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ビジネス思考からデザイン思考に切り替えるために気をつける4つのこと

先日、他の職種の方と新規事業についてディスカッションする機会があり、デザイナーとして自分の考えを話していると「なるほど、デザイン思考ができる人は違う!どうやって学んだんですか?」という声をいただきました。

僕は営業などのビジネスサイドからデザイナーに転向したのですが、改めて考えてみると、自分が普段何気なくやっていることでも、他の職種と比較するとかなり違った考え方でものごとを進めているなと思いました。

デザイン思考が重要視され始め、多くのビジネスマンやチームがデザイン思考を勉強し、「でも通常の考え方との違いがいまいちわからない」という話を時々耳にします。デザイン思考をプロジェクトに取り入れるにあたって、プロセスなどの知識を学ぶことも重要ですが、それよりもマインドセット(心持ち)を受け入れることがより重要である、と僕は思っています。デザイン思考を取り入れたいチーム全員がマインドセットを理解し、大切にできれば、大して知識を詰め込まなくても、デザイン思考を使いこなすことができると思います。

ここでは、ビジネス思考と比較して、デザイン思考はどのようなマインドセットを持っているのか、ということについて書いていきたいと思います。

デザイン思考とは

まず、デザイン思考とは何かということについてです。様々な解釈があるのですが、一言で言えば「ユーザー視点で課題を解決するためのフレームワーク」というところだと思います。

次に、デザイン思考による課題解決のプロセスですが、この辺りは他の書籍や参考サイトがあるのでそちらを参考にされた方が良いと思います(IDEOのDesign Thinking 、日本語なら 【やっぱりよくわからない】デザイン思考ってなに?AppleやGoogleも採用!今話題の「デザイン思考」をわかりやすく解説 など)。

共通項を拾っていくと ①インタビューなどのリサーチを実施する ②課題を洗い出し、重要な課題を定義する ③その課題に対して打ち手を洗い出し、良いアイデアを集中して磨き上げる ④プロトタイプを作成し、ユーザーに出して検証する となります。この流れを繰り返して課題を解決するのが、デザイン思考での課題解決のプロセスです。

これだけ見ると「結局みんなやってる問題解決の手法では?」「デザイン思考っていうほど特別なものではないのでは?」と捉えられると思います。確かにこれだけ見ると、僕も就活のグループワークで勉強したり営業1年目に鍛えられたような気がします。

ただ、大きな違いは定義やプロセスではなくマインドセットです。以下で違いについて詳しく考えたいと思います。

(注:デザイン思考と対比する材料としてビジネス思考を描いているため、すべてのビジネス思考がこの形であると言っているわけではありません。言い換えれば、優秀なビジネスパーソンは無意識にデザイン思考を取り入れていると思います)


話の中心にはいつもデータではなく「特徴的なユーザー」を置くデザイン思考

通常ビジネスにおいてはデータを中心に考えます。例えばユーザーの離脱率に対して施策を打つ場合、マーケではそれぞれのページの離脱率を分析して問題部分を特定し、さらにヒートマップなどのツールを駆使して細かい把握に取り組みます。

その際、ユーザーの心理状態など細かい部分に触れることはなく、おそらく意識することもありません。が、議論しているメンバーの根本では、ユーザーはひとりの「平均的なユーザー」として「多くのユーザーはこのような動きをしているだろう」と考えられて議論が進みます。

一方、デザイン思考においては、インタビューなどによって特定した複数の「特徴的なユーザー」が中心となります。これは「F1層」のようなものではなく、

都内の有名私大を卒業後、新卒で営業として入社した会社に5年勤続している。顧客を増加させるため、組織のリーダーとして3人のメンバーをマネジメントしている。5つ上の上司がおり、仕事が早いのでとても尊敬している。仕事上、新しい情報を獲得し続ける必要があり、仕事を始めると同時にニュースはチェックしているが、クライアントの業界の最新情報をすべて確認することはできていない。週末は遊びに出かけたいが、イベント情報は友人や妻から教えてもらってそれに参加する程度。

のように、ユーザーの現在触れているものや人、そしてどんなことを考えているかまで触れて、メンバー全員が同じ像を思い浮かべられるほどまで考えます。

これは、デザイン思考の考え方として、問題を特定するためには、ユーザーの行動だけでなく、その行動の背景にある感情を想像しながら問題を考えていく必要があるためです。

先ほどの離脱率の話を使えば、ビジネス思考では、課題のフローに特化して課題の追求、解決を行います。結果として素早く数値をあげることもありますが、原因はよくわからないが数字が下がった、ということもあります。

一方デザイン思考の場合は、特徴的なユーザーの感情を想像し、そこから解決を目指します。そのため「AさんとBさんはここでは離脱していない」「Cさんの場合、ユーザーが普段使用しているアプリと比較してフローの相違があって混乱していた」など、課題のフロー以外の部分に本当の課題があったと気づくことができます。

デザイン思考では、このように、課題解決の際のマインドの中心には、データではなく特徴的なユーザーが常にいます。

実際にプロジェクトで進めるにあたって、このような特徴的なユーザーを立てることも大切なのですが、もっと重要なのはチーム全員がその名前を使ってプロジェクトを進めていくことです。せっかく作っても、チームの一部しかそれを使用しておらず、結果使われなくなったということはよくあります。「Aさんはこういう行動取らないよね」「Bさんだったらそれ嫌かもね」というように、ユーザーの名前でチーム全員が話せるようになると、デザイン思考がチームに広まりつつある、と考えられると思います。

なぜ?なぜ?と問い続けるデザイン思考

ビジネス思考の中心は「いかに成果を最大化するか」です。できる限り効率化すること、できる限りコストを落とすことなどでそれを実現します。

一方デザイン思考の中心は「自分たちは何をするべきなのかを決める」ことです。成果を出すために取り組む前に、「本当にする必要があるのか?」を考えるのはデザイン思考です。

そのため、デザイン思考を持って課題解決に取り組む場合、常に前提を疑い続ける思考が必要になります。なぜこのプロセスをしているのか?なぜユーザーはこんなことに関心があるのか?みんなが当たり前と思っていることを疑い続けることで、本当にすべきことにたどり着くことができます。

例えば人事での話です。「新卒は最初に内定をもらった会社に6割以上の人が入社する」という話があります(これは本当)。ここでビジネス思考でこの話を捉えると「新卒採用はスピードが命!スピードを上げるためには…」と考えていくと思います(成果の最大化)。

一方でデザイン思考においては「なぜ6割以上の人が入社するのか?」という問いを立てます。「新卒にとっては1社目に運命を感じやすいから?」「1社内定もらって安心しちゃう人が多いから?」「選考が遅い大企業よりもベンチャーで決める人が多いから?」色々な仮説が生まれてくると思います。
この「なぜ?」を掘り下げて、自分たちのチームが求める「特徴的なユーザー」と重ね合わせることで、新しいブレイクスルーが生まれることがあります。

どんな些細なことに関しても「なぜ?」の気持ちを持ち続けること、それがデザイン思考を取り入れるために必要なマインドです。

時には「こんなにいろんなところに引っかかってて効率が悪いなあ」「そんなこと考えないで先に進もうよ」と思うことがあるかもしれません。しかし、みんなが「当たり前」と思っているところに疑問を持つことによって、デザイン思考でしか生まれない課題解決の糸口を見つけることができるのです。

チームにおいては、なぜ?と考える時間をきちんと確保して、疑問を丁寧に話し合っていくことができるチームは、デザイン思考のできるチームと言えるのではないかと思います。

何度でも立ち戻るデザイン思考

通常のビジネス思考では、仕事を進めていくにあたって、いわゆる「落とし所」を考えておき、その落とし所に向かってどう資料を作成するか、ということが求められます。ゴール志向とも呼ばれるかと思います。そしてそのプロセスが崩れることや手戻りがあることは、プロセス設計時に何らかの問題があったものとして扱われる(反省ポイントとして捉えられる)ことが多いです。

デザイン思考でもゴールを見据えて作業をすることは大切ですが、ユーザーのインタビューを中心にして課題を特定するため、プロジェクトが最初の想定と違う方向に進んでいくことはよくあることです。また、先述したように常に前提を疑い続けるので、プロジェクトの途中で根本の問いに気づくこともあります。

そんな時、喜んでプロセスをやり直すのがデザイン思考ですペルソナを立て直したり、インタビューを新しく実施したり、プロトタイプをゼロから作り直したり。「何か違う」と感じたら、その違和感を探って何度でも立ち戻るのがデザイン思考です。

一度作ったものを壊して作り直すのは本当にエネルギーが要ります。時間もかかるので、決まったことをやり直すことに眉をひそめることは多いことでしょう。

でも、「プロセスをやり直す=想定と違うアプローチをする」ということは、それだけで今まで気づかなかった解決策にたどり着こうとしている、と考えることもできます。このようなマインドを持って、作ったものを壊し、作り直す勇気を持つのがデザイン思考ですし、チームでプロジェクトを進めていくにあたっては皆がそれに好意的であることが求められるでしょう。

ユーザーに聞いて判断するデザイン思考

導き出した解決策の効果を説明するにあたって、ビジネスで最も力を発揮するのは、データです。市場環境、ユーザー属性など、より多くのデータを持っていれば持っているほど、解決策の正しさを説明することが可能になります。

デザイン思考の場合も効果の検証にあたってデータは重要ですが、ユーザーの感情を基に解決策を作っているので、解決策を裏付ける十分なデータがないことが多いです。そのため、デザイン思考においては、正しい判断かどうか迷ったら、まず作ってユーザーに聞いてみることが、効果検証の最も良い方法であると言えます。

もちろん完璧なものを作る必要はなく、ユーザーに聞いてみたい部分だけを抽出して、適切な形式で作って聞いてみることで、的確にかつ時間をかけずに試してみることができます(ただし、試したいユーザー像が明確でなかったり「なぜ?」の仮説がないものは試しても良いか悪いか判断できないのでやらない)。

ビジネス思考の場合は、正しいもののみを作ることがほとんどですが、デザイン思考の場合はプロジェクトチームの期待を大きく外すプロトタイプを作ることもあるので、思考の転換には結構勇気が要ります(完璧主義だと辛い)。しかし、失敗を許容し、常に「どうやったらユーザーの前に素早く出して確かめられるか?」を全員で考えられるチームこそ、デザイン思考が浸透しているチームと言えると思います。

まとめ・デザイン思考の人が持っている力とは

以上、ビジネス思考と比較したデザイン思考の「マインドセット」としての違いでした。まとめると

①「特徴的なユーザー」を中心に考える

②いつも「なぜ?」と問い続ける

③やり直すことを恐れない

④迷ったら作ってユーザーに聞いてみる

です。簡単なようですが、これらを受け入れるのには相応の訓練が必要です。でも、これらのマインドをメンバーみんなが持ってプロジェクトを進めていけば、デザイン思考がより浸透し、皆が楽しみながら新しいアイデアを出していけるチームに変わっていくことと思います。


最後に余談ですが、「じゃああなたたちデザイナー達は、他の人と比べてどんな力を持ってるの?」という問いに、今回の記事の内容を踏まえて答えたいと思います。

このようなマインドセットを持っているデザイン思考の人間が持っている人が他者に比べて秀でている力、それは「曖昧さを受け入れる力」だと思います。

デザイン思考は定性的なデータをとても大切にするので、思った通りのデータばかりに出会うことはありません。また、ユーザーインタビューをしながら行動の背景に注目してユーザーを特定していくため、具体的な話を抽象化して捉え、頭の中でくっつけたり離したりする必要があり、「本当にこれであっているのかな?」とモヤモヤしながら進めていくことがあります。それはとっても気持ち悪くて、特にビジネスマンだと絶対に陥りたくない状況だと思います。

しかしそれは、新しいものを世に生み出そうとする中で当然出てくる葛藤です。「曖昧さを受け入れる忍耐力」「その中で確かなものと不確かな部分を見極め、不確かな部分を仮説を立て検証する力」「仮説が間違っていた時にそれを壊して新しく創造する力」が、デザイン思考ができる人がより強く持っている力である、と思います。

デザイン思考で新しいものを作っているときには、単純な因果関係ですぐには語ることができない時も多いです。だから、もし周りのデザイナーが一生懸命悩んでいるときは、曖昧さと戦っているときなので、そういうときは、優しくしてあげてくれると嬉しいです。

参考書籍:21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

それではまたよろしくお願いします!

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