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トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【3/8】

トータルオフェンスを実現するためオフェンスシステムについて考察する【2/8】からの続きです。

トータルオフェンスシステムを構築するための視点

2.スロットという概念

オフェンスシステムについて考える上で、スロットの概念を無視するということは、それを考えることを放棄したに等しい。それくらい重要な概念であると言いたい。

スロットの概念については下記の記事の中でかなり詳細に解説をしているので興味のある方は参照いただきたい。

ではまず、簡潔にスロットの概念について下図を見ながら解説しておこう。

スロットとは一般的には硬貨投入口のことを指すが、バレー用語としてのスロットはそれとは違う。バレー用語としてのスロットは、一般的にアタッカーがボールヒットする空間位置を表すために使われる。ネットに平行な水平座標軸を設定し1m毎にコートを9分割して(コート横幅は9m)数字や記号を用いてコート上の空間位置を表すものである。上図の"S"はセッターのイニシャルポジション、つまりチームが理想とする1本目のボール返球位置を示している。

上図に示したスロットはアーリー・セリンジャー氏によって定義されたもので日本で最も流通しているスロットの定義方法である。しかし、スロットの定義方法は国や地域、そしてチームによって多種多様である。チームが理想するとするオフェンスシステムを構築する上で最も最適だと思われるスロット定義を模索していくことも大切だと思う。

ちなみに、私なりにスロットに対する考えをまとめた記事があるので参考として下記の示しておきたい。最適なオフェンス・システムを構築していく上で読者の役に立てるのではあればこれ以上の喜びはない。

さて、少し前置きが長くなってしまったが、なぜスロットの概念に対する理解がオフェンスシステムの構築にとって必須なのかについて話をしていきたい。

まず結論から言うと、現代バレーボールのオフェンス局面において、いかに相手チームのブロッカーに対し、質的優位な状況を創り出すことができるのかが重要であるからだ。

そして、このような状況を生み出すためには、コート幅9メートルの有効活用とスロット間隔(アタッカー同士の空間的バラツキ)の確保を志向しなければならない。これらを志向し・実現するためには、スロットの概念がないとチームの中で言語化し共有するというプロセスを踏んでいくことができないのである。よって、スロットの概念はオフェンスシステム構築において必須なのである。

3.流動スロットと固定スロットの選択

スロットの概念を理解することが極めて重要だという点についてはここまでの説明でご理解いただけたのではないかと思っている。さらにここからは、質的優位な状況を創り出すための「コート幅の有効活用」と「スロット間隔(アタッカー同士の空間的バラツキ)の確保」について考えていきたい。

これらの点について考える際、流動スロットシステムと固定スロットシステム、いずれのシステムを採用するのかを考えなくてはならない。

それでは、まず流動スロットシステムと固定スロットシステムのそれそれが意味することを確認しておこう。まずは下記をご覧いただきたい。

流動スロット:セッターのセットするスロット位置に応じてアタッカーのボールヒットするスロット位置が流動的に変わるシステム

固定スロット:セッターのセットするスロット位置がどこであろうともアタッカーのボールヒットするスロット位置が変わらないシステム

現代バレーボールにおいては一般的にセッターの定位置、つまりチームとして理想とする返球スロット位置があるわけだが、いつでもそこにボールが返球されるわけではない。いや、むしろそこに返球されることのほうが少ないのかもしれない。

1本目のボールがセッターの定位置以外に返球されたときにそれぞれのアタッカーはどのスロットに向かって助走していけばいいのかというのが、ここでの話である。

ここからは具体例を挙げながら考えてみることにしよう。ここでは、日本で最も一般的に使われているであろうセリンジャー氏のスロット定義を用いて説明していきたいと思う。

まず、流動スロットについて話をしよう。
セット定位置はスロット0である。定位置にボールが返球され、Aクイックを上げるとすれば、スロット1にアタッカーは入ってくる。しかし、返球が乱れセッターのセット位置がスロット2になった場合はどうだろうか。この場合、流動スロットシステムではアタッカーはスロット3に入ることとなる。

ここではミドルブロッカーの攻撃スロットを例に説明したが、アウトサイドヒッターに対しては、この流動スロットは機能しないことが多い。

上記と同様のケースを考えてみたい。定位置にボールが返球されることを前提に、アウトサイドヒッターはスロット5でいわゆる平行を打つ予定だったとしよう。しかし、返球が乱れセッターのセット位置がスロット2になった場合、アウトサイドヒッターはどのスロットに入ることになるだろうか。

流動スロットシステムで考えるとスロット7(そんなスロットは存在しない!)、つまりアンテナ外からヒットしないといけないことなってしまう。アンテナの外からヒットすることのメリットとデメリットを検討したとしても、スロット7(?)から攻撃することのメリットがデメリットを上回ることはないだろう。つまり、このケースで、アウトサイドヒッターはスロット5から攻撃する以外の選択肢はない。つまり、このような場合はスロットを"流動"させるわけにはいかないのだ。これはオポジットについても同様である。

この2つの具体例から分かることは何だろうか。実は流動スロットというのは、ミドルブロッカーと後衛のアウトサイドヒッターのスロット位置のみに適用されることがほとんどであり、前衛のアウトサイドヒッターやオポジットに関しては実際のところ、コート幅いっぱいにスロットが固定されるのがほとんどであると言える。


では次に、固定スロットについて話をしよう。
流動スロットで挙げた同じ例をそのまま使って考えてみたい。定位置にボールが返球され、Aクイックを上げるとすれば、スロット1にアタッカーは入ってくる。しかし、返球が乱れセッターのセット位置がスロット2になった場合はどうだろうか。このケースだと、固定スロットシステムではアタッカーは定位置に返球されたケースと同様にスロット1に入ることになる。この場合だと、セッターはバックセット技術を活用して、同じくスロット1にボールセットすることになるわけだ。つまり、一般的な攻撃名で呼ぶとすればCクイックになるのである。また、アウトサイドヒッター並びにオポジットについても考え方は上記と同様であり、どのアタッカーも常に同じスロットに向かって攻撃参加すればいいのである。


トータルオフェンスを実現するためのオフェンスシステムについて考察する【4/8】に続きます。

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。