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【ミステリーレビュー】叫びと祈り/梓崎優(2010)

叫びと祈り/梓崎優

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梓崎優のデビュー作となる短編集。

2011年にミステリーランキングの上位ランカーとなり、話題となった1冊。
雑誌社に勤める斉木が、取材や旅行で訪れた世界各国で謎に巻き込まれるという連作推理小説である。
砂漠のキャラバン、スペインの風車の丘、ロシアの修道院、アマゾンの奥地...…
従来の価値観では想像も出来なかった設定でのミステリーが展開され、蓄積してきた解法パターンがまったく役に立たないという経験を、久しぶりに体感したなと。

文庫版の帯に記載されていた、"今までにない世界観と斬新なトリック"というコピーは、ややミスリードかな。
トリックはあまり印象に残らず、その事件が起こった背景、殺人の理由に焦点が当てられている。
衝撃を受けるとすれば、トリックの斬新さではなく、明らかに動機の部分だ。
国境を飛び越えた異国では、こちらの常識は常識ではない。
それを痛感する事件の数々に、面白いぐらいに頭がクラクラしてくる。
もちろん、"今までにない世界観"については、全面的に同意であるのだが。

この作風で、長編も読んでみたい。
諸外国の文化や風景が丁寧に描写されていて、一度入り込んでしまえば夢中になってしまうのだが、砂漠にしてもアマゾンにしても、あまりに生活様式が違いすぎると、入り込むまでに時間と気力を要する。
短編だからといってサクサクと読んでしまうと、かえってとっつきにくい気がしてしまうのだ。
連作である意味は理解する一方で、ひとつひとつをもう少し掘り下げて、じっくり、ゆっくり読めたい作品であった。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


最終章の「祈り」についてだけ、他と構成が異なっている。
連作であるため、どこかで交わるはずなのだが、なかなか見えてこないのでやきもきしてしまうかもしれない。
中盤以降で情報が整理されてくると、今度は、これまでの冒険譚が劇中劇だった可能性も示唆。
メタ視点での考察も必要になってくるのだ。
この章については、なかなか評価が難しいところであろう。

とはいえ、砂漠のど真ん中での連続殺人や、アマゾン奥地での部族崩壊など、ホワイダニット的な観点での短編ミステリーとしては上質。
文化や信仰の違い。
すべてはそこに帰結し、謎が解けても"騙された!"とはまったく思わない。
知っているか、知らないか。
根付いているか、根付かないか。
こんなにも納得感のあるミステリーも、なかなかないのでは。

やや斉木のスペックがチートすぎる気はしないでもないが、単身で世界中を飛び回る設定が必要だから、やむを得ず。
もっとも、こんなに事件に巻き込まれるジャーナリスト、絶対に一緒に旅をしたくはないけれど。

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