記憶の行方S24 小さな出来事-汚れた手

「汚してくれて、どうもありがとう」

女は、床を手にした雑巾で拭き始めた。

がらんとした部屋になった、窓の外を眺めて心なしかホッとしている顔の女は、よく晴れた空を眺めていた。

3ヶ月前の出来事。

「平安時代に生きてるの?なんで、ハガキ?」

「さあね。何言ってるか、全然分かんないね。あははっ。」

喫茶店でニ重瞼の女は、高笑いする。何を言っているか、聞こえないが、何を言わんとしているか、わかる。女は、よく聴こえる耳を持っていたが、いつからか、声が出せなくなっていた。

「謝ってください!」

彼女は立ち上がって、ニヤリと笑った。

「私がいなければ、この会社はまわって行きません。あなたは、一生、日陰で生きて行けばいい。」

(なんで、わたしが謝らなくちゃ行けないのよ。)

「わたし、Kさんのこと、愛してます。」

テーブルの上にはオレンジ色したスパゲッティが並んでいた。

(愛とか口にする奴、信用できない。なんで、スパ頼んだ?話すだけなら、コーヒーで充分でしょ。)

「そうですか。Kさん、いい人よね。あなたいくつ?」

「27歳です。」

「いい頃ね。それで?」

「別れて欲しいんです。」

女は、ふいに、スパゲッティの皿をひっくり返し、フォークを伝票に突き刺した。

「あなたがやろうとしていることは、そういうこと。スパゲッティ頭に乗っけて、この商店街を歩いてみたら。」

女は、席を立ち、そのまま、喫茶店を出て行った。

テーブルには、注文したばかりのモンブランが並んだ。

スパゲッティの皿を静かに置いた彼女は、ペーパーナプキンで頭の上のスパゲッティを払った。


S9○部屋 常夜灯の中の対話


「俺は、彼女を幸せにしたいと思う。」

「そう、お二人、お似合いよ。じゃあね。荷物は後で取りに来る。」

あっさりとした二人の終わりの時。

女の荷物は、バッグ一つに収まる程、少なく、何もなかった。新しい部屋を探し始めた。同時に楽器店をめぐる。ピアノの購入を決め、引っ越し用の車を借り、新しい部屋へ向かった。

「で、このシナリオ何が面白いの?」

カウンターの中から、マスターは、ウィスキーを一杯出した。

「うーん、……。」

ぼくは呑めず、グラスには、水滴がついた。

「要約して、面白くなかったら、つまんないシナリオってことだよ。手離した手をどうするか?描かないと行けないんじゃないの?」


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