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【ミステリーレビュー】謎解きはディナーのあとで/ 東川篤哉(2010)

謎解きはディナーのあとで/ 東川篤哉

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160万部以上を売り上げた東川篤哉による人気シリーズの1作目。

「宝生グループ」総帥の一人娘で新米刑事の麗子と、執事でありながら圧倒的な推理力を持ち、毒舌を吐きながらも麗子をサポートする影山によるコメディタッチの短編集。
ドラマや映画、舞台にもなっており、ミステリーの枠を超えての大ヒットとなった。

古くはホームズや明智小五郎、ひと昔前であればコナン君や金田一少年が担っていたミステリーに興味を持つきっかけになるキラーコンテンツ。
イチゼロ年代において、そこに加わったのが、この麗子と影山のコンビではなかろうか。
普段からミステリーを読まない層を意識して書かれたということで、求心力のある不思議な事件に、安楽椅子探偵による鮮やかな解決。
後味の悪さは極力排除し、痛快さを前面に押し出している。
個性の強いキャラクターによるコミカルな掛け合いにも力点が置かれており、あえてライトな作風にしたことが支持者を獲得した要因だろう。

一方で、斬新なトリック、見事な伏線によるどんでん返し、高度な心理戦などは見られず、既にどっぷりミステリー沼に浸かっている読者には、物足りないというのも事実であろう。
ある程度バリエーションは意識されているのだが、それでも単調に感じてしまう部分も多く、もう一歩深みがほしいところだ。
事件の内容については作品コンセプトだから仕方ないにしても、人間関係の進展はもう少しあってもよかったのでは。

兎にも角にも、重要なのはヒットしたこと。
本作を読んでミステリーの面白さに目覚めた読者も多いはず。
児童書版も発刊され、ミステリー界隈の読者基盤の拡大に貢献した意味では、重要な1冊。
子供の頃に読みたかった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


キャラクター設定についても、事件の背景についても、リアリティはそこまで重要視せず、デフォルメ化している印象。
良くも悪くも、殺人事件であるにもかかわらず悲壮感はなく、パズルとして割り切って読んだ方が良さそうだ。
スマホアプリよりは骨のある謎を、重厚なミステリー小説よりは軽いノリで読みたい、という読者層に刺さったのは、十分に理解できる。

また、本格ミステリーとしては物足りないとはいっても、謎が簡単にわかってしまうというわけでもない。
安楽椅子探偵という構成柄、基本的には、消去法で容疑者を消していけば犯人がわかるようになっているのだが、ヒントがコミカルなやりとりの中に隠されてしまうので、ある種のカムフラージュに。
なるほどね、という一定の爽快感は得ることができる。
「花嫁は密室の中でございます」のような影山が登場人物として参画するパターンや、「死者からの伝言をどうぞ」のような多重に絡まった糸を解くようなシナリオも見られ、ここからバリエーションが増強されているなら、続編も読んでみようなかな。

通勤中など、短い空き時間の中でさらりと読むにも適したボリューム感。
重厚なミステリーに読み疲れしたときの箸休めに。


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