久々にフリーペーパー感想記事です。
ゆくゆくは漫画系の記事と、その他の記事を２：１か３：１くらいにしたいなと思っています。今模索中。
何にせよ漫画もそれ以外も書き留めておきたいことが色々あってどうにも手が回りません……うぬぬ。

ご存知、資生堂が出しているファッション・カルチャー系フリーペーパー。
この１個前の号も以前取り上げています。

今号のテーマは「home」で、最初の詩や、写真と文章による作品ページ、小説、今月のことばが家にまつわるものでした。
いつも小説とかまでテーマに沿ったものを掲載していたかしらん、と前号の感想を見返したら、テーマについての記述がありませんでした。
書いておけよ、自分！
今回は翻訳作品だったので、テーマに合わせた翻訳作品を探してくるなんて手が込んでいるというか気合が入っているなあなんて思ったり。

いつもデザイン性が高い写真や、ためになるカルチャー記事など盛り沢山な花椿ですが、今号印象的だったのはこれらの文章でした。

・歌人・穂村弘の、こんなところで。　第37回　宮本信子
宮本さんは伊丹十三の奥さんで、伊丹監督の映画に「お葬式」以降すべて出演、「マルサの女」で主演女優賞を受賞した実力派の女優です。
この対談は基本的に穂村弘の問いかけに答えていくスタイルで、今回は途中お悩み相談とか健康相談になったりとか。
ゆるゆる続いていくおしゃべりは、宮本信子の言葉遣いによるところが大きいのかなと思います。やわらかく親しみやすい、それでいて内なる芯を感じさせる堅実な喋り方。
読んでいてとても心地よく、ずっと読んでいたい気分になります。

あとご夫婦で本当に良い関係性を築いていたんだなと思わせる、伊丹十三エピソードも盛り込まれていて、そういえば伊丹監督のエッセイで読みたいのがあったのだったと思い出しました。（「ヨーロッパ退屈日記」）

全文読んでもらいたいくらい素敵なのですが、それはできないのでちょっとだけ抜粋。

こういうやりとりがずっと続いていく。
こんな喋り方ができるようになりたいな。
「お葬式」は未見なのですが、何やら画期的な映画だそうなので、今度観てみようと思います。

・きれいの顕微鏡　香りのエキスパート
調香師の方にフィーチャーした回で、平安時代の練香「黒方（くろほう）」というものが出てきました。以前資生堂がこの香りを再現した商品を販売していたそうで、どんな香りだったのかとても気になります……。
平安時代の香りが現代に蘇る、というシチュエーションにもロマンがありますし、「氷の張ったみなものような、しーんとした気持ちになる匂い」という表現のニュアンスも素敵。
静かに香りを聞いている平安貴族たちに思いを馳せると、過去からひたひたと香りが寄せてくるような気がします。

・小説　オープンハウス
ブレット・ロット・著、岸本佐知子・訳

お金に余裕のない夫婦が、見栄を張って高級住宅街の物件の内見をする話です。
お金がなくてもそこそこ上手く生きているつもりで立ち振る舞ってきた二人だけれど、いざ欲しいものに絶対に手が届かないことを突きつけられると、深い悲しみが襲います。
多分暮らしの中でもずっと小さな諦めを積み重ねて生きているんだろうとか、二人の嘘に全く気付かない不動産屋の対応とか、これまでは外から眺めるだけだったのに今回は内見しようと思うほどすばらしい家を見つけてしまったこととか、二人の生活を思うと切なくなります。

全体に細やかで簡潔な描写が生み出す雰囲気が、主人公の心の機微を伝えていて、上手い文章でした。
ただ、アメリカの文化や習俗がある程度分からないと、登場人物たちの背景を正確に理解するのは難しいと感じました。
わたしは高級住宅に住むアメリカ人も、ドライブで高級住宅を見に行って「もしお金があったら」と夢想するアメリカ人も、肌感覚では分からないので。
ナチュラルに出てくる様々な建築様式が特に、理解の及ばない部分が多かったように思います。ギャリソン様式、ケープゴット風、チューダー様式の違いとか。

珍しく、ヴィジュアルコンテンツより文章にばかり心惹かれる内容でした。
最新号はまだもらえていないので、どこかにもらいに行かなくちゃ。

作業用BGMメモ
youtubeの検索に引っ掛かってきたのを発端に、懐かしのボカロ渡り歩き。
ずっと忘れてたけど、良曲だなとしみじみ。
Heavenz「テロメアの産声」→Heavenz「サイレント・マジョリティ」→sasakure.UK「ロストエンファウンド」→椎名もた「Q」