【詩日記】知らない映画の予告編

知らない映画の予告編
 
 
 知らない映画の予告編ばかり見させられる
 嘘みたいな話だけれど本当に知らないんだ
 登場人物が誰もいない映画
 背景がずっとグリーンスクリーンのままの映画
 ずっとコップが宙を漂うだけの映画
 知りたくない情報よりもましだ
 夜が明けるまでずっとずっと
 空が暗い間中ずっと見せられる
 僕以外の席はぬいぐるみで埋まっている
 さっき買ってきたような新しいものから古びた廃墟にあったようなぬいぐるみまで
 みんなよくこんなもの見れるよなと思う
 
 ポップコーンの香りがお上手だ
 みんなほいほいと口に放り投げて食べる
 このぬいぐるみのどこに胃袋があるのだろう
 そろそろ眠い?
 ぼくは目を閉じようとしたところで
 隣の古ぼけて綿がはみ出ているぬいぐるみが
 優しい目でぼくのことをトントンしていることに気がついた
 そのぬいぐるみと目があった
 すごく慈悲に溢れた目をしていた
 わからないけれど涙が溢れてきた
 こぼれてこぼれて仕方ない
 こぼれた涙はぬいぐるみにシミを作っていく
 こんなに優しいぬいぐるみがぼくのせいで汚れてしまう
 泣いてしまうぼくに気がついて他のぬいぐるみも寄ってきた
 ああだから
 だから君たちは
 ぼくは観念して目を閉じた

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