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休職2回、のち無職 #1

うつのきっかけ

うつになったきっかけ、人それぞれかと思います。
元々の性格的な特徴でうつになりやすい、なりにくいなどもありますよね。
私の場合はうつの発症するきっかけがはっきりしています。
ずばり、自己臭恐怖症です。
どんなものかというと、自分の体臭や口臭が原因で誰かに迷惑をかけているのではないか?と過剰に自己の放つにおいについて気にすることを言います。
日常生活を送っていると汗をかいたり、ニンニクを食べたりした後「やばい、私臭いかも」なんて思ったりすることがありますよね。
少なくとも私はあります。人間、生きている限り多少のにおいは放つものなので、仕方のないことですね。
ところがこの症状、そういった一般的な「やっべー」の気持ちがより強く、文字通り恐怖を感じるほどに過敏になって「他人に不快に思われているのではないか」と常に警戒している状態になります。
ストレスが常にかかっている状態になり、他人が近くにいるだけで恐怖を覚えるレベルです。

この症状が出るきっかけ、会社で同じ部署のある先輩からの質問からはじまりました。
ある日、先輩社員から裏に呼び出され「わたし、臭くない?」と聞かれたのです。
いわく、「加齢臭が気になる」と。
頭のにおいまでかがされ、私は「全然においませんよ。大丈夫です」と返して自席に戻ってから、はたと思ってしまったんです。
「私がくさいのを遠巻きに指摘しているのではないか」と。
その先輩はいわゆるお局さんのポジションにいて、女性社員の風紀やらの取り締まりを上司から指示されたり自主的にそれとなーく注意する立ち位置の方でした。
私の部署の先輩だったので、そういった行動をよく目にしていたんですね。
だから、私もその対象として注意されたのではないかと受け取りました。

ちょうどその一週間前に遊んだ友人が少し体臭がしたことがあったんですよね。
本人もそれを電車内での人のふるまいで感じ取ったらしく、私に「臭くないか」と聞いてきました。
私はにおいの心当たりがあるか、洗濯の生乾きなどではないかと確認をしましたが、本人は全く心当たりがないとのことでした。
正直に「くさいです」と言って友人を苦しめるのも心苦しく、私はとっさに「臭くないよ」と彼女に伝え、そのまま一日人の少なそうな場所で遊ぶことにしました。
その小さな嘘が後になって私を苦しめにかかってきました。

当時の私は一人暮らしで、駅まで少し小走りをすることもあったりして汗臭さがあるのかと早起きをして解決をはかったんですが、自分の認知のゆがみは激しかったようでした。
誰かに「わたし、くさいですか」と聞くのも恐ろしくて、私の恐怖心はどんどんと強くなっていきました。

ひどくなる自己臭恐怖症

それからというもの、私は
電車内で人が鼻をすする音がするだけで「私がくさいのではないか」
電車の隣の座席の人が席をたったのも「私がくさかったからじゃないのか」
誰かと話すとき、距離が遠いと「私がくさいのではないか」
距離が近かったら近かったで「今の私は臭くないだろうか、不快にさせていないだろうか」
こんな風に常にストレスがかかり、自宅で一人で過ごす時だけが安心して過ごせる時間になりました。

突然の異動

自己臭の恐怖と闘いながら日々職場に通っていたその年の冬、私は異動の内示を受けました。
私の職場では女性社員の異動はごく稀なことで、勤続が10年を越えていた私でも退職された女性社員の穴埋めとして異動したケースが一件あっただけなのでかなり衝撃を受けたのを覚えています。
自己臭恐怖症を抱えている私はすぐに例の考えが浮かびました
「部長が私を異動させるのは私が臭いからではないのか」
また、こんな風にも思いました。「私が仕事ができないからだ」
私の仕事の出来不出来の評価は今となってはわかりませんが、器用なタイプでないことだけは確かです。
そんな自己評価を抱えていた私は自己臭のほかに「仕事のできない自分」というラベルを自分に貼り付けたのでした。
部長の当時の説明は「女性社員の業務をローテーションさせ穴が空いてもフォローできるように」とのことでしたが、私は自分の思った考えが先に立っているのでそんなものは「優しい嘘」にしか思えませんでした。
人の異動を取り仕切る部署にいたので、そういった嘘があるのも見慣れていたので私の思い込み(?)は覆ることはありませんでした。

続く異動

異動した先はワンマンタイプの部長で、私が3人目の交代要員でした。
前の部署にいた時から、来客のお茶出しなどを自分の部下ではなく受付電話をとる他部署の私に依頼するなど面識のある方でした。
前任からは「部長が何か言っても気にするな。病むぞ」と脅かされましたが、私に対しては割合柔らかな対応だったので特に気にしませんでした。
お茶出しを他の部署の女性に依頼することがどういうことなのか私はすぐには理解できませんでしたが、後に前任の言っていたことを理解することになりました。
私が部下になってから数か月後、私も同じように自分の上司の来客対応をはずされ、受付電話を受ける前部署の人にお茶出しを頼むようになっていたのです。
上司との信頼関係を築くことに失敗した私は、自分の上司でもない部長のお茶出しまで頼まれることになった、前部署の女性からも「なぜ自分の上司のお茶出しをしないんだ」と疎まれるようになってしまったのでした。

そもそも私は一回目の内示では別の部署のはずだったのですが、スライドするはずだった社員が内示の時点で「その部署へ行くのは嫌だ」と泣いたために私がワンマン部長の下につくことになりました。
「内示に泣いて嫌だと言えばそれで済むのか」と当時複雑な感情を抱いたのを覚えています。「生贄か?」と一瞬脳内をよぎりましたが、発病した今となってはもう今更の話なのでいいんですけどね。

そんなこんなで自己臭恐怖症を患い、精神科のお世話になりつつ服薬しながら勤めていたのですが、結局その部長のお気に召さなかった私はさらに別の部署に移動することになります。

失っていく自信

「自分は臭い」「仕事ができない」
この二つのレッテルを己に貼って視野狭窄におちいった私が日常の業務を満足にこなせなくなってきたのは、2年おきに異動を命じられ3つ目の部署に異動した頃でした。
最初に異変を感じたのは目からでした。
いくら目を凝らしても文字が頭に入ってこない。
そうしているうちに、文字を最大に拡大しないと満足に書類も読めなくなってきました。印刷された文書は顔を限界まで近づけなければならないほど。
夜は眠れず、一人でいるときですら指で頭皮をこすっては嗅いで「臭いのでは」と思い悩む。
実家に帰った時に両親にくさいかを確認しては「くさくない」と言われ、「それは優しい嘘だ」と脳内で否定する。

当時は父方の祖父母の介護のために隔週で金曜から実家に帰り、土曜に介護に高速で往復5時間かかる祖父母の家を訪ね、日曜に帰宅する生活でした。前立腺がんの手術を終えたばかりの父が心配で、介護に行くことを断る選択肢は当時の私にはありませんでした。
そうして心身ともに休まることが少なくなり、憔悴していきました。

希死念慮

異動して3つ目の部署に着任してから2年目を迎えるのが間近になった冬、私は上司命令で他社の説明会に出席することになりました。
普段は制服で勤務していましたが、今回は直行直帰なので私服でよいとのこと。オフィスカジュアルな服で行けばいいかと、私も前夜までそう思っていました。
当日の朝、化粧をし前夜に決めた服を着て全身鏡でチェックをしたとき「なに、この気持ち悪い女」というのが感想でした。
何度も着替えなおして鏡の前に立ってもその感想は変わりません。
そうこうしているうちに、出発の時間になりました。あきらめて私は自宅を出て、最後になんとなく当時住んでいたマンションの入り口にあった全身鏡を再度見ました。見てしまいました。
「やっぱりだめだ、こんな気持ち悪い恰好で他社に行ったら変な会社だと思われる」と、吐き気までこみ上げ、私は泣く泣く上司に体調不良で行けなくなった旨を連絡しました。
上司は優しい方で、先方に連絡をとっておくから養生するよう言ってくれましたが、私は自己嫌悪が止まりませんでした。
「なんでこんなこともできないんだろう」
「上司も私に失望したに決まっている」
「仕事もできないで、他社にいく使いもできなんだなんて」
「私なんて死んだほうがいい。生きていても人に迷惑をかけるだけだ」

少し前から死にたいと思い、死に場所として検索していた富士山の樹海の行き先を再度検索して、私はロープを買う場所と簡単な遺書の算段をして普段着に着替えていました。

姉からの連絡

やることリスト「死ぬ」を実行しようと動いていた私に、姉からラインで連絡が入りました。会社を休んだと伝えていた母からの連絡を受け、姉が私に連絡してきたそうでした。
「会社を休んだのならランチできるだろう。来い」と有無を言わさない姉の剣幕に気おされ、「最期に会うのもいいだろう」と私はすごすごと財布とスマホを持って姉に会いに行きました。

かねてから自己臭恐怖症で悩んでいた私に精神科を進めていた姉は、私の調子を聞き出し、ついでとばかりに私が休んだ理由まで聞いて希死念慮があることまで吐かせました。恐るべき話術。というか迫力。
姉は気が強く、気が弱い私は姉に頭があがらないのが常でしたがこの時は頭がめり込むのではないかと思うくらいに怒られました。
姉はその場で通っている精神科に電話をして予約を取り付け、診察に同席し、休職の診断書をもらい、病院のビルの下で私に休職の診断書が出たことを上司に電話させました。
そうして、私は一度目の休職を余儀なくされたのでした。


休職をしてからのことはまた機を見て更新します。
ここまで読んでくださりありがとうございました!

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