主人がリモートワークを始めて触発された話。

主人が転職すると言い出した。

ひとりめの子どもが生まれて3ヶ月くらい経った頃だ。どうやら給与面に不満があるらしい。

働けど働けど、昇進は望めずポジション的にも頭打ち。妻の私も育休中の身で、子どもとふたりっきりの生活だったこともあり、主人の帰りが遅いと不機嫌になるということもあった。となると、残業で稼ぐのも難しい。

早く仕事を切り上げて子どもとの触れ合いも増やしたい。妻をサポートしたい。今後のために給料も上げたい。よし、転職だ!というロジックである。

転職先に選んだのは「完全リモートワーク」の企業。外資系なので完全成果主義。残業は「悪」とされていて、評価上マイナスポイントになるそうなので、子育てへの参加も今より容易になる。

それを聞いた私はふたつ返事で「いいじゃん!」となり、リモートワークができる環境を整備するため広めの部屋に引っ越した。

東京と同じ給与水準で地方住みって最強じゃないか?

何しろ「子育て」を念頭に置いた転職だ。これまでよりも勤務時間を圧縮しつつ給料アップをはかるという目論見。実際、入社してしばらくは研修期間だったので定時で上がることも多かった。それなのに今までよりも給料がいいのだから万々歳である。

そもそも地方で勤務する場合、都市部に比べ「給料が下がる」傾向にある。私たちが住んでいるのは宮崎という超ド田舎。北九州に次いで2番目に物価が安いとされる地域である。伴って「ここは東南アジアですか?」というレベルで給料も安い。

ちなみにこれ、決して誇張表現ではない。

薄給のせいで実家暮らしを強いられる独身者が圧倒的に多いのも事実だ。宮崎という狭いコミュニティの中では老若男女問わずそういった暮らしぶりを良しとする傾向にもあるので、自ら望んでそうしているという若者もまた多い。が、早く実家から出たいという願望を持つ若者には酷な環境である。また結婚しても旦那の稼ぎだけでは到底やっていけないから、共働きとなる傾向にある。

経済的自立による自己実現を目指す若者はとうに宮崎を離れ都市部で暮らしている、というのが実情だ。

が、「リモートワーク」ならその問題が解消される。主人の転職先の本部は東京にあるのだ。「東京水準の給与」を「全社員」に支給してくれるのだ。つまり、宮崎に居ながら給与水準は東京で働くのと同じということだ。何かとお金のかかる子育て世帯には何ともありがたすぎる話である。

通勤時間0分っていうのも相当に魅力じゃないか?

給与に次いで魅力的だなと感じたのは通勤時間である。

というか、リモートワークにそもそも「通勤時間」という概念は存在しない。自宅でパソコンを立ち上げ、勤怠管理システムで打刻すれば「始業」である。極端な話、始業時間ギリギリまで寝て過ごすなんてことも可能になるわけだ。

更に、リモートワークは天候に左右されることもない。雨の日など、水に濡れてしまうと思うだけで億劫になってしまうものだが、そもそも外に出る必要がないのだから「仕事に行きたくない」という憂鬱な気分にもならない。

何なら台風の日だって、家の中で身の安全を確保しつつ仕事を続けることができるという点では強みとも言える。

(その代わりに、子どもたちも家に居る状態になるわけだから、多少にぎやかな環境になってしまうことは致し方ない点でもある。)

それでも主人の「仕事をする時間」は長くなっていった。

前述の通り、主人が転職したのは外資系の企業だ。完全成果主義。成果が出せなければ即解雇もあり得るとてもシビアな環境である。

企業との相性が相当によく、また要領のいい人ならはやく仕事を切り上げることも簡単かもしれない。しかし主人の場合、真面目で頑張り屋さんな性格もあって常に勉強を怠らない。本人曰く「ベストな成績を残すためには常に綿密な計画を立てておかなきゃいけない」そうだ。

終業後にそういった自学自習を行うため、結局、仕事部屋から出てくるのが21時を回るなんてことも次第に増えていった。

子どもとの時間を増やしたくて転職したのでは?という疑問もあったが、常に成績を求められるシビアな環境では仕方がないのかなとも思った。何より、成績に応じて待遇が良くなり、給料が目に見えて良くなっていくのを目の当たりにしていたから尚更である。成果主義バンザイ。働いてない妻は預金通帳を眺めながら密かにガッツポーズをするのであった。

と同時に、悟ってしまった。

ある日、気付いてしまった。日本にいる限りは、男性の長時間労働からは逃れられないのが現状なのだと。働き方改革がどうのと言われてはいるものの、やはり男性としては家計を支えるために「仕事に向き合う時間」(たとえそれが自主学習であっても)が長くなりがち。またそれを、世間的にも是としてるフシがありがち。

女性に対しても、それこそ働き方改革によって活躍の場が広がってきているとはいえ、宮崎みたいな田舎の末端に来ると「家庭を守るのは女性の仕事」「メインで稼いでくるのは男」という意識が根強い。しかも育休中の身となると(もちろん籍を置く会社からは6割がた給与は支給されているものの)共働きの頃より水準が落ちているのは紛れもない事実。

しかも主人はまだ転職したばかり。企業からの期待に応えられるレベルまで到達するにはそれなりの時間も努力も必要だったし、ステップアップする度に新しいことを覚えていかなければならない環境だったので、「ブレイクスルーするまでの時間」が一定期間必要だった。

ステップアップする度に待遇は良くなるわけだから家計を見ている妻としては嬉しいわけだが、2、3ヶ月ペースで「その期間」が回ってくるので、妻がワンオペで子どもの面倒をみるという期間も増えていった。ときには実家を頼ってお風呂とご飯の面倒を見てもらうこともあった。

ふたり目出産を機に更に復帰が遠ざかっていった。

これまでのようにバリバリ働くのは難しいのかなぁと感じていた矢先、ふたり目の妊娠が発覚してしまった。職場復帰1ヶ月前のことである。それでも、職場の厚意で一度は職場復帰を果たした。が、期間限定の復帰である。つわりも重くなるかもしれないし、容態がいつ変化するとも分からない。しかも上の子の面倒は今まで通り見なければいけないのである。

とてもじゃないけどキャパが追いつかないと感じ、部署を異動させてもらった。異動の希望は自ら会社に申し出た。今までは最前線でクライアントのヒアリングからデザイン制作から、ディレクションから後輩の面倒やら何やら見ていたのだが、身体のことも考えて、管理部づきの広報として、社内デザインに徹することになった。言うてもクライアントのヒアリングやパツパツの納期がないぶん随分と自由にやらせてくれたように思う。

直属の上司も理解のあるとっても良い方で、私の身体を気遣ってくれ、また上の子のこともあるし、いつでも休んでいいからと毎日のように言ってくれていた。今振り返っても、とっても良い上司だったなぁと思う。

それでも、ふたりめ出産に対する職場復帰への不安は拭えなかった。

実際、復帰後半年が経つ頃にまた産休に入り出産を迎えたわけだが、今までとは比べ物にならないくらいに忙しくなっていった。今思えばひとり目のイージーさは何だったのだろうと思うレベルでの目まぐるしさである。

授乳していたら上の子が拗ねてギャーギャー泣きわめくし、授乳が終わったと思ったら足りないと言って泣くので「やってられん!」とさじを投げさっさとミルクを足し。そのあとすぐウンチやオシッコをするのでオムツを変えてやり、そうしている間に上の子が今度は部屋じゅう散らかし、散らかした部屋を片付けている間に今度は上の子がまだ新生児だというのに赤子にちょっかいを出し...というような感じ。年子だったので尚更白目()だった。

年子育児をしているママさんたちってみんなこうなのかなー。と寝ぼけ眼をこすりつつあくびをしつつ授乳しつつミルクを足しつつ、このまま復帰って、まず無理だなーというのが頭の中を占領していた。

私もリモートで働きたい。

復帰が無理、というのは、子どもふたりを保育園に預けて、その足で自分が出社してフルタイムで仕事して、また保育園にお迎えに行って帰宅して...という一般的な「働くママ」の就業スタイルが、自分にはマッチしていない気がした、という話である。

正確には、自分にも出来なくはないのだろうけれど(だって実際、それで生活している働くママさんたちがいっぱいいるわけだから)私の性格上、プッツンする確率が格段に上がるに違いないと予想がつきすぎていた。

自分の思い通りにならないことに腹を立て、子どもに当たるに決まってる。

子育てをしていると、思い通りにならないことの連続だ。そのことは、「理解した」というよりも、子どもをふたり産んで育てる中で「徐々に身体で覚えていった」わけだが、ここに仕事が絡むとまた事情が変わってくる。

自分の仕事がノッているタイミングで保育園からお呼びがかかったりとか...または忙しくて立て込んでる時期に限って、子どもが夜中に熱を出して不機嫌で寝てくれないとか...子どもが小さいうちはそんなことばかりなわけだ。

そんなの当たり前でしょ?で割り切れるタイプなら良いのだろうが、私の場合、仕方がないとは頭で思いつつも、なぜ自分がそのような不都合に振り回されなければならないのだという思いが先に立ってしまい、心のコントロールが難しいのである。根が真面目で責任感の強い長女気質な私には、到底割り切れそうにない事象なのであった。

そうなってくると、選択肢はふたつ。

働くことそのものを諦めて、専業主婦になる。

もうひとつは、リモート勤務に切り替える。

働くママがリモート勤務になることのメリット

リモート勤務に切り替えるとどう変わるの?と思われるかもしれないが、劇的に変わる。

なぜなら、「出社しなくてよくなる」からだ。これがママにとって何を意味するか。

まず、保育園から直接帰宅することができるから、通勤時間を圧縮することができる。それだけ時間のロスが防げる。運良く職場近くで保育園が見つかれば良いわけだが、そうでなかった場合、最悪自宅を挟んで職場と保育園が真逆、なんてパターンもあったりする。そうすると、今までの倍以上、通勤に時間がかかるわけだが、リモートになれば、保育園への送迎だけで済むので出社する分だけの通勤時間がカットできてしまう。これはすごい。

そしてまた、おめかしをする必要がなくなる。これは実はとても大きい。元々メイクなどするようなタイプではないのだが、出社するとなれば、それなりにTPOには気をつけて服装を選ばなければならない。が、出社しなくてよいとなれば、最悪パジャマでもジャージでも問題ないのだ。起きてそのままの格好で保育園に子どもたちを送り届け、そのまま帰宅して仕事ができる。最高じゃないか。おめかししなくていい分、服装を考える時間までもがカットできてしまう。これもホントすごい。

実際に主人を見ていたのも大きかった。自分専用に、デスクとチェアをカスタマイズして仕事のパフォーマンスを最大化するためにアレンジする。そういったところも、とても魅力的だった。オフィスであれば一般的に支給されたデスクとチェアで仕事をする。そのチェアが身体にフィットしてるか否かを問わずして、だ。

そういったところを含めて、2児の母となってしまった己のこの状況下では、リモート勤務をすることが最適解のように思えた。

思い立ったが吉日。

会社にリモート勤務したい旨、直談判してみようと決めた。ひとりめ出産時に旦那さんの都合で転勤となってしまい、遠方からリモートで勤務しているエンジニア女性の前例もあったからだ。今回の場合、私は遠方ではないものの、ママという点ではその方と共通していたし、会社自体も、わりと社員の声に耳を傾けてくれるフレキシブルな職場だったこともある。

早速当時の上司に連絡し、面談をセッティングしてもらうように頼んだ。

つづく

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