思春期の水曜日 其九

 学級委員の恋愛話で持ち切りの教室内で、隣席の女子が急に席を立ち、教室から出ていった。小学校から同年の存在である。学級委員の恋愛話より、おれは席を立った女子が気にかかった。
 五分か一〇分で戻ってきたが、元気のない様子は明らかだ。
 おれは思わず声をかけた。
「どうした?何かあったな?」
 注意深く相手を観察すると、涙の跡が目に付いた。泣いた後のようである。おれはその事には触れずに、再度尋ねた。
「何かあったんだろ?」
 女子は顔を背け、
「なんにも、なんにもないよ」
とだけ答えた。
 おれはため息をついた。
「こういう時の女心は厄介だな。いくら聞いても答えないし、聞かないと放っておくなと注文つけるし」
 相手は向き直った。
「わたし、そんな厄介な女?」
 明らかにむくれている。内心、やれやれ、とは思いつつも、
「お前が特別ってわけじゃない。女性人類、皆そうなんだろうよ」
「それ、女性差別。偏見だよ」
 おれは益々、面倒さを感じつつ言い返した。
「男子が女子に偏見を持っているように、女子も男子に偏見を持っているだけだ。お相子だ」
 相手は反論が思いつかないらしく、黙り込んで明後日の方向を向いた。
 やれやれ、本当に女心は――――
 おれが考えを巡らす前に、教室の扉が開いた。噂の渦中にいる学級委員二人と教師が、教室に入ってきた。

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