夏の思い出の原風景

 10年近く前の真夏、大学時代の先生に頼まれて、その先生の実家の引越しを手伝ったことがあった。先生の実家は、古い建物で歴史が感じられるつくりだった。

 大きいものは、引越し業者に頼んでいたようでこまごまとした書籍の整理が主な仕事だった。数十年も誰も立ち入っていないような、屋根裏部屋にのぼって、汗をだらだらとたらしながら本を運んだ。

 とにかく暑かった。古い作りの家だったので、エアコンがなく、屋根裏部屋には熱気がこもっていた。汗で濡れた肌にほこりやが張り付き、体中どろどろだった。それでも、屋根裏部屋に上るのはどこか探検のようで、夢中で作業をしていたのだった。

 何より、作業の途中に飲んだ麦茶がとてもおいしかった。後から聞いた話によれば、ちゃんと麦を煎って作っているのだとか。先生が冷蔵庫から出した麦茶を、小さなグラスに入れてくれた。氷が2、3個入っていて、思わず一気に飲み干した。暑く火照った体には、麦茶の香ばしさが心地よかった。夏といえば、このときのことを思い出す。もはや、夏の思い出の原風景と言ってもいいかもしれない。

 先日、テレビで「サマーウォーズ」という映画を見たときにも同じような感覚があった。もちろん、物語の設定上、季節は夏なので当然と言えば、当然だが、昔どこかで見たような、懐かしさを感じる映像だった。

 心理学の世界では、個人の無意識と、多くの人が共有している無意識があるというらしい。夏についても、多くの人に共通する原風景があるのだろう。単純に、この類の映像を目にしているので、「これが日本の夏だ」と刷り込まれているだけなのかもしれない。それでも、共通の原風景を持つ人にはどんな共通要素があるのか、それは今の趣味嗜好なのか、性格なのか、はたまた、育ってきた環境なのか、子どものころに見ていたテレビなのか、そんなことが気になった。

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