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コロナ禍の労務Q&A

社会通念上の労働組合の立場から、コロナ禍の労務問題に関して列挙します。しかしながら、法律問題はケースバイケースが往々にしてある事をご理解頂きながらご参照頂ければと思います。


●新型コロナ感染症に関する労働問題①
~在宅勤務による賃金減額~

在宅勤務への変更による賃金減額についてです。会社が「在宅勤務中は会社に出社出来ないのだから賃金を減らす」と言ってきた場合ですが、在宅勤務は会社も了解の上でのことですので、賃金を会社都合で一方的に引き下げることは違法です。

【知っておきたい事】
労働者と使用者の合意によって、賃金を変更する事は出来ますが、仮に一度、在宅勤務中の賃金減額に形式的に合意をしてしまっても、これを受け入れる労働者が自由な意思に基づいて合意したものと認めるに足りる合理的理由が客観的にないと、その合意は労働者の真意に基づかないとされ、変更後の労働条件が無効であるとされる場合もあります。


●新型コロナ感染症に関する労働問題②
~勤務時間の変更~
一方的な時差出勤命令についてです。会社から時差出勤を命じられ、例えば、帰社が遅くなり身体的負担が重くなる等の状況も想定出来ます。そもそも始業時間や終業時間は労働契約の内容ですので、会社が一方的に変更することは出来ません。

【知っておきたい事】
上記はたとえ就業規則にそのようにあったとしても、一方的に変更は許されません。さらに、新型コロナに対するものであっても、会社側に「やむを得ない事情」があるかが問われます。必ず労働者に確認の上配慮する必要があります。


●新型コロナ感染症に関する労働問題③
~テレワークの残業~

テレワークで10時間働いた場合、残業が認められない事はありません。テレワークでも当然、労働基準法が適用されます。そして、会社には労働時間を適正把握する義務があります。

【知っておきたい事】
これは平成29年に厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関するガイドライン」でも記されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html


●新型コロナ感染症に関する労働問題④
~感染予防対策は誰の責任?~

会社が感染リスクを低くしようとする措置について、何も考えてくれておらず、それは自己責任の範疇なのかというと、そんなことはありません。

【知っておきたい事】
労働安全衛生法による定めとして、事業者には労働災害等を防止する義務があり、快適な職場とするように努める義務があります。つまり、使用者は職場における感染リスクを適切に評価し、対策を講じる必要があります。


●新型コロナ感染症に関する労働問題⑤
~感染予防の休暇賃金~

感染拡大予防のために会社が休みになった場合、休みの間の給料はどうなるのか?支払って貰えないのか?要求としては、賃金全額の支払いを要求すべきです。

【知っておきたい事】
国や地方自治体からの自粛要請が理由であっても労務を提供することが可能であるのに、自らの判断によって休みにする場合には、「使用者の責めに帰すべき事由」があるものと考えられます。結論として、賃金全額の支払いが叶うかどうかは、事案によって判断が分かれます。


●新型コロナ感染症に関する労働問題⑥
~操業停止時の賃金~

会社が新型コロナの影響で操業停止しても、給料は貰えない訳ではなく、法的には賃金全額の支払いを要求することが出来ます。

【知っておきたい事】
ただし、「使用者の責めに帰すべき事由」まではなく、全額を支払って貰えない場合もあります。それでも、新型コロナの影響による操業停止・営業停止が不可抗力とまではいえない場合には、労働者は会社から休業手当(労働基準法)を受け取ることが出来ます。


●新型コロナ感染症に関する労働問題⑦
~マスクしない事で懲戒解雇?~

会社からマスクをつけるように指示されたにも関わらず、マスクなしで出社した際に、「業務命令違反だ!明日もしつけて来なければ懲戒処分にする!」と言われた場合、懲戒権の濫用として無効と考えられます。

【知っておきたい事】
会社には労働者の就業中の服装等について、業務命令で、一定程度指示する権限があります。そして、業務命令違反の内容が懲戒事由として就業規則に定められており、労働者が業務命令に反した場合、労働者は懲戒処分を受ける可能性があります。しかしながら、マスクが品薄の場合など、会社からの業務命令が実現不可能か、極めて実現困難な場合、懲戒処分は懲戒権の濫用(労働契約法)と判断される可能性があります。


●新型コロナ感染症に関する労働問題⑧
~業務中のマスクの代金~

会社命令で就業中にマスク着用が指示された場合、そのマスク代は個人負担なのかというと、これは会社が負担すべき費用です。

【知っておきたい事】
会社には、業務命令として、就業中の服装等について一定程度指示する権限があります。会社が業務指示として、業務中のマスクの着用を義務付けている場合、業務中の服装に関する指示ですから、会社の服装と同様、会社が準備するものと言えるでしょう。


●新型コロナ感染症に関する労働問題⑨
~コロナ感染時の給与~

新型コロナウィルスに感染してしまった場合、会社は当然出勤することを禁止します。
しかしながら、会社がその間の賃金を支払う義務はありません。

【知っておきたい事】
新型コロナウィルスは2020年2月1日に指定感染症に定められました。そして、万が一感染した場合、その病原体を保有しなくなるまでの期間、法律によって、就業が制限されます。そのため原則として、労働者は会社に賃金を請求出来ません。


●新型コロナ感染症に関する労働問題⑩
~就業中の感染は労災~

もしも、業務中に新型コロナウィルスに感染したとしたら、それは労災に該当します。ただし、労災保険法の補償を受けるには労災申請が必要となり、業務中に発生したという事が証明出来なければならず、時間と労力を要する事が考えられます。

【知っておきたい事】
労災保険は国が管掌する強制保険(労災保険法2条の労働保険の保険料の徴収等に関する法律)ですので、「うちの会社は労災の制度は使えない」ということはありません。



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