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Dish&Talk vol.2 AnDi 内藤シェフ後編

シェフのお気に入り料理と、編集部が今気になるお話を伺う連載。
今回のシェフは外苑前AnDiのシェフ内藤千博さん。料理は「コーラ」。後編のお話は「シェ・パニーズでの研修」「カチッとはまる料理」「パパイヤとすごいバジル」についてです。
※前編のお話とコーラの作り方はこちら

シェ・パニーズで見た農家とシェフの関係

内藤シェフ――シェ・パニーズでの研修は1週間だけだったんですけど、やっぱり、野菜が美味いです。すっごい美味しいですね。そこも畑を見せてもらって。

編集部――シェ・パニーズも、野菜は自分のところで作っているのでしたか?

内藤シェフ――基本的な野菜は自分のところだと思います。お肉とか、ミルクとかは他の農家さん仲間からですかね。

編集部――内藤シェフは農家さんと関わりが深いお店を選ぶんですね。

内藤シェフ――そうですね。その関係性はすごい……。シェ・パニーズで畑に連れて行ってくれた人は、野菜を運んで畑とお店の行ったり来たりを何十年もやってる、みたいな人なんです。店から畑に行くときは、店で出た生ごみを全部持って行って、それを向こうでたい肥にして、その代わりに野菜を店に持ってくるみたいな。それを週に何度か。
そこの農場主とシェ・パニーズの現場シェフが常にやりとりをしていたんですけど、僕がいいなと思ったのが、シェフからあまり細かくリクエストはしないと言っていたことで。たとえば、「来週どんな野菜が出てくる?」って聞くんですって。で、「ズッキーニとなすとトマトが出てくるよ」って言うと、「じゃあそれを使って来週のメニューを考えるよ」って。その関係性ってすごいなと思って。

編集部――内藤シェフは恐らく、以前から農家さんとのおつき合いはあったかと思うのですが、シェ・パニーズでは感覚が違ったのでしょうか?

内藤シェフ――「業者さんとそのお客さん」みたいな関係ではまったくないです。言いたいことはちゃんと言って、そこにお互いすごくリスペクトを感じます。日本では……難しいですけどね。東京で、これだけ飲食店があってそのスタイルでお店をやるのは難しいと思うんですけど。

編集部――シェフ、今も畑に行かれたりしていますよね?

内藤シェフ――おつき合いのある農家さんは、純粋に、僕らが行くとうれしく思ってくれているみたいです。僕らからしたら、わざわざ時間を割いてもらって悪いなあっていう気持ちもあるんですけど、後から人づてに「普段はあんなに喋らないんだけど」とか聞いたりすると、ああ、喜んでくれてたのかなと。

編集部――そこからもっと近づけるようになるといいですね。

内藤シェフ――そうですね。今はまず、そういうやりとりをできるのが心地いいですし、農家さんが「よりいいものを」って思ってくれているのも感じて有難いです。そこから得られるアイデアもありますし。


カチッとはまる料理

編集部――このあいだ、取材で農家さんに何日かお世話になったのですが、素材をつくって毎日触れている人の間近にいたら、お料理で素材をいかすのはとても難しいのだろうと、改めて思ったんです。今までさんざん、「素材をいかした料理」なんて原稿を書いてきてますけど。

内藤シェフ――「素材をいかす」って、何だろうなって思います。そのまま出すのか、とことん手を加えるのか。わからないですよね、それに対してベストなことって。難しいです。

編集部――たとえば歌手の人だったら、うたう時に、自分が楽器で、歌とひとつになるみたいな感覚があるんじゃないかなと思っているのですが、料理人さんは、そういう感覚はあるんでしょうか? 作っているものと、自分がひとつになるみたいな、素材にぐっと入り込んで表現する、みたいな。

内藤シェフ――うーん……僕がたまにあるのは、ある野菜とかフルーツで料理を考えよう思ったときに、試行錯誤するじゃないですか? いかにその素材にフォーカスしようかと考えたとして、「こんな感じかな」って思っていたのが、「でも、こっちのほうがいいかも」って組み合わさると……なんて言うのか……それが閃いた瞬間に、全部の答えが決まっていたものを見つけた、みたいな感覚になるんです。
クイズがあって、近いところまで行くけど違って、だけどさらにやってみると「これしかない」っていう組み合わさり方をする瞬間。形にはなってもイマイチわくわくしないホワホワ〜ッて感じのところから、一歩踏み込むとカチッと、「これ以外足すも引くも一歩もできないな」になるときがあるんですよ。

編集部――ピザマルゲリータの組み合わせみたいな? もっと複雑だろうし、表現が合っているかわかりませんが……。

内藤シェフ――(笑)「こいつにはこれしかない」みたいなのが。それは味だけじゃなくて、ストーリーも組み合わさったり。たとえばレモンを使った料理で、その畑を見に行った時に感じたことが、料理を食べてもらうことでお客さんに伝えられる、とかが。百発百中とはいかないんですけど、あの感覚……「これは、この素材をつくった人に食べてもらいたい」というときがあります。


パパイヤとすごいバジル

内藤シェフ――農家さんと言えば、これから電話をするんです。「いろんなバジルができてきたから、どう?」って言われていて。それは70歳の茨城の農家さんで、僕がずっと「こういうのが欲しい」って言ってたら、「え~、もう、しょうがないなあ~……植えとくよ!」って言ってくれるような人で。

編集部――どういうのが欲しいって言ったんですか?

内藤シェフ――向こう(タイ)のバジルとか。他にも「パパイヤとかもいいっすね!」って言ったら、「あるよ」って(笑)。

編集部――(笑)まさかの!

内藤シェフ――何のために植えたのかわからないんですけど近所になってるらしくて。「(追加で)植えるよ!」って、今年2、3本植えてくれてるはずです。

編集部――それは、たのしいですね。

内藤シェフ――はい。そういう関係性が、形になってきた。そのおばちゃん、すごいタフなんですよ。(コロナにより)レストランが営業自粛していた間も、自分でインスタを上げて、野菜の受注発送をこなしてたりして。「むしろ忙しかったわー」って(笑)。(営業自粛中)うちで販売していた生野菜も、そこのおばちゃんたちの野菜がメインなんです。畑に行きたいって言ってるんですけど、「忙しいから来なくていいよ!」って言う人で。「あんたは料理をするのが仕事。私は野菜を作るのが仕事。わかった!?」って。

編集部――(笑)

内藤シェフ――年明け頃には「4月になったらタケノコが出るから行きたいなあ」みたいな話をしてたんですけど……来年ですかね、タケノコは。今の季節はハーブとか夏野菜とかが出てきてるから、それは行きたいなと。
それと、もうひとつ、いいですか? 農家さんの話。また別の農家さんで、この話はぜひ載せてほしいんですけど(笑)。ファーマーズマーケットに出店していたご夫婦で、孫みたいに接してくれる人達で。そのおばちゃんも「どういうのがあったら嬉しい?」って聞いてくれて、「バジルとかあったら嬉しいです」って言ってたら、バキバキの(とても香りの高い)ホーリーバジルをつくってくれて。

編集部――「つくるよ」って言ってつくれるって、やっぱりプロの方ですね。

内藤シェフ――はい。色々つくっている方で、おばちゃんがすごく元気で、おじちゃんは奥さんに寄り添う感じの人なんですけど。それで、毎週こんな(抱えるくらいの)量のバジルを買ってたんです。

編集部――そんなにいいバジルだったんですか?

内藤シェフ――めっちゃ香りがよくて。おばちゃんに「すごい(いい)じゃないですか、もっとください!」って言ったら、「来週もっと持ってくるから!」って、たくさん持ってきてくれるようになって。
ただ、もともとバジルをつくっていなかった農家さんなので、いいのはできるんですけど保存方法がわからないって。しかも夏じゃないですか? ファーマーズマーケットだと、屋外だからどうしてもしおれてきちゃいますし。
それで、水にさしたり、クーラーボックスに入れたり、新聞紙にくるんだりするといいんじゃないか、みたいに情報交換しているうちに、どんどん状態がよくなっていって。

編集部――すごいですね(笑)。

内藤シェフ――それで、あるとき過去イチでいい状態のときがあったんです。「どうしたんですかこれ!?」って聞いたら、「これね、昨日、お父さんと畑で刈ったんだけど、そのままだとしおれちゃうと思って」って。
次の日の朝イチで東京に来るので、前日には刈らなくちゃいけないし、量もすごいから冷蔵庫に入らないんですよ。そのバジルをどう保存しようかと考えた結果……ご夫婦の家にクーラーのきく部屋がひとつだけあるみたいなんですけど、そこにバジルを寝かせて、自分たちは廊下で寝たって。

編集部――(笑)バジルにクーラーを!

内藤シェフ――っていうのを、暑い中、めちゃくちゃ汗かきながら話してくれるんです。

編集部――(笑)孫みたいに思ってるシェフがすごい喜ぶって想像したら、それだけでものすごく嬉しいんじゃないかなと思います。でも、熱中症にならなくてよかったですね。

内藤シェフ――すっごい有難いし、ちょっと申し訳なかったなって思うんですけど、僕、大好きな農家さんなんです。しかも、直接クーラーがあたると寒すぎるだろうって、部屋の中でうまく角度を変えながら(バジルの気持ちになって)いろいろ試してくれたらしくて、「いい場所があったのよ!」なんて言って(笑)。

編集部――(笑笑)

内藤シェフ――この農家さんも、営業できなかったときも野菜とか送ってくれたりして。頑張ってね、みたいな感じで。……有難いな、癒されてるな~と思って。
この話は、お客さんにも話すと「このバジルそんなにすごいの!?」ってなります。ちょっと極端な話ですけどね。
おばちゃんはちょくちょくメッセージもくれて、畑の様子を写真で送ってくれたりするんですけど、そのメッセージが明るいんですよ。

編集部――もしかしたら、その農家さんのハーブもこのコーラに入るかもしれないですか?

内藤シェフ――はい。それに、このエピソードを(記事に)のせてもらえたら、僕はそれを伝えて見てもらうことができる。おばちゃんは、シゲミさんです。

編集部――おじちゃんは?

内藤シェフ――いつも「お父さん」って呼ばれているから知らないんです。

編集部――(笑)

内藤シェフ――最初に話したのは、キヌエさん。パパイヤを植えちゃう、タケノコも掘って自分で茹でちゃう、インスタも使いこなしちゃう人。……今(6月下旬~7月)がピークかもしれませんね。アンディで、ハーブがこれだけ揃っているのも。夏野菜も。

編集部――いいですね。お料理をいただきに、またぜひ伺わせてください。

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Fin.内藤シェフ、ありがとうございました!

AnDi
東京都渋谷区神宮前3-42-12 1F
http://andivietnamese.com/


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