人の形④
彼女の家に住むようになって数日が経った。彼女は僕に諭吉を数枚渡して仕事に行く。僕はその間、パチンコとゲーセンとラーメン屋、そして銭湯でゆっくりしてから彼女の家に戻り、ゴロゴロしながら詩を考えたりゲームをしたりしていた。
僕の心は諭吉に縛られていた。
彼女は仕事を終えると百貨店で食べる物を買って帰ってくる。飼い犬のように尻尾を振って出迎えた僕はその餌に食らいつく。
「いつもどこで髪の毛を切ってるの?」
「子供の頃から行ってる地元の床屋さんです」
「だからださいのね。美容室とか行かないの?」
「高校の時に一度だけ行きました。違いがわからず、無駄に高かったからもう行かないです」
次の日、僕は彼女に連れられてレゲエがうるさく流れる美容室に連れて行かれ、変な髪型になった。その後に服も買ってもらい、僕はまるで別人になった。
でも、鏡に映った僕は相変わらず冷めた表情をしていて、それは髪型や服装を変えたところでどうしようもないことだった。
その日の晩、彼女は僕を連れて自分の知り合いの店を数件回った。店員さんとの話を聞いている感じでは、たぶん彼女の仕事上での付き合いもある。
金で全てを手に入れて、それをみんなに自慢しているようだった。若くて可愛らしい顔をしていて、誰ともそれなりに受け答えができて、そして何よりも、飼いやすい。
僕は飼い犬だけでなくアクセサリーにもなった。
「明日、一度家に帰ってきます」
黙って帰れば良かったと、言った瞬間の彼女の顔を見て思った。不安で潰れそうになっていた。
「それは1日だけ待って。帰るなら明後日にして」
その理由がわからなかったが、僕は何も言わなかった。
次の日の夕方、いつものように出迎えた僕に、彼女は紙袋をいくつか渡す。
「親御さんに持って行きなさい。元気で暮らして、仕事もちゃんとしてるって言って、また帰ってきて」
いつもの百貨店で買ったのだと思う。豪華なお菓子やいろんな物をもらった。なんて見栄っ張りな人だと思ったが、彼女の顔を見ると不思議とそうは思わなくなった。
心配りだと思った。相変わらず気の強そうな顔をしていたけど、割と素直な眼をしていた。だからその気持ちを素直にそのまま受け取った。
「ありがとう…ございます」
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