見出し画像

2019.9.21 「あいつは普通の日本人じゃない…」満州を動かした天才外交官

「交渉前から、貨車がいくつもロシア(ソ連)領に入っては消えている。それに、駅や線路が爆破される事件まで起きている。これはロシアの仕業ではないですか」
「いや、違う!鉄道を安く手に入れようとする日本(満洲国)の策略だろう!」

怒鳴り声が部屋中に飛び交う。
ロシア人 vs. 日本人…。
ロシア語での応酬にも拘らず、日本人は一歩も引けを取っていない。

1932年、日本は軍部の影響で満洲に新国家『満洲国』を建国。
満洲国を二分するロシアと対峙し、国家の命運を分ける交渉が数回にわたって繰り広げられていた。

遡ること日露戦争直後。

勝利した日本だったが、賠償金が手に入らず借金に苦しんでいた。
ユダヤ人実業家を中心に買い入れた金額は、国家予算の5倍。

そんな中、起死回生のチャンスとして開拓を進めたのが、石炭・石油・鉄など豊富な資源が眠る満洲だった。
でも、満洲は日本とロシアが再びしのぎを削る最前線となっていた。

当時、満洲の北半分をロシアが、南半分を日本が支配。莫大な資源輸送に必要な鉄道の経営権は、南を日本が、北をロシアが牛耳っていた。

そんな中、ロシアの北満鉄道買取の話が持ち上がる…。
上手くまとまれば、日本は活気を取り戻す。
そんな願ってもない一大事業だったが、交渉は開始から難航した。

安く手に入れたい日本側の希望は5000万円。

一方、高く売りたいロシアは6億2500万円…。

当時の日本国の国家予算の6倍以上にものぼる。

そんなタフな交渉に書記長として就いたのは、5ヶ国語を自在に操る日本人外交官だった。
彼が優れていたのは語学だけではなかった。

「ありがとう。実によく調べてある…」
この写真があれば決定的な証拠になるだろう。
敵国であるはずの白系ロシア人などから、日本にとって有利な情報をいくつも手に入れた。

古い線路を交換する約束が破られていること、
ロシアが密かに貨車を運び出していること、
具体的な車両数がどれくらいかということ、

など、次々と真実を突き詰めていった。

でも、それはスパイのような手口ではなかった。
お金で相手を寝返らせたり、情報を盗ませたり、偽情報を流したり…、時には暴力を振るう。

そんなやり方ではなく、

「この人は絶対に裏切らない」
という信用の中で、情報をもらったり渡したりしていた。ロシア革命に反対したり、迫害から逃れた人、祖国に戻れない悔しさに苛まれた人々とゆっくりと友情を温めて、信頼関係の下に外交を進めた。

そして迎えた、北満鉄道譲渡交渉公式会議。

ロシアの代表が口を開いた…。

「北満鉄道はソ連の前身である帝政ロシアが叡智と労働力を注ぎ込んだ誇るべき財産である。我が国への誇るべき対価として、6億円の額は妥当というほかはない。もし、日本代表のあなた方が飲めないというのであれば、我々は交渉決裂も辞さない構えである。」

ロシア代表団が睨みつけながら日本の反応を見る中、外交官の彼はゆっくりと問いかけた…。

「あなた方は、北満鉄道を自分の目でご覧になったことはありますか?私は満洲国に何度も足を運び、3200キロの全線路を調査しました。使用されている枕木から始まり、倉庫や事務所など、附属施設まで全てこの目で見て、この手で確かめました。その老朽化たるや、見るに堪えないもので、管理の杜撰さを物語っていました…。」

そう言いながら、錆びて変色したボルトのような部品と数枚の写真を取り出して、ロシア代表に突きつけた。

そして、こう続けた…。

「車両の中には、行方が分からないものもありましたが、調査の結果、ロシア領内で無断で使用されていることが判明しました。これらが、あなた方が高らかに掲げる誇りだと言うのですか?」

暴かれた不正の数々に、ロシア側の代表団は唖然とし交渉は終了。

引き下がるほかないと考えたに違いなかった…。
後日、日本側に入った連絡で、6億円の提示額は2億円にまで引き下がった。
が、それでは終わらなかった…。

更に粘り強く交渉を続けた結果、1億4000万円まで値段を下げることに成功。
総額5億円近い値下げとなり、それは国家予算の5倍ほどに相当した。

2年近くに及ぶ国家プロジェクトを堪能な語学力と信頼関係を基にした情報収集力、そしてロシア人相手でも怯まない交渉力で1人の外交官がやってのけた。

調印式の場で、ロシア団代表を務めたカズロフスキーはこう語った。
「あいつのせいで、鉄道を安い値段で売る羽目になった。──あの日本人は、危険だ…」

画像1

日本側の代表団を務めた外交官

杉原千畝

今でこそ杉原千畝は、ナチスがユダヤ人を迫害した時代に、6000人ものユダヤ人にビザを発行し、命を救ったことで有名です。

でも、何か不都合なことでもあるのか、満洲国での優れた外交官としての一面は、大々的に語られることはほぼありません。
事実、杉原千畝のように、日本人にとって光と思われることだけではなく、明かされることのない影までも交錯したのが満洲でした…。

例えば、

現在の日産自動車、日立、損保ジャパンを作った鮎川義介

安倍首相の祖父であり、自身も戦後の総理大臣として活躍した「昭和の妖怪」岸信介

ヒトラーやスターリンとの提携、日独伊三国同盟を結んだ外務大臣、松岡洋右

日米大戦中の内閣総理大臣、東條英機

日中戦争の司令官を務め、陸軍大臣まで上り詰めた板垣征四郎

帝国陸軍の異端児と呼ばれた謀略の天才、石原莞爾

などといった日本の中心人物が揃い、
「日露戦争の損害を満洲の稼ぎで埋め立てよう」

と、国内予算と同等の金を満洲に費やした。

商売人たちも、関東軍のバックアップの下、莫大な利権を手にしていた。
そして彼らは、

満洲を日本の「金のなる木」にするため、ユダヤ人を利用しようと計画する。
ユダヤ人と言えば、金儲けや学問に秀でた一方で、世界中から恐れられ迫害される民族。
上手く使えば富をもたらすが、間違えば国を乗っ取られるという猛毒に晒される…。

そんな背景から、その計画は「フグ計画」と呼ばれていた…。

迫害に苦しめられていたユダヤ人は、唯一歩み寄った日本のために続々と満洲に集まり、力を貸していく…。
(上手くいけば、ユダヤ人国家イスラエルは満洲にできていたかもしれない)

全てが順調に見えていた日本。しかし…、

「すべては満洲から狂っていった。日本は、満洲という魔物の中に入って行って、前後不覚になった。」

莫大な利益が見込める満洲を狙っていたのは日本だけではなかったのだ。

中国も豊富な資源を求め、領土拡大を狙っていた。
ロシアは大陸の南下政策の為に、満洲を支配する日本が邪魔で仕方なかった。
また、アメリカは世界の覇権を握るためユーラシア大陸に支配を広げようと、日本を通じ満洲への出資を行おうとしていた…。

そんな中、莫大な利権に目が眩んだか、関東軍は暴走を始める…。

様々な国家の思惑が絡み合う危険な地である満洲の利権を、すべて自分たちで独り占めしようとしたのだ。

そのことで日本は、世界中から睨まれる存在となっていく…。

そして、関東軍がある事件の対応を間違えたせいで、ユダヤ人でさえも満洲から去っていく羽目になる…。

明治維新後、先進国の仲間入りを果たし順風満帆に見えていた日本は、満洲に手を出したせいで、元は友好関係にあったアメリカとも対立し、日米全面戦争に向かい、国家滅亡の危機に立たされることになる…。

事実、日米開戦の争点となったのは満洲だった。
アメリカは、最後通牒と言われるハル・ノートに「満洲を完全放棄しろ」と書いて送って来たのだ。

そして日本は、真珠湾攻撃を決行することになる…。

日本の生命線に思えた満洲。
そこは、各国の思惑と利権が絡む危険な場所だった…。

教科書では、「日露戦争」「満洲事変」「日米大戦」と単語でしか学べず、日米大戦は真珠湾での日本の卑怯な攻撃が悪いと言われてきたが、実際はその数十年前、満洲で引き金が引かれていた…。

私たちがろくに教わらない満洲では何があったのだろうか?

そこに集まった日本の中心人物たちは何を目指し、何を間違ったのか?

そして、どんな素晴らしい偉業をやってのけたのか?

世界中から迫害されていたユダヤ人を最も救っているのは私たちの先輩、日本人です。

この話から分かるように、遠い昔の満洲の出来事が日米大戦を引き起こし、現代にも大きな影響を与えています。
しかし、私たちが今まで習ってきた満洲の歴史と言えば、日本とロシアがその昔、戦争して満洲をもらいました、くらいなもので、教科書で言うと1ページも使われていません。

しかし、そのたった1行2行の出来事の中には、先人たちの壮大な葛藤や苦悩、ドラマが詰まっていて、そして、それが現代の日本社会の基盤をつくり、私たちを作っています。

それら一つ一つの事を知れば、今まで何の関係もないように見えた過去の出来事がつながり合わさり、自分のところまでつながっている事に気づくでしょう。

そうすれば、私たちはもっと自分自身や日本という祖国に対して誇りや愛情を持てます。

しかし私たちはそのような教育はされていません。
なぜか?
理由は簡単です。
戦後、「二度と強い日本を見たくない」と願った占領軍GHQが、日本人から真実の歴史を奪い、本当に重要な出来事を隠すことで歴史の流れ、社会の流れが読み解けないようにしたのです…。

先人の凄まじい努力も、良かったことも悪かったことも教えず、「戦争をした日本が悪い」と証明する出来事と年号を詰め込み、「罪悪感」を植え付ける教育…。
「お前のお爺ちゃんは殺人者だ」というような教育が平気で行われていたのです。
そして今この現代でも、自衛官を親に持つ子供が同様のつらい目に遭うといった嘆かわしい出来事さえも起こる始末…。

日本の良いことも悪いこともすべて、嘘偽りない真実を知ること。
それを知ることで、私たちはより強く、本当の意味で今の世界を知り、自分自身を知ることができるのではないでしょうか。
そして、それが今この国に蔓延している病巣を取り除く一番の解決策につながるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?