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点燈師たち 【小説】

例の如く、現代詩手帖に応募して落選したもの。イメージはけっこう気に入っている。

 宙のブランコに揺られる少女は、ゆらゆら足を遊ばせていたのを、ふいに天辺近くまで漕ぎ上がると、手を伸ばして白く光る月を捥いだ。少女の手に吸い付くように縮んだ天体を、そのまま銀色のワンピースのポケットに仕舞う。ポケットは今宵の月ぴったりに誂えられていて、すとんと収まった星は光度を落として眠りにつく。

 漕ぐのをやめたブランコが次第に行き来の幅を狭めていく。あちらから少女とそっくり同じ顔をした子どもが歩いてくるのが見える。歩くと言っても地面がないので、宇宙空間に散りばめられた星屑を足掛かりに跳ぶような格好で、滞空時間が長いため動きはやけにスローモーションだ。

 月を手にした少女は適当なところでブランコから離れ、後から来た少女と交代した。ふたりは双子の姉妹で、月を司る銀の少女と太陽を司る金の少女、その服の色によってのみ見分けることができる。

 金色のワンピースを纏った太陽の少女は、ポケットから太陽を取り出して宙へ放り投げた。太陽は放物線を描いて飛んでいって、宙の中の自分の居場所へするりと嵌る。初めは淡く発光している程度だったのがやがて輝きを増し、眼下の半球の大地を赤々と染め上げる。
 太陽の少女はブランコを漕ぎながら、月の少女は家代わりにしている星間メリーゴーランドへ帰る道すがら、それを眺める。片割れが天体の守り番をしている時、非番の少女はひもすがら、よもすがら、回っている。月の少女はポケットを縫い直し、太陽の少女は歌を歌って。当番の時間になると、愛馬を下りてブランコに乗りにやって来るのだ。

 少女たちが代わる代わる温めるブランコは、宇宙空間に縫い留められた二本の糸に支えられている。糸は大層長いけれど、空のずっと高いところを始点としているので、ブランコは太陽と月を戴く大地のどんなに背高な木より遥かに上方を行き過ぎ、住民たちは誰一人としてその存在を知らない。


ヘッダー画像はジェシー・ウィルコックス・スミス「子羊はいつも遊ぶ」

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