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#12 ヨーロッパ研修記 〜ベルギー・ブリュッセルのクラフトビールシーン〜

 ベルギービールと聞くと、どうしても伝統的でクラシックなビールのイメージを持つ人も多いと思う。

 農家のためのビールであるセゾン、まるでシャンパンのような金色に輝くブロンドや修道院で作られるトラピスト、強烈な酸味のあるランビック。
 どれもベルギーの歴史的、地理的な背景、ストーリーを持っており、それ自体がある種の文化遺産的な価値を持つ。

 しかし今回ブリュッセルに長く滞在する中で、そのイメージを一新させるような新しいつくり手たちが生まれていることを知る。(例えばブリュッセルの代表的なボトルショップMalt Attacksを訪れると洗練されたデザイン、瓶ではなく、缶に詰められた新進気鋭のビールがずらっと並ぶ。)

Malt Attacksの店内。クラシックなベルギービールの趣はない。

 いくつか訪れた中で印象的だったブルワリーを2つ挙げたい。まず一つ目がBrasserie Surrealiste(シュールリアリステ)。

 彼らはブリュッセルのダンサールという洗練されたエリアにブルワリーとタップルームを構える。写真を見てもらうとわかるようにそれはもはやブルワリーというより、煌びやかなレストランのような佇まいだ。
 サーバーから、テーブル、椅子、そして店内の照明まであらゆるものが贅を凝らしたつくりになっている。挙げ句の果てにはトイレまで、まるでクラブのような雰囲気。その名の通り、まるで夢や無意識の世界に飛び込んだよう。

 また、肝心のブルワリーが見当たらないので、カウンターにいるスタッフに聞いてみると、なんとこの地下のフロア(しかも一階の光が差し込むような作りになっている)にあるとのこと。

この下にブルワリーがあり、一階からの光が差し込む。

 ビールのスタイルは、古き良きベルジャンとは全く異なり、IPAやサワーが中心。IPAもライトなセッションIPAからDDHまで。そして数は少なくないがバレルエイジのスタウトと、それはまさしくアメリカ西海岸のブルワリーのようだ。(実際彼らのレシピは強くアメリカに影響を受けているとスタッフは話す。)

 ブルワリーに併設するレストランではビールだけではなく、食事も提供される。この場所にはいわゆるビアギークやクラフトビール好きは、見たかぎり少なく、それよりも他のブルワリーやビアバーでは見ない客層の人たちが集まり、この煌びやかで非日常的な雰囲気を含めて楽しんでいる。

 Surrealisteは既存のベルギービールとは全く異なる新しい価値観と体験を提示し、またそれに惹かれた新しい顧客層が集う。その様がとても興味深かった。

ビールのアートワークも従来のベルギービールとは一線を画す


 もう一つのブルワリーがL'Ermitage(レルミタージュ)。

 このブルワリーは僕がステイしていた宿の真裏にあり、カンティヨン
とも、目と鼻の先にある。宿から近いこともあって、寝酒のつもりでいっぱいひっかけに行った時、数日前に訪れていたカンティヨンのベルトさんがいた。そして彼も僕のことを覚えてくれていたようで贅沢にも昨今のベルギービールのシーンなどを教えてくれた。またとても運が良いことにこの翌日、レルミタージュの6周年のパーティが行われることを教えてもらった。

 翌日に訪れると、会場はすでに盛大なパーティの様相で、ブルワリー内で複数のバンドのライブやDJ、また2階のスペースではラグビーの観戦まで行われていた。客層としては、言ってしまえばおしゃれな若者たちが集っていて、ビールのスタイルもペールエールやIPA、サワーにシードルといったベルジャンというよりも、比較的今時のスタイルを中心に作っているようだ。

レルミタージュはブリュッセル内にワインを扱うボトルショップもある

 新しい風を吹かせつつも、ベルトさんのいるカンティヨンともコラボレーションしたイベントなんかも過去には開催しているようだ。
 こうして一つの街角の中でも、クラシックとモダンが混在し、新しい境地に向かっていくブルワリーが次々と現れつつある。

 いくつかのつくり手に、話を聞いてみると、特にこの5、6年はシーンの中でも新時代が訪れている模様。
 別の機会で改めて整理するつもりだが、GentにあるDOK Brewingもほぼ同じ時期に醸造を始めている。彼らは同じ世代の醸造仲間たちで、横で強く結びつき、切磋琢磨しながらベルギーのビールシーンをアップデートしようとしている。(新しいつくり手を "ベルギービール" という括りにするには無理があるので、クラフトビールというより広義の表現にしています。)

 僕自身はクラシックなベルジャンスタイルも大好きだが、現地では若く、新しいスタイルのつくり手が現れており、ベルギーのビールシーンの新時代の一つのシーンを見た気がした。

salo Owner & Director
青山 弘幸
instagram :https://www.instagram.com/salo_kamakura
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引き続きお酒に関わる出会いやご縁を探しています。また応援のメッセージもとても嬉しいです。もしご興味を持っていただけたらお気軽にご連絡いただけますと幸いです。

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