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2022.7.25 『サラリーマン気質』が招く日本の凋落

日本が総力を尽くして戦った太平洋戦争(大東亜戦争)は、日本の徹底的な敗北で幕を閉じました。

敗戦後、しばらく打ちひしがれていた国民は、新たな『日本の生き筋』を見出します。

「日本は戦争に敗けたが、これからは経済で勝負だ!」

文字通り、国民が一丸となって経済復興に取り組みます。

この、“経済に集中して生きる”という発想は、吉田ドクトリンと呼ばれる、吉田茂首相の方針に沿ったものでもありました。

1952年、サンフランシスコ講和条約で日本の独立が実現すると、吉田首相は同時に日米安保条約に調印します。

日本に米軍が基地を置くこと、つまり、米軍が広範に日本列島に展開し続けることを許し、日本の安全保障をアメリカに委ねることで、日本は自律的な安全保障の重圧から逃れて経済にまい進するという発想です。

この方針は大成功を納めますが、晩年の吉田は、自らの戦略が安全保障に無頓着な国民を作り出してしまったことを認めて、後悔していました。

しかし、日本は吉田の嘆きを他所よそに驚異的な経済発展を遂げ、アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国に上り詰めます。

今の若い世代は、この元気が良かった時代の日本を知らず、バブル期が異常なだけだったと考えていますが、かつての日本は本当に元気だったのです。

10代でバブル期に遭遇した私は、その当時の日本の勢いを記憶しています。

この戦後の繁栄について、アメリカのワシントンD.C.近郊にあるジョージタウン大学のケビン・ドーク教授は、
「日本人を享楽的にした」
と評しています。

それは正しい指摘だと思います。

すっかり敗戦に懲りた日本人は、
「平和とは戦争について一切考えないこと」
と言わんばかりの態度を取るようになりました。

そして、これは私の意見ですが、独特のサラリーマン気質を作り出しました。

模範的なサラリーマンは、政治や国際情勢、してや安全保障政策などについては一切考えず、ひたすら目の前の仕事に取り組むべきという発想です。

栄養ドリンクのCMソングの如く、24時間闘い続ける日本人サラリーマン。

政治、況してや国際政治などは、御上の考えることで、サラリーマンが考えることではない。

ひたすら目の前の仕事、仕事、仕事。
それが日本人サラリーマンの美学。

20世紀の間は、それでも何とかなりましたが、さすがに21世紀に入って、世界は急激に変わっていきました。

対応できなかった日本企業はどんどん没落し、日本経済はGDPで中国に追い越されました。

世界第三位でも立派な経済大国ですが、何しろ活気を失いました。

しかし、サラリーマンの美学は変わりません。

世界情勢の変化は、ビジネスに関係しない限りは関知しません。

地政学に長けた方々にとって、今や中国が戦後最大の脅威であることは常識ですが、経団連に象徴されるように、日本の企業人の多くは未だに中国の脅威の本質を理解せず、中国市場でいかに儲けるかばかりに腐心しています。

大企業でも、国際情勢の変化を全く理解していません。
それは、サラリーマンの本分ではないと考えているのでしょう。

私自身も親しくしていた、ある精密機械企業の幹部の方と話して愕然としました。

「何百人もの中国人研修生を抱えているけど、中国の脅威なんて考えたこともないよ。君は日本の文化が素晴らしいと思って、日本文化を守りたいからそんなことを言ってるだけじゃないの?」
・・・
「中国の覇権主義?世界史を見れば、人間の歴史なんてそんなものじゃないかな?僕は中国に関しては、あの巨大な市場をどう開拓するかしか考えていない。」
・・・
「昔から、与えられた枠の内側でしか考えないようにしてきたからね」

この方は、明らかに中国の脅威の本質を理解していません。

中国の脅威は、台湾や尖閣諸島に迫る軍事的圧力だけではありません。

中国の脅威の本質は、何でもありの『超限戦』です。

軍事、民事の枠を超えた際限のない戦争行為です。

そして、中でも重要な位置を占めるのが経済を利用した戦争です。

我々は、経済的な相互依存が進めば進むほど、世界は戦争ができず平和になると教わってきました。

しかし、それはあまりにもナイーブな発想であることがはっきりしました。

今、習近平の指導の下で中国が推進しているのは、中国は外国に依存せずに自立する一方で、世界には可能な限り中国に依存させることです。

外国が中国に依存すればするほど、中国はそれを逆手にとって、その国に影響工作を仕掛けることができるからです。

つまり、相互依存は平和への道ではなく、悪意ある独裁国家に弱みを握られることなのです。

経済を使って相手国を操作しようとすることを『エコノミック・ステートクラフト』と言います。

そのような攻撃からの防衛策を講じることを『経済安全保障』と言います。

日本では、この経済安全保障という概念が、やっと政府レベルで理解され始めたばかりです。

そして、エコノミック・ステートクラフトの一環として企業が狙われます。

世界中で中小企業も大企業も、中国共産党と繋がった企業や組織、そして個人によって乗っ取りの危機に瀕しています。

その手口は極めて巧妙で多岐に渡ります。
賄賂やハニートラップだけではありません。

それらの手口を真剣に研究して学ばなければ、防衛することができません。

私たち日本人が、いや世界中のほとんどの人が想像もしないようなトラップを仕掛けてきます。

戦後一貫して、戦争や安全保障のことは忘れて、経済一本やりで生きて来た日本人。

それが正しい生き方だと信じ、与えられた枠の中でしか考えない習慣を身に着けた日本的サラリーマンの美学。

その結果、未だに中国の脅威を認識できない日本の企業人。

戦争は、自分たちが侵略戦争を仕掛けなければ始まらないと信じている日本人。

経済に命を懸けて生きて来たのに、長年の経済的低迷に悩んだ挙げ句、その経済が自分たちに対する戦争の武器として使われるとしたら、何という皮肉でしょうか?

果たして日本人は、日本企業は、この新しい形の戦争から身を守ることができるでしょうか?

残念ですが、今のままでは無理でし ょう。

一人でも多くの日本人が、独裁国家による経済を利用した戦争の脅威を認識しなければ、もうすぐ手遅れになってしまうでしょう。

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