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ひとりサイズのチーズフォンデュ

外食をしなくなって、しばらくが経った。

地元のだいすきな居酒屋さんも閉めていると聞き、個人経営のお兄さんのことが頭に浮かんだ。

全国から集めたこだわりの焼酎も、季節の野菜を使った、毎回新鮮な創作料理も、古くからの仲間とだらしない格好で、足を崩してくつろぐあの座卓の空気も、そのすべてが、とても恋しい。
テイクアウトで応援したいけれど、今は地元に帰ることもできない。

また笑顔で集う日を信じて、明るく元気に今を過ごすことが、唯一の、そして最大の「今するべきこと」だと思う。

1年前の今頃、私は約1ヶ月のスイスひとり旅からちょうど帰国したと、FBが教えてくれた。
写真を見返していたら、旅中に立ち寄ったある飲食店のことを思い出した。

周囲に心配させてしまうことも多いが、ひとり旅の困りごとは、実はあまりない。しかし、唯一あるとすれば、それは食事だ。
現地の美味しいものを食べたくて外食をしても、いろいろなものを頼めない
これは結構困るし、ひとり旅仲間に複数聞いたところ、やはりあるあるだった。
いろんなものをちょこちょこ食べたいし、そもそもわりと少食のわたしは、海外サイズの一皿が食べきれないこともある。
結局、スーパーで買い出しをして、宿のキッチンで簡単な料理をする。安上がりで最高だが、たまには食べに出かけたい。

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そんな私はスイス旅で、本場の「チーズフォンデュ」を食べると心に決めていた。
出国前の噂によると、日本の一般的なチーズフォンデュとは随分違い、ワインの香りがしっかりと残ったオトナ味なんだそうだ。絶対に食べたい…。

そのタイミングを伺いながら、いろいろな街を転々と旅した。
レストランを見つけては、チラッとチーズフォンデュの存在を確認する。

しかしその中でわかった驚愕の事実は、「注文は2人から」という表記が多いということ。

それはそうだ。だって、鍋料理のようなものなんだから。
本来、数人でつついて食べるものなんだから…。

それでも諦められない。
私は探し回った。そして覚悟を決め、表のメニューに「注文は2人から」の表記がない、おしゃれな一軒家のようなレストランへ入った。
物価の高いスイスでは、軽くランチをしたくても外食だと2〜3000円くらいかかる。だから外食は「ここぞ」の時にとっておいたのだ。

2階のテラス席を希望し、案内してもらった。
そして期待に胸を膨らませ、下手くそな英語で尋ねた。

「チーズフォンデュって、1人でも注文できますか…?」

答えは「Sure(もちろん)」だった。

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美味しい…。

確かに、これはワインの香りがしっかりと残っている。チーズも詳しい種類はわからないけど、食べ慣れている味とは違う。パンは外側カリカリ中フワフワ…。

美味しい…。

結構なボリュームのパンで、チーズもお腹で膨れるのだが、やっと出会えた念願のチーズフォンデュ。チーズもパンも残したくない。
よぉし、あと2切れ…

その時、お店のお姉さんが笑顔で私に何かを言った。
聞き取れなかった私は、「どう?」とか「美味しい?」とかかなって想像し、笑顔で会釈した。

数十秒後、なんと、お姉さんは最初と同量のパンのおかわりを持ってきてくれたのだ…!!

わからないのに頷いてはいけないよ。

結局胃袋は限界に達して、チーズは完食したがパンは数切れだけ、残してしまった。

お詫びと、心からのお礼を伝えたくて、拙い英語で、お店を出る時にお姉さんに伝えた。

「少し残してしまってごめんなさい。でも、本当に美味しかった。ずっと食べてみたかったチーズフォンデュ、ひとり分で注文できるお店を見つけられなくて…。ひとり旅で困っていたところ、今日ここに来られた。本当にハッピーなランチだった!ありがとう。」

こんなニュアンスで、ただただ一生懸命、知っている限りの言葉を紡いだ。
お姉さんは満面の笑顔で、「私も嬉しい」と返してくれた。

たった1軒のレストラン。
たった1回のランチ。
たくさんしてきたひとり旅の、ほんの1場面。

それが、人生の大切なワンシーンになる。

またかならず、だいすきな旅をしよう。
地元のお店に、顔を出そう。
新しく、心ときめく場所も見つけよう。
だいすきな仲間に会おう。

もう少しの間、胸の中にある大切な思い出と、一緒に過ごすんだ。

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