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青と緑と教会と。五島列島の旅―後編―


悩み事を抱えていた10月のある日、気分転換の旅先を探していたところ朝ドラで見た五島列島の美しい景色を思い出した筆者。
3秒で五島行きを即決し、そこから2ヶ月間夢見た旅の時間がついにやってきました。

前編では旅の初日、五島のメインランドである福江島での絶景巡りの様子を取り上げました。

後編ではもう一つのメインランドである中通島に渡り、その島を中心とした「上五島」と呼ばれる地域に多数所在する教会を巡っていきます。

教会の島、中通島

朝8時半頃に福江のゲストハウスを出て、徒歩15分ほどで福江港ターミナルに到着しました。
前の日、夢にまで見た五島列島に初めて足を踏み入れた場所に帰ってきた形になります。

再び船に乗り、向かうのは中通島の南部にある奈良尾という港町です。
ジェットフォイルという高速船より速い船に乗船し、福江を出港してからわずか30分で目的地に着きました。

嫌なことがあったというわけでは全くありません。ただ、前日の福江での旅が楽しすぎて、この日の旅が同じぐらい楽しいものになるかどうかが少し不安だったのです。

さあ、上五島の旅、どんな1日になるでしょうか…

エメラルドグリーンの水面

奈良尾港でレンタカーを借り、そこから15分ほど狭い山道をドライブしていくと入江に沿った道に出ます。
しばらく走ると、高台にそびえ立っている桐教会が見えてきました。
車を停めて教会がある高台を登り、振り返るとエメラルドグリーンの美しい水面が眼下に。

桐教会のある高台から眺めた入江。

桐教会から15分ほど車を走らせると、中ノ浦教会に着きました。
天気が穏やかな日は、教会が水面に鏡のように映っている姿を見ることができます。

中ノ浦教会を映し出す水面は鏡のよう。晴天ならもっと綺麗だったんだろうか。

この日は日曜日。私が訪れたのは11時頃だったので日曜礼拝はとっくに終わっていたと思いますが、教会はクリスマスの飾り付けをする人たちで賑わっていました。
この島の教会は宗教的な場であるのみならず、地元の人々が集まって時間を共有する公民館のような役割も持っているのだと思います。

世界遺産・頭ヶ島

港に面した市街地である青方で昼食を摂り、次に行くのは世界遺産・頭ヶ島教会とその周辺の集落です。

実は元々はここに行く予定はありませんでした。世界遺産に登録されて以降、来場者数の激増による観光公害を防ぎ長期的に遺産を保護するという目的で、教会への訪問は全予約制となっています。
それを知らずに上五島まで来てしまったので当然事前予約はなし。もっとちゃんと調べて来るんだった…

と思っていたのですが、奈良尾のレンタカー店の店員さんが「当日予約もできますよ」と教えてくれました。
行けるなら行くしかない。教会のビジターセンターに電話をかけると、快くOKしてもらいました。
レンタカー店のお兄さん、本当にありがとうごさいました。

吹き荒ぶ風、打ちつける白波

目的地の頭ヶ島が近づくにつれ、どんどん風が強まり、波が堤防に打ちつける音が激しくなってきました。
このあたりは石造りの建築物が多いという特色もあり、気候の厳しさを物語ります。

その石造建築の代表と言える建物までは、上五島の中心部から車で30分ほど。
山を登り橋を渡り、上五島の最果てとも言える頭ヶ島にある「頭ヶ島天主堂」に着きました。

石造りの頭ヶ島天主堂。

この地で信仰を守るということ

頭ヶ島天主堂は、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 」に指定されています。
一つ大事なのは、教会単体が世界遺産というわけではないということ。ここでいうと、頭ヶ島天主堂を含む「頭ヶ島の集落」が世界遺産になっているんです。

現地の説明書き。

頭ヶ島は平地がほとんどなく、気象条件も厳しく外部からは隔絶された土地。
江戸時代までは定住者がおらず、伝染病患者を隔離する療養地として使われていたそうです。
人が寄り付かなかったこの島に、禁教下で迫害を受けていた長崎の潜伏キリシタン集団が入植したのが集落の始まりでした。
彼らはこの厳しい土地で、信仰をカモフラージュしながら守っていきます。

明治初期に禁教令が強化され、五島列島でも「五島崩れ」と呼ばれる大規模な弾圧が行われたことでこの島は一時無人島になりましたが、その後キリスト教の信仰が認められたことでこの島に住民が帰ってきました。
彼らは山から石を切り出して積み上げ、頭ヶ島天主堂を建造。彼らは初めて「教会」という目に見える形の拠り所を得ることになり、ここに「潜伏」の時代は終わりを告げました。

集落から眺めた海。写真ではわかりませんがかなり風が強く、海は荒れています。

教会、神聖な場所

ビジターセンターで受付を済ませ、実際に教会の中に入ることができました。多くの人が殺到してはいけないので、最大30分ごとに入れ替えとなっています。
内部は写真撮影禁止なので写真はありませんが、ボランティアのガイドさんが色々と教えてくれました。知りたいことは実際に行って聞いてみましょう。

教会の建物に入ってみて感じたのは、石造りというだけあってとても堅牢であること。
外では風が吹き荒んでいる一方、建物の中はとても静かで安心感さえ覚えるほどです。
この教会には、信徒を厳しい外部環境から(物理的にも、精神的にも)守ってくれる避難場所という側面もあり、それがこの場所の神聖性をより強化したのだろうと考えました。

背後から見た教会。堅牢です。
キリシタンの拷問に使われた石だそうです。「三角状の木を並べた台に容疑者を座らせ、その膝に平たい石を積み重ねた」とのこと…

集落の地理的条件や気候は、ここで「潜伏」して信仰を守り続けることがどれほど苦しく厳しいことだったかを物語ります。
そして、潜伏の終焉を象徴するのが頭ヶ島天主堂。それは信徒を守る存在であり、彼らの拠り所でもあり、よって神聖な場所であったのだろうと、実際に訪れてみて感じました。

寒いけど、暖かい

夜は有川港近くの宿に泊まり、翌朝に佐世保行きのフェリーで帰路について五島列島の旅は終わりました。

冬の訪れの時期、冷たい海風が吹き付ける五島列島は寒かった。
しかし同時に、とても暖かい場所だと思いました。

旅先であるがゆえに多少のバイアスがかかっているのは承知の上で、五島で接した人たちはとても暖かかったです。

ホテルやレンタカー店や飲食店など、普段であれば従業員と客との会話で終わるところ、そこから少し踏み出して「遠くから来てくれたんだねぇ」「今日はどこ行ってきたんだい」「楽しかったかい」など暖かい声をかけてくださいました。
その人たちと話をするのがとても楽しかったですし、多分その時の自分の表情は笑顔5割増しぐらいになってたと思います。

人里離れた環境で自然に癒されたくて五島に来て、確かに自然に癒された。
しかしそれ以上に、人の暖かさに癒された旅だったと、振り返って今感じます。
(都会に疲れた人間が田舎で癒されるという、ありがちの旅行譚だと言ってしまえばそれまでですが…)

今回は一人で来ましたが、次は大切な誰かを連れてきたい。五島列島はそんな場所です。

―おしまい―



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