蚊取り線香と昔の記憶

 私はあまり夏が得意ではない。暑さそのものもそうだけど、日差しがきつく、日焼けと日光湿疹に悩まされるからだ。それに、暑いのが苦手なくせに、喉が痛くなるのでエアコンの風も好きじゃない。この時期は、はっきり言って生きづらい。

 そんな私が唯一、夏で好きなものがある。蚊取り線香だ。自宅では洗濯物に匂いがついたり、使い切らずにしけったりしてしまうので最近ではあまり炊かなくなったが、行きつけの居酒屋では毎年、この季節になると炊いている。

 入り口のドアを少し開けて、夕方の昼間よりも少しだけ涼しくなった風が入り込む。時折、その風に乗ってふわっと蚊取り線香の匂いが流れてくる。その雰囲気だけで、今日はいい一日だったなあと思ってしまうのである。

 思い返すと、子どものころ、祖母がよく蚊取り線香を炊いていた。庭仕事をするときや、山に山菜をとりに行くときなど祖母の周りには蚊取り線香があった。また、実家では、この時期には夜に羽アリが玄関に集まることが多かったので、毎日のように蚊取り線香を炊いていた。

 匂いは、関連する記憶を思い出させるらしい。確かに、蚊取り線香は子どものころのことや、実家のことをよく思い出させてくれる。

 明日から、台風の影響で天気が崩れるようだ。せっかくのいい天気なので、夕方になったら蚊取り線香を炊いて、子どものころのことでも思い出してみようかなと思った。

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?