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差別と恐怖は表裏一体か。映画『カラー』が描きたかったこととは

これまでSAMANSAのnoteで何度か取り上げているアメリカの人種差別問題

改善しようと様々な運動や取り組みがされている中で、むしろその根強い差別意識が露わになっています。

映画『カラー』は警察官の制服の色である「青」に着目し、
人種差別と絡み合う権威の問題を描くシリアスドラマ。

今回は、たった8分の作品時間の中で1つの事象を様々な立場から描き、
観るたびに感じ方が異なるその背景についてお届けします!

ここから先はネタバレを含みますので、作品をご覧になってからお読みいただけると嬉しいです!

〈タイトル〉『カラー』
〈監督〉Carly Rogers
〈作品時間〉8分27秒
〈あらすじ〉
警官による黒人への高圧的・暴力的な対応に揺れる昨今のアメリカ。新人の女性警官であるマリアは、社会をより良いものにしようと気合十分だったが、初めてのパトロールで厳しい現実を突きつけられることになる。

SAMANSA

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◎ 差別と恐怖は表裏一体か

新人警察官のマリアは、初めての巡回で白人警察官の上司ライアンが
黒人男性カルビンに職務質問をする場面を目の当たりにします。

カルビンに高圧的に接し、有無を言わせずに次々と尋問を行いはじめるライアン。

しかし、その高圧的な態度の中には、カルビンの一挙一同に怯える異様な姿もあり、マリアは怪訝な表情を浮かべたのです。

アメリカの警察官たちは、しばしば黒人の市民たちに対して異様なまでの高圧的な態度を取ったり、差別的な発言を投げかけることが問題となっています。

毎年約1100人もの人々が警察とのやり取りの中で亡くなっており、そのうち3割は黒人の人々が占めているという状態。

人口の割合を考えると黒人の人々が警察に殺される確率は白人の3倍にもなります。

非人道的でありながら、優位な立場にある警察官ですが、やはりその奥底には
自身の差別意識が間違っていることもまたわかっていると考えられます。

だからこそ、そこには対人間としての報復の恐れ、自分が傷つくことへの怯えが生まれているのではないでしょうか。

◎ アメリカ警察の訓練とは

また、異様なまでのライアンの動揺や、多発する警察による市民への発砲は、警察官になるまでの訓練時間と内容が原因だとも考えられています。

アメリカで犯罪学や司法制度を専門とするセス・ストートン教授によれば、警察官になるまでに必要な訓練期間はおよそ21週間から24週間

州によっては12週間程度しかないとも言われています。

日本でも警察官になるための警察学校の在籍期間は6ヶ月、およそ27週間(大卒の場合)ですが、警察学校は非常に厳しい環境の中で未来の警察官がいかなる事態にも対応するための指導が行われます。

しかしアメリカではわずかな訓練期間のうち、さらに3分の1程度はオンライン授業で行われることもあるのだとか。

ウェストバージニア州で警察官になった人々は16週間という訓練の中で、警察官が襲われる場面、銃を奪われて撃たれる様子など、実際に警察官のボディカメラに収められた残忍な映像を繰り返し見せられたといいます。

ストートン教授は、こうした過剰な恐怖心を煽る訓練方法はアメリカ警察の文化の特徴的なものであるとした上で、そういった事態に直面した時に沈静化する訓練などは行っていないことを問題視しています。

油断すれば自分が殺されるかもしれない、ましてや体格の大きな人々には真正面から勝てない、という固定概念が恐怖を増長させ、ライアンは何もしていないカルビンの前で取り乱すことになったのです。

◎ ロジャーズ監督の主張する「色」

本作のカーリー・ロジャーズ監督は、メイン州で生まれ育った黒人と白人のハーフとしてBlack  Lives Matterや警察に対しての責任を追及する運動を全面的に支持してきたものの、実際に何か変化をもたらすことはないのではないか、と考えていたといいます。

警察や人種差別の歴史を詳しく調べている内に、メディアで取り上げられる警察官が都合よく黒人であることに気がつき、なぜ彼らが、いまだに多くの無実の犠牲者を生む警察官になれるのか疑問を抱いていたそうです。

ロジャーズ監督はこの映画を制作するにあたって、警察と市民との対立は時に黒と白という肌の色の違いではなくて、黒と警察官の制服の色であるになりうることを描きたかったのです。

本作の終盤、息子を出迎えようとしたカルビンの母は、警察官であるマリアの姿に一瞬顔をこわばらせます。

それは当然ながら警察と息子が一緒にいるという事実にも驚いていたようですが、それよりも冷酷な態度から警察官そのものへの不信感があると考えられるのではないでしょうか。

実際、今年の1月にはテネシー州で危険運転によって下車を求められた黒人男性が、黒人警察官5人から殴打されて死亡した事件がありました。

この状況を記録していたビデオには激しい暴行に加えて暴言を執拗に吐きかける警察官たちの姿が残されており、非常に大きな波紋を呼んだのです。

人種差別だけでなく、警察という権力のある立場が加わり、さらに複雑化する問題。

本来は市民の生活を守るはずの警察官が、市民の脅威になりつつある今、
それは「青」という色で人々から線引きされているのです。

↓詳しくはこちらの記事からご覧いただけます。

ラストシーンでマリアがカルビンの家とパトカーの間で立ち尽くす姿は、
マリアが黒人の血を持つこと、そして警察官であることの不安定さと難しさを強く演出しています。

カルビンの家とパトカーの間で立ち尽くすマリア


冒頭のテレビ番組でもキャスターが言っていた
警察官を正せるのは警察官だけ」という言葉。

世界を良くするために警察官になったマリアは今後「青」に染まってしまうのか、それとも自分を失わずに戦えるのでしょうか…。



また、9月15日(金)にはアメリカで無実の黒人男性を白人警察官が殺害したという実際の時間を映画化した『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』が公開されます。
*タイトルをクリックしていただくと公式サイトにアクセスできます!

この作品は自身の医療用通報装置を誤作動させてしまった黒人のケネス・チェンバレンと安否確認で訪れた白人警察たちが織りなすサスペンス。

殺害までの90分間を実際の事件とリアル進行で描き出し、事件の経緯と真相が明らかにされていきます。

ぜひ映画『カラー』と合わせてご覧ください。

映画『カラー』はSAMANSAで公開中です!
ぜひもう一度ご覧ください!

※ 作品タイトルを押していただくと『カラー』の配信画面へご案内します

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