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2022.7.4 中国高官たちの「海外逃亡」計画

先月、米国メディア『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、中国当局が自国の高官向けに送った、ある内部文書を記事に取り上げました。

その内容は、
「中国共産党が、幹部やその親族の海外資産保有を禁止」

しかも、
「海外資産を持つ者は、昇進させない方針」
との徹底ぶり。

しかし、なぜ中国では、成功者ほど海外に出たがるのか?

今回は、その理由を書き綴っていこうと思います。


成功者ほど外国へ移住したがる

『地球村』と言われる現在、様々な理由で異国へ移住する人が増えています。

言葉も生活習慣も違う異邦の地で生きることは、並大抵のことではありません。

異国での生活は、慣れるまでの苦労はもちろん、一生掛かっても越えられないハードルも多くあります。

異文化の下で生活するとはそういうものです。

だから、自国で成功している者は、よほどの理由がない限り母国を去ることはありません。

成功の土台を敢えて捨て、他国でゼロからスタートすることは理屈に合わないからです。

しかし、中国では成功者ほど外国へ移住したがります。

こうした心理は、恐らく日本人には理解しにくいかもしれません。

中国社会で成功とされる基準は、『名利双収(名声も利益も手に入れる)』と言われます。

お金も名声も両方手に入れなければ成功とは言えません。

だから、中国で成功とされるモデルは、高官と高官をバックにして大儲けする企業家となります。

特に高官は、学問も名声も権力もお金も一身にあるから、最上位の人間とされています。

論語 vs 庶民の教え

『論語』 に「学而優則仕(学問に優れれば官位につく)」という言葉があります。

学問は、官位への登竜門という中国的打算が行間に滲み出ています。

『論語』の通りなら、中国の高官は学問も優れているはずですが、庶民の間には「官大学問大(官位が高いほど学問で威張る)」という、高官の学問を揶揄する言葉もあります。

虚偽に満ちた『論語』よりも、庶民の言葉がよほど真実を反映しています。

学問はともかく、中国人は一度官位に就くと、「升官発財(昇進して金儲けする)」に突っ走ります。

権力を手に入れてお金を儲けることは『名利双収』への最短距離だからです。

これが中国の成功モデルです。

一般庶民から見れば、中国の高官はまさに極楽トンボのような存在です。

「刑不上大夫(権力者には罪が及ばない)」という孔子の教えの通り、中国の権力者には法律も通用しません。

これなら、 高官は威張るだけでなく金儲けもでき、やりたい放題で、誰からも文句を言われません。

実際、中国では中央政府から地方の小さな村に至るまで、高官たちは賄賂の授受だけでなく、人身売買から麻薬の密輸にまで手を染めています。

高官たちにとって、中国はまさに天国なのです。

しかし、中国の高官たちはこの『天国』を見捨て、大量に海外に逃げ出しています。

一体どうしてなのか。

中国高官が海外逃亡する手口

1990年代以降、判明しているだけでも、海外逃亡した中国政府高官は2万人以上にのぼり、不正に持ち出したお金は10兆円を超えているといわれています。

それも、1人当たり平均13億円の公金あるいは不正蓄財を、海外に持ち逃げしているというから驚きます。

元温州市副市長の楊秀珠なる高官は、判明しただけでも3兆4350億円も汚職で手に入れ、海外逃亡したと伝えられています。

そこで、中国共産党は2010年1月、中央規律委員会監察部、公安部、司法部、外交部合同で、『汚職公務員による海外逃亡防止会議』を作って、高官の海外逃亡に対する防止策を練っています。

世界広しといえども、高官の海外逃亡を防ぐ組織は中国以外にありません。

こんな恥晒しの組織を作らなければならないほど、中国では高官の海外逃亡問題が深刻なのです。

高官たちの手口は共通しています。

不正蓄財

子女を海外留学させる

資産を海外に移転

家族を海外に移住

本人が海外逃亡

渡航先国の法を盾に帰国拒否

という手順です。

だから高官子女の留学は、海外逃亡へのワンステップであり、安全弁の一つなのです。

ちなみに、中国の最高決定機関である中央政治局の常務委員9人のうち、子や孫を米国に留学させている者は、少なくとも5人います。

習近平の娘もハーバード大に留学中です。

普通の国なら、これは由々しき問題です。

なぜなら、国の指導者たちの子供や孫が他国に人質を取られているようなものだからです。

しかし、中国の指導者たちにとっては、国のことよりも逃亡先の確保の方が大切なのです。

高官たちが逃げ出す理由

それにしても、なぜ成功者であるはずの高官たちは、母国から逃げなければならないのか?

その最大の理由は、中国は法治国家ではなく、人治国家だからです。

世界でも指折りの法治国家に住む私たち日本人には想像し難いことかもしれませんが、法治国家なら、権力闘争に負けたくらいで牢屋に入ることはありません。

ですが、人治国家である中国の場合は、権力闘争に負けることは致命的で、命を取られるか、投獄されるかのどちらかしか道はありません。

そもそも中国の法律とは、搾取や権力闘争に使う道具でしかありません。
だから、権力闘争に負けると、一族郎党まで牢屋に入れられてしまいます。

これも中国特有の『蘇九族(親族は皆殺し)』という報復文化の特徴です。

勝者はどうなるかというと、高位高官にのぼるほど権力も強くなりますが、彼らに打ち負かされた敵も多くなります。

ある意味で、高位になればなるほど危険なのです。

毛沢東に負けた林彪りん ぴょう劉少奇りゅうしょう き の悲惨な末路はその良い例です。

2012年3月に失脚した薄熙来はく きらいもその典型的な例と言えます。

まるで映画のような失脚事件でしたが、中国ではこのような熾烈な権力闘争は決して珍しいものではありません。

高官のポストは、並みの神経の持ち主ではまず務まりません。

邪魔者を消すくらいは平気でやりかねません。

だから、彼らは権力の座に就いたその日から、明日は我が身と海外逃亡の準備もしなければならないのです。


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