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Dish&Talk vol.2 AnDi 内藤シェフ前編

シェフのお気に入り料理と、編集部が今気になるお話を伺う連載。
第二回は外苑前AnDiのシェフ内藤千博さん。料理のテーマは引き続き「癒し」。前編のお話は「サンドイッチとコーラ」「趣味全開のまかない」「インドの洗礼」「アメリカ野菜料理」についてです。


人類を虜にするサンドイッチとコーラ

編集部――内藤シェフの癒し料理はコーラですか。ハーブ、かわいいですね!

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内藤シェフ――夏って、何も考えずにコーラが飲みたくなるかなと思って。こうやって出てきたら、テンションが上がりませんか?

編集部――はい、一気に! すごいスパイスですね。あっ、飲もうとすると、それだけでとてもいい香りです。

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内藤シェフ――ハーブは口に入れなくても香りが入ってきますよね。スパイスは飲みながら食べる感じもいいと思うんですけど、口あたりが気になる人もいるかも。これは広尾の新店舗(7月20日オープン予定)で出すメニューで、まだ少し調整中なんです。

編集部――美味しい。酸味もしっかりあって、甘酸っぱい感じです。

内藤シェフ――その酸味は、レモンとタマリンドです。これは殻つきのタマリンドで、ベトナムで買ってきたものです。

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編集部――シェフ、ベトナムに行かれたんですか?

内藤シェフ――大越さん(AnDiオーナー)と去年、新店舗のお皿とかを見に行ったんです。殻つきのタマリンドは日本ではあまり見ないんですけど、ベトナムでは市場でガンッて山積みにしてあって。

編集部――そうなんですね。少し食べてもいいですか?
あ、フルーティーな感じなんですね。ところで、どうしてコーラを新メニューにしようと思ったのでしょう?

内藤シェフ――アンディではレモンサワーが看板ドリンクなんですけど、それに代わるものはないかなって。広尾のお店はもっとカジュアルで、バインミー(ベトナム風サンドイッチ)も常に出す感じなんです。それで、「サンドイッチと一緒に食べるなら、コーラかな?」と思って。

編集部――サンドイッチとコーラって、どうしてあんなに合うんでしょうね? ハンバーガーとかピザとかも、個人的に、ビールよりコーラのほうが合う気がします。

内藤シェフ――人類が支配されている感じがしますよね(笑)。酸、だと思います。酸と糖がしっかりあって、あとは香りですかね。
ピクルスが入っていないハンバーガー、飽きませんか? 最初は美味しいんですけど、半分くらい食べたら「ん~・・・・」ってなる。そこでピクルスが出てくると、「おお、美味いぜ!」って、復活するみたいな。

編集部――(笑)わかります。そうか、ピクルスも酸があって甘みも入っていますね。

内藤シェフ――はい、スパイスの香りもありますしね。そこらへんの理由で、食べて、飲んでっていう行ったり来たりが人類を夢中にさせているのかも(笑)。
たまにハーブをかじってもらうとまた、味が変わります。今日はレモンタイム、タイバジル、フェンネルの花と、パクチーの花です。

編集部――ハーブは苦みもありますね。ちょっと、お料理みたいでもあります。

内藤シェフ――ただ甘いだけでも酸っぱいだけでもなくて、香りも広がって。ハーブはタマリンドとの相性もいいんですよ。

編集部――スパイスは何が入っているんですか?

内藤シェフ――コリアンダー、スターアニス、クローブ、キャラウェイ、カルダモン、シナモンです。
そもそもコーラって何が入っているのかを調べたら、シナモンはまず入っているんですけど、他はけっこうみんなバラバラで。だったらうちっぽい、アジアの感じが強く出るような組み合わせがないかなあって足していったら、こうなりました。

編集部――本当ですね、一口飲むだけで、一気にアジア気分になります!


コーラの材料と作り方

・スパイス(コリアンダー、スターアニス、クローブ、キャラウェイ、カルダモン、シナモンスティック)
・レモン(アンディでは愛媛の柑橘農家さんの有機レモンを使用)
・タマリンド
・きび砂糖
・水
※分量は内緒でした!

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1 スパイスは風味が出やすいようにつぶす。レモンはスライスする。きび砂糖と水は鍋に合わせて溶かす。その鍋にすべての材料を合わせて火にかけて煮詰める。

2 とろみが出る程度に煮詰まり香りが十分に移ったら火を止め、冷ます。

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3 適量をグラスに入れて炭酸水で割り、氷を入れ、ハーブ(すべて分量外)をのせる。


趣味全開のまかないエスニック

編集部――ところで内藤シェフは、以前の職場(レフェルヴェソンス)のまかないでタイカレーなどをよく作っていたと伺いました。その頃からハーブやスパイスも詳しかったのでしょうか?

内藤シェフ――もともとエスニック料理が好きだったんですけど、そうやって作っているうちに単純に面白いなと思って、いろいろ勉強したんです。珍しいものを上野のほうまで買いに行ったりして。

編集部――上野ですか?

内藤シェフ――ディープなところがあるんです。すごい面白いんですよ、そこ。アジア系の人が多くて、日本語があまり聞こえてこなくて、珍しいスパイスとか、現地から直輸入しているような素材とかが売っていて。

編集部――シェフ、前のお店はフレンチでしたよね? 完全に……。

内藤シェフ――完全に趣味です(笑)。もちろんそのスパイスを買うのも自腹です。僕からしたら、それを実践する場を勝手にまかないでやっていた、くらいの感じで(苦笑)。

編集部――そこまでするとは。

内藤シェフ――気になるんですよね。本とかで見たことがないものがあったりすると、「こいつは一体何なんだ?」とか。
「カスリメティ」って聞いたことありますか?

編集部――知らないです。

内藤シェフ――「フェヌグリーク」って、カレーにけっこうよく使うスパイス(種子)があって、それの葉っぱのところなんです。出回ってるのは乾燥させたもの。最後の仕上げみたいに使うんですけど、たとえば「バターチキンカレーにこれを入れるとグッとプロの味」とか書いてあると、「入れないわけにはいかねえな!」と思って買いに行く、みたいな(笑)。

編集部――(笑)仕上げにちょっと入れるものって端折られがちと思いますが、すごいですね。

内藤シェフ――もっと上があるなら、知っておきたくて。もし同じ素材を使う料理があったときに、なくてもいいやと思うものか、他のもので代用できるのか、これがないと成立しないものなのかを、とりあえず自分で判断したいなって。で、そのカスリメティは、僕の中ではお茶っぽい感じがするなと思って。緑茶をちょっと煎じたみたいな、日本人が好きそうな香りがするんですよね。もしかしたら、茶葉で代用がきくんじゃないかなっていうくらい。面白いなと思って……カレーにお茶っ葉がかかってたら面白いと思いません? っていうのを妄想したりして。あ、すみません、ちょっと、スパイスの話、熱くなってきちゃいました。

編集部――いえ、熱いお話が伺いたいのです。カスリメティは、スパイスのフェヌグリークに似ているのですか?

内藤シェフ――全然、フェヌグリークとは違います。なんて言ったらいいか……今お店にはないんですよね。家にはあるんですけど。

編集部――お店よりマニアックなものが家にあるんですね(笑)。

内藤シェフ――けっこう、家にはいろいろあります。インドとか中国に行ったときに買ってきたスパイスとか。

編集部――インドに行かれたことがあるんですか?

内藤シェフ――行きました。二年半くらい前ですね。ちょうど、前職とアンディの間に、2か月くらい時間があって。それは僕から、「いろいろ見て回りたいんです」ってリクエストした時間だったんですけど。


スパイス天国インドの洗礼

内藤シェフ――知り合いでカレーとスパイスにとても詳しい人がいて、本も出されたりしてるんですけど、その人がたまたま、僕が動けるタイミングでインドに行くっていう話を聞いて。それで、一緒に行けないかなと思って聞いてみたら、「いいですよ」って。

編集部――インドはどうでしたか?

内藤シェフ――いや~……実は僕、お腹を壊してしまって。たぶん、スパイスと油だと思うんですけど。

編集部――えっ、水ではなくですか?

内藤シェフ――水じゃないと思います。つねに胃がムカムカしていて。なので、インドは……腹痛の記憶が一番強いんです(笑)。

編集部――(笑)大変でしたね。インドは初めてでしたか?

内藤シェフ――初めてです。そのときは他にも何人か一緒に行った人がいたんですけど、インドにもう何十回も来てそうな猛者みたいな人ばかりだったんですよ。たとえばひとりは旅慣れた感じの人で、バックパックにペットボトルをさしてて、僕、水かと思ってたんです。でもそれが焼酎だったんですよ、喉が渇いたときのためにって。そういう、強者な感じの人ばかりで。

編集部――(笑)強烈ですね。

内藤シェフ――はい(笑)。向こうではカレー教室みたいなのがあって、(動画を見ながら)こんな感じなんですけど。

編集部――現地の人が料理をしているんですね。何を作ってるんですか?

内藤シェフ――だいたいカレーですね。というか、基本的にどんなものでもスパイスを入れるんです。常にスパイス。だから胃がぶっ壊れちゃったんですけど。インドに行って僕が一番学んだのは、「日本でやるなら緩急が大切だな!」と(苦笑)。向こうではいいと思うんですよ。ずっとやっている文化ですし。
ああ、でも、スパイスの火の通し方はすごく勉強になりました。スパイスを入れる順番とか。

編集部――(現地の人がスパイスを炒めている動画)すごい量のスパイスと油ですね(大量のスパイスに、それが泳ぐくらいの油)。たしかにこれは胃が壊れるかも……以前、香りを生かしたいスパイスは仕上げに加えるっておっしゃっていましたか? スパイスカレーの香りは出来上がりがピークとも。

内藤シェフ――そうそう、だからさっきの、茶葉みたいなカスリメティだと、一番最後にかけるだけで、カレーの熱で香りがぶわーっと上がってくる。煮込みすぎちゃうとそいつの個性が失われちゃうみたいな。そういうのが、本当に勉強になりました。
(スマホの写真を見ながら)これは泊まってたところの、近くにあるスーパーです。スパイスが量り売りなんですよ。ハーゲンダッツの大きな箱みたいなのにガサーッと入れて買うんです! こっちはホテルの庭で、よくわからないフルーツがなっていたりして、ジャックフルーツかな? 他にも「こんなところ絶対日本人行かないでしょ」っていうところも見られたし、メジャーになっていない地方の食文化もまだまだあるらしくて、それも気になります。

編集部――シェフ、めちゃ、楽しそうですね。

内藤シェフ――楽しかったです(笑)。


日本文化を取り込むアメリカシェフ

内藤シェフ――アンディに入る前、2か月のうち1か月はアメリカに行ってたんですよ。

編集部――何をしに行かれたのですか?

内藤シェフ――向こうのレストランで研修していました。サンフランシスコに「プログレス(THE PROGRESS)」っていうお店があって。

編集部――どうしてそこに?

内藤シェフ――(レフェルヴェソンスの)生江シェフがそこのシェフとつながっていて、お店の存在を知っていて。一番最初は、前のお店に勤めていたときに食べに行ったんですよ、夏休みに。海外に行きたいと思っていたし、若い頃って憧れるじゃないですか? 「シェフが言ってたお店、一度行かなきゃ!」みたいな。それで実際に行ったら、すばらしくて。

編集部――どんなところが、でしょうか?

内藤シェフ――パッと見はけっこう豪快な料理なんですけど……日本の食材が好きなシェフで、その後実際に(研修で)厨房に入ってからさらに気づくんですけど、鰹節とか昆布とか、甘酒とかみりんとかを普通に使って。でもそれを和食みたいな感じじゃなくて、スパイスとかちょっと辛みが効いていたり、くっきりとしていて、向こうの味に落とし込んでいるんです。あと、野菜が美味しくて。僕、それまでアメリカって野菜料理のイメージがなかったんです。でも、「むしろ野菜が美味しい!」って。

編集部――野菜は地場のものを使っていたりするのですか?

内藤シェフ――自分で農場を持っているんです。お店からハイウェイで1、2時間行ったところなんですけど、(研修中に)シェフが連れて行ってくれて。そこの農夫さんが「シークレットだぜ」みたいに見せてくれた場所に、野菜もハーブもいっぱいあって、その奥に柿がなってたんです。それが面白くて……「あれはパーシモンか?」って聞いたら、「パーシモンじゃない、フ・ユ・ガ・キだ」って。

編集部――(笑)富有柿!

内藤シェフ――そう。「ああー、知ってます!」みたいな(笑)。それをお店で吊るして干し柿みたいにもしていて。そういう、日本にもちょこちょこ来たり、食べ歩いたりして自分に取り入れている感じのシェフだったんです。
お店の雰囲気も、めっちゃいいんですよ。気取り過ぎてなくて、みんなでワイワイして「ああ、美味いね!」って感じで。それがめちゃ楽しくて……将来自分がお店をやるんだったらそういう感じがいいって思いました。その(初めて食事に行った)ときから、「厨房も見たい、ここに来たい」とずっと思っていて、それで生江シェフにつないでもらって研修したんです。食べに行ってから、1年半くらいですね。

編集部――気持ちを温めていたんですね。

内藤シェフ――だから、(アンディに入る前に2か月の時間ができたときに)いろいろ見たいと思っていたけど、国内のレストランで研修という考えは全くなかったです。その時期に自分に必要なのはそれじゃないって。実際、すごく影響されました。

編集部――(ネット検索して)このお店ですか?

内藤シェフ――ここです。あ、これ! (スライスした鴨が丸いプレートにグルっと並べられた料理写真を見て)僕、この鴨ずっと並べてて(盛りつけていて)、そしたらシェフから「いいね!」みたいなジェスチャーがあったりした料理(笑)。この鴨は、むね、もも、手羽それぞれ調理法が違っていて、コンフィにしたり、蒸したりとか。(鴨が囲んでいる)この真ん中にあるの、何だと思います?

編集部――クスクスのサラダですか?

内藤シェフ――チャーハンなんです。タイバジルとかスパイスとかがバーッと入ってて、めっちゃジャンキーなんですけど、すんげえ美味いんですよ。

編集部――悪魔の食べ物ですね(笑)。

内藤シェフ――これを何人かでテーブルを囲んで食べるのがすっごく楽しくて。シェフも気取ってなくて、「料理大好き!」みたいな雰囲気もいいんですよね。プログレスの料理は、どれもヒネリが効いているけど難しくないんです。考えずに「美味い!」と感じられるけど、それが他の店にない組み合わせだったりして、メリハリの効かせ方もうまくて。「こんな料理作りたいな!」と思いました。と言っても、今のアンディの料理とは全然違うのですが(笑)。

編集部――でも、吸収したことがシェフの中で生きているのでしょうね。

内藤シェフ――アメリカではその後、シェ・パニーズにも研修に行ったんです。


Diah&Talk Vol.2 AnDi内藤シェフ前半 終わり。後編「シェ・パニーズで見た農家とシェフの関係」に続きます。

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#AnDi #アンディ #内藤千博 #レストラン #ベトナム料理 #フランス料理 #クラフトコーラ #レシピ

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