許さない。すると彼女はじっと見つめる僕の顔を人差し指で強くつついたり弾いたりする。僕の顔はまるでタブレットのようだった。
「可愛い、抵抗できないのね。人の形をした犬みたい」
「恐れ入ります」
「口は生意気だけど」
「手がかからなくて初心者でも簡単に飼えるって、彼女には言われてました」
話の続きをしようとすると、彼女の顔がゆっくりと近づいてきた。
香水臭い、タバコ臭い、酒臭い。
全部嫌いな匂いだった。でも動けなかった。
つつくような弾くような、そんなキスをされた。やっぱり臭かった。深くないキスで助かったと思った。嫌がっている僕に気づいたのかもしれない。
「どうして私がタバコを吸うと思う?」
「大人に憧れたから?」
ふざけた発言をわざと繰り返す。それがおかしかったのか、それともつまらなかったのか、彼女は少し笑った。
「休む目的で休みたいから。こんなこと言ってもあんたにはわからないだろうけど」
彼女はテーブルに座ったまま酒を飲み、タバコを吸い、僕を見下しながら指で何度も顔をつついた。
そうか、わかった。
どうして彼女から夜の匂いがしないのか。経験人数、恋愛経験が感じられない。男性の扱い、その接し方がまるでできていない。犬と言いながらも僕を男として見ていて、その接し方がわかっていない。
身体や地位は大人でも、心はまだ処女のままだ。今から僕が何をしてもそれは変わらない。
彼女の眼には僕の影が映っていない。だから可愛いなんて言えるんだ。本当に幼いと思えるんだ。
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