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チーム・スポーツにおける構造主義的アプローチ

ここ最近の僕の大好物はサッカー本だ。

色々とサッカー雑誌や書籍を読んでいる中でも結構な衝撃を与えてくれた本。

その本の題名は『「サッカー」とは何か』

「サッカー」とは何か 戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論

なんとストレートで本質的な問いなんだろう。サッカーをめちゃくちゃ愛していないとこんなタイトルにしないし、絶対書けないじゃん。

ぼくもいつか『「バレーボール」とは何か』を描きたい。そんなことを思いながらアマゾンでポチッとな。

本書の大きなテーマは2つで、戦術的ピリオダイゼーションと構造主義。

特に強いインスピレーションを受けたのが、構造主義という概念だ。

本記事では、この構造主義について突き詰めて考えていこうと思う。

構造主義とは何か

では、構造主義という概念についてイメージを掴んでもらうためWikipediaに登場してもらう。正直、分かるようで分からないような説明かもしれないが、イメージを掴みやすいだろう箇所を太字にしておく。

(前略)原則として要素還元主義を批判し、関係論的構造理解がなされる。ソシュールが言語には差異しかないと述べたと伝えられているように、まず構造は一挙に、一つの要素が他のすべての要素との関係において初めて相互依存的に決定されるものとして与えられる。このような構造の理解においては、構造を構成する要素は、原則として構造を離れた独立性を持たない

Wikipedia『構造主義』より一部抜粋

抽象的説明で分かりにくいのではないだろうか。そんな方には先に要素還元主義について理解しておくことをお勧めする。構造主義は要素還元主義の反対にある概念だと考えれば理解がしやすいだろう。

以下の記事を参考にしていただきたい。

参考記事:要素還元的アプローチについて考える

チーム・スポーツにおける構造主義的アプローチ

ここからは、本書で紹介されているチーム・スポーツにおける構造主義とはどういったものなのかを具体的に考えていきたい。

本書ではタイトルからも分かるように、サッカーを具体的な例としてチーム・スポーツにおける構造主義について説明している。

まず、チーム・スポーツにおける構造主義という概念を導入した人物であるパコ・セイルーロを紹介しよう。彼のことを端的に説明するとすれば次の通りである。

元々、専門は陸上競技。ひょんなことからFCバルセロナ(総合型スポーツクラブとして、そして育成機関として世界でも最も成功していると言えるクラブチーム)のサッカー部門の育成を任されることに。FCバルセロナの育成の基礎を創った人物の一人。

どうだろうか。

この紹介からますます彼に対して興味が湧いてはこないだろうか。もっと彼について知りたければ、まずは本書をぜひ読んでいただきたい。

さて、そんなパコさんが導入した構造主義的アプローチが構造化トレーニングである。

この理論を構築するに至った背景には、自身の専門である個人スポーツの陸上競技とチーム・スポーツであるサッカーのトレーニング方法がほとんど変わらないという状況に衝撃を受けたことが大きなきっかけとなったようだ。

こうして彼の一つの疑問から構造化トレーニング理論の体系化が始まったのである。実にロマンがある。

「相互関係」と「相互作用」を重視する

偉大なるパコさんは、構造化トレーニング理論の体系化していく中で相互関係・相互作用というものを最も重視視したようだ。

このことは、Wikipediaの構造主義の説明にあるように『もう一つの要素が他のすべての要素との関係において初めて相互依存的に決定される』という部分のことを指していると言えるだろう。

そしてこの相互関係・相互作用という明確なコンセプトを軸にしてトレーニングにおける主な目的を5つ挙げている。

1. 試合に向けての負荷コントロール
2. シーズンを通じたコンディション維持
3. 少ない時間での効率的なパフォーマンス向上
4. 豊富なメニューでプレーヤーを惹きつける
5. 試合に近い状況で試合をシミュレーションする

これら5つの主目的はコーチ視点で見ると、トレーニング計画を立案する際の5箇条と言われたとしてもとてもしっくりくる。実際、私はこの5箇条を常に意識しながらトレーニング計画を立てている。

8要素から構造化されるプレーヤー

そして、パコさんの提唱する構造化トレーニング理論が他に類をみない、特筆すべき存在となっているのが、個々のプレーヤー一人一人の内面構造にまで焦点を当てている点である。

先に説明したようにパコさんはトレーニングを行うにあたって、プレーヤーとプレーヤーを取り巻く環境(チームメイト・対戦相手・気温や気候・コート・ボール・審判等のをありとあらゆる環境を含む)の相互関係・相互作用を重要視しており、それらすべてを超複雑な全体構造として捉えている。

そしてさらに、個々のプレーヤー自身までをも構造的に捉えようと多種多様な学問的アプローチから、最終的に8つの要素からプレーヤーは自己構造化されるものであると定義している。

では、この8つの要素について見ていこう。

1. 生体(身体の生物的)エネルギー
2.コンディション(フィジカル)
3.コーディネーション(そのスポーツおいて必須となる専門的技術や身体操作)
4.認知(情報の収集・編集・理解・判断の一連プロセス)能力
5.社会性(コミュニケーション能力)
6.感情意欲(意志・モチベーション)
7.表現力(チームでの自己表現・PRする能力)
8.メンタル(自分の持っている能力を統合化する能力)

8つの要素に分解するなんて、これこそまさに要素還元主義ではないか!?

このように思われる方は一定程度いると思うので少し説明を加えよう。

確かにこのように因数分解すると、直ちにそれぞれを単体のモノとして捉え要素還元しがちであることは否めない。しかし、構造主義の概念を思い出してほしい。8つの要素は常に相互関係にあり相互作用し合うものなのだ

言語化プロセスの上で因数分解しているだけで、実際は相互関係にあり相互作用しあう構造であると理解しなければならない。

これら8つの要素が相互関係し、相互作用することでプレーヤー自身は構造化されているとパコさんは捉えたのだ。

チーム・スポーツにおける構造主義を2段階で捉える

チーム・スポーツにおける構造主義的アプローチについて少しまとめてみると、それを捉えるには2段階で捉えるのがよさそうである。

まず1つ目が、プレーヤーとプレーヤーを取り巻く環境との関係を最適化する、つまり周りとの関係性を構造化しようとするアプローチ。

そして2つ目が、プレーヤーの内面にある8つの要素をうまく統合・最適化する、つまり自己を構造化しようするアプローチ。

こうして考えるとチーム・スポーツにおける構造主義をうまく捉えられるのではないだろうか。

コンディション・コーディネーション・認知というスポーツによる特異性

さて、もう少し自己構造化のプロセスについて考えていきたいと思う。

本書では、自己構造化における8要素のうち、特に3要素が重要であると書かれている。それは、コンディション・コーディネーション・認知である。

ではなぜ、この3要素が特に重要視されるのだろうか。

私が考えるに、「その」スポーツが持つ特異性の影響を最も大きく受ける要素が、コンディションであり、コーディネーションであり、認知であるからだと考えた。

サッカーとバレーボールを例に考えてみよう。

まずはコンディション。本書によると、コンディションはさらにストレングス・エンデュランス・スピード・柔軟性・リラクゼーションといった5つの要素に細分化される。

ここでは、スピードを例にとって考えてみる。サッカーでは広いピッチの中を相手チームの守備を素早くかわし、追いつかれないようドリブルするといったスピードが求められる局面が想定される。

これに対し、バレーボールでは9m×9mという限られた自コートの中で、相手コートから飛来するボールの落下点に素早く移動してレシーブし、セッターからセットボールにあったスピーディーなステップでのアタック・アプローチが求められる局面があるだろう。

スピードと一言で言ったところでサッカーのそれとバレーボールのそれは全く持って異質である

次にコーディネーション。サッカーにおけるコーディネーションの一例として、足を使ったドリブル、そしてシュートが挙げられるであろう。

これに対して、バレーボールにおけるそれの一例として、アンダー・ハンド・パス、オーバー・ハンド・パスがあり、セットがあり、スパイクが挙げられる。

説明するまでもなく、サッカーのそれとバレーボールのそれは全く持って異質である。

最後に認知。サッカーではプレーする上で、広大なピッチ全体を見渡し、その中で攻守が入り乱れ、流動的に動いている22名のプレーヤーとボールの動きを認知する必要があるだろう。

これに対してバレーボールではプレーする上で、相手コートも含めた18m×9mのコート全体を見渡し、高速で小刻みに動き続けるネット奥の6名のプレーヤーと同コート内にいる自分を含めた6名のプレーヤーの動きと短時間で高速移動するボールの動きを認知する必要がある。

認知についても、当然サッカーのそれとバレーボールのそれは全く持って異質なのだ。

ここまで具体的な例を挙げて考えてきたが「その」スポーツが持つ特異性が色濃く反映されるのがコンディション・コーディネーション・認知の3つの要素なのである。

構造化トレーニングの計画立案においては、これら3要素を常に頭の中心に据え置いておくことが重要である。

バレーボール・トレーニングにおける構造主義的アプローチ

さて、最後の章では、構造主義的なアプローチが「ネット型」「チーム」スポーツの代表とも言えるバレーボール競技において有効な手立てとなるのかを考えていきたい。

まず、今の僕の意見は明確にイエスだ。

特に僕自身が関わっていて、日本のバレーボール界の未来にとっても極めて重要な育成カテゴリ(ここで言っているのは小学生〜高校生)におけるコーチングやトレーニング計画、カリキュラム作成をしていく上で極めて有効なものであると思っている。

現在、私の経営するONESでは普遍性のあるバレーボール・プレーヤー育成モデルを構築しようと、様々な試行錯誤をしている最中である。

そんな渦中の僕にとって、この構造主義的アプローチという概念は非常に大きなインパクトであった。

編集語記:最後の最後に。蛇足だが記事を描いて思ったことをポロリ。

「〜理論」「〜メソッド」とか巷にはあふれている。商用的なものもあればたくさん研究や知見が蓄積された本質的ものもある。まさに玉石混淆

ただ、人の育成に関わるコーチである限り、多くのものを学び続ける義務がある。良きも悪きもたくさん触れて、感じ、考え、最終的には自分なりの考えへと昇華させていかなければならない。

今はいろんな知見を自分の脳みそのなかでぐちゃぐちゃに混ぜ込み、熟成させていくプロセスを繰り返すことが思考停止に陥らない一つの方法だろうと思っている。

僕はこれからも学び変化し続ける。









バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。