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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#98

佐佐木 政治

深夜にひとり わたしは酒を飲む 窓辺の欄干に積もる 雪を眺めながら
あなたは天上から ひっきりなしに時間の綿をちぎって 投げてよこす
だれに遠りょすることもない空間が すぐ近くで爆竹のように親しく弾ける
どんな新しさも おまえを傷つけはしないのだと

生きているものの尊厳に あなたは積もる雪をつき崩す微風さえ用意して
いまごろ月となって この嵐の雲の上に鎮座しているばかりだ
ぼくらの文明が いかに進んだとしても
あなたの評価は この欄干の雪ほどでもありはしない

おゝ むかしの光が かぎりなくすくっている現代の座礁
あなたは母親のように とやかくは言わないのだ
そこで雪をつむぎ 印だけのやさしさを 酒の中に滴らせてよこす

古い青春がつつましく 降り積もる雪に青い波を残す
文明の灯を はるか遠くに置き去りにしたとしても
ぼくらにはすべてが近い すぐそこのことなのだ


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。



>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<





亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。