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リレーストーリー「引っ越し仕事人#4」

1-3話を執筆した、
元新宿西口プロレスのレスラー・ゴージャス染谷さんから
4-6話を執筆する私に送り状が――――

好きなようにストーリーを書き進めて次の人へ。
無茶ぶりなのは重々承知です。
でも、これがリレー小説の醍醐味ではないかと(笑)
この後、金田さんがどんな展開にしていくのか?
楽しみにしています。

第4話 元教師の正体

「フハハハ、刑事さん達、いかが致しましたか?」
先程までの初老の定年教師然とした落ち着いた声とはうって変わった低く太く、そしてハリのある声で西田が返答する。
新井も香川も全くもって事態が飲み込ず、ポカンとしている。

「改めて言う、島本英二、詐欺・窃盗の容疑で逮捕状が出ているんだよ」

「島本? この方、西田さん、じゃ?」
こういう時、純真な性格が役に立つ?香川が素直に疑問を口にする。
「西田? そうだったな、ここではそう名乗っているんだったな。それは偽名だ。こいつは詐欺師。日本各地でうまいこと言っていろんな人からその人が大切にしているモノを盗んでいるんだよ。そもそも島本って名前だって本当かどうかわからんがな」
「刑事さん、人聞きが悪いですね。私は全て正当に譲り受けただけですよ」
「あの、西田さんじゃなくて島本さん? しかも、それも本当じゃないかもってなると、なんてお呼びすれば良いのでしょうか?」
「それ、今、どうでもいいだろ」
新井は香川の腹をこづいた。

「だがな、被害届が出ているんだよ!」
「どうせ、後で親戚とかから、売ったら高く売れたのに、とか吹き込まれて欲の皮が突っ張り出した人からのものでしょ。人間ってのはしょうがないね」

「とにかく、署まで御同行願おうか」

「ふん、はい・・・・・・・・と言うとでも?」

西田、いや多分島本、がそう言うと突如、バン!と音がして部屋の中が真っ白になった。
「うわっ、なんだ、これは? ゲホゲホ」
思わず咳き込む刑事達、新井も香川も。
「全く見えん、窓開けろ、窓!」
やがて白い霧がはれて視界が戻って来た。

「やや⁈ 島本はどこだ⁈」
窓が開いており、そして西田、いや島本の姿は無かった。

「おい! 追うぞ!」
走り出て行こうとする刑事達。
玄関まで行くと戻って来て、
「引っ越し屋さん? 後で、一応事情を聞かないといけないから署まで来て貰える? それと、応援の刑事寄越すから、それまで申し訳無いのだけどここで待っていて。もし、島本が戻ってくるようなことがあったら、すぐにここに電話して」
それだけ言うと名刺を渡して飛び出して行った。
名刺には「前田明」と書いてあった。

「先輩、すごいことになっちゃいましたね」
「ああ」
と、名刺から目線を上げた新井。
その視界に、奥の部屋のドアが。
「あそこの部屋、まだ見ていなかったな」
「ええ。でも、先輩、もう引っ越しどころじゃないですし、俺、刑事ドラマで見ましたけど、こう言う時は現状キープですか、何も触らない、ちょ、ちょっと先輩!」
香川の声は全く無視して、新井は奥の部屋のドアに近づいて行き、そして開けた。

そこには、また多数の骨董品、いやそれだけではなく、何の関連性が無い様々なモノが並べられていた。
「わあー、色々盗んだんですねー」
新井の後からついて来た香川が、新井の肩越しに部屋を覗き込んで言う。
「そうだな」
ゆっくりと部屋を見回す新井。
「これは・・・」

「すみません、入りますよー!」

その声に振り返ると
「この度はご苦労様です。足立署の橘です」
応援の刑事が到着した。
「どうも、スマイル引っ越しセンターの新井と申します」
「とんだ現場に巻き込まれてしまいましたね。決まりなんで一応話を聞かせて頂けますか」
「では、署の方に?」
「いえ、お忙しいでしょうから、ここで。10分ほどよろしいですか?」
「はい、勿論」
こうして新井と香川は人生初の事情聴取を受けた。
香川は密かに署に行ってカツ丼を食べることを楽しみにしていたらしく、この部屋での事情聴取に不満気だったが・・・。

「では、これで。後は我々が居りますので、お帰りになって頂いて結構です。ご苦労様でした」

「しかし、事件に遭遇するとは、ドキドキしましたね、先輩」
会社への帰りの車の中、助手席に座る香川はちょっと興奮気味だ。
だが、新井の心にはあることが引っかかっていた。
「あれ?先輩、なんか難しい顔してますね? あ、先輩もカツ丼食べたかったんだ」
「違うよ」
「じゃあ、どうしたんすか?」
「あの最後に入った部屋な、思いがいっぱいだったんだよ」
「それがどうかしたんすか?」
「色んな人の思いだったんだよ」
「色んな?」
「誰ってのは分からないけど、あの西田、いや島本?って人だけのじゃないのは確かなんだよ」
「それって死んだ奥さんの?」
「いや、もっと色んな人がいる感じなんだよな」
「ふーん」
車は会社に向かって走っていく。

「先輩、やっぱ止めましょうよ、まずいですよ」
午前1時。
新井と香川はマンションの下に立っている。
今日、彼らが引っ越し作業をするはずだった西田と名乗る男のマンションの下に。
「それに、そもそもどうやって入るんですか?」

「ジャーン」
新井はポケットから鍵を取り出した。

「帰り際に玄関にあったから持って来ちゃった」
「先輩、それ、ドロボーじゃないっすか」
「ドロボーのもんだからいいだろ」
「良くないっしょ」
「つべこべ言わずに、行くぞ」
「わかりましたよ」

2人は夜中のマンションに足を踏み入れた。

(つづく)




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