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夜行新幹線@台風15号とダイバートした東海道新幹線

深夜1:00過ぎ。静かに動き始めた新幹線で、周りの疲労感とは裏腹にちょっぴり高揚感に包まれるわたしが、そこにいた。

なんかこれ、旅人っぽくない?


遡ること8時間前。わたしは、東京駅から西へと進む新幹線のぞみ55号に乗車した。次の駅、品川に到着するとちょっぴり不穏な空気が流れてきて、そのまま新横浜を通って、小田原で停車してしまった。

どうやら、愛知だか静岡で大雨が降っているらしい。その影響で、わたしが今乗る新幹線は二進も三進も動かないどころか、追い越し車線のような線路の真ん中に佇んでしまったために、降りることもできないという、籠城のような状況。

Twitterで情報収集をする限り、どうやらこれはかなり深刻な状況で。

それでも、旅に出るときにはスーツケースに500mlのペットボトル一本と栄養ゼリーを入れるという習慣が功を奏して、脱水にも極度の空腹にもならずに、とりあえずKindleに入れていた積読を消化したりHuluでダウンロードしていたドラマを眺めたり、そんなことをしていたらあっという間に日付を跨いでしまった。

車内の冷房のせいなのか、窓からの冷気なのか、とにかく体が冷え切っていて、何度もトイレに足を運ぶ。

ひとつ席を挟んで隣に座っていたピンクヘアーのマダムは、どうやら旅慣れされた方のようで。何度かわたしの肩を叩いてきては「ここからの最終の在来線を調べてちょうだい」とか「以前似た状況だった時は、列車ホテルができてそこに泊まったのよ」とかいろんなお話を教えてくれながら、戦友としての絆を深めていった。

日付を超えたあたりになってやっと、この電車はこれから三島まで前進して、三島車庫から東京駅へ引き返すことがアナウンスされた。いわゆる、ダイバート。これも、補聴器で聞き取れた音声とTwitterの情報とマダムからの情報を足してようやく理解したもので。

いつもは日本語と英語だけのアナウンスも、この日は中国語と韓国語のアナウンスまで流れてきたから(全部聞き取れなくても、どの言語を話しているのか聞き分けられるようになったのは、今使っている補聴器の性能の良さですね)、情報弱者ができるだけ少なくなるよう配慮された環境だったんだろう。

新幹線には電光掲示板があるけれど、あれは決まった情報を提示するためのものであって、リアルタイムに音声と同じ情報を提示する機能はついていない。だから、ここまでの情報は全て、TwitterとJR公式のHPによるもの。

車内放送で普段使われない韓国語や中国語のアナウンスが始まるというのは、それだけ音声による日本語情報だけでは状況を把握できない乗客がそこに存在しているということで。

それくらいこの社会は音情報で溢れていて、耳が聞こえにくいというのは、こういうときにとても不便なんだなと思い知らされる。そして、車内アナウンスを呟いる他の人たちの情報を瞬時に見つけられるSNSというものは、本当にありがたいサービスで。もうみんな、何かあったときはTwitterに呟いてね。本当に。

いざ三島駅を通過すると、いよいよダイバートがはじまる。

真っ暗な中、勢いよく電車が後ろへ進んでいく。

真夜中に走る新幹線が、こんなにも速いだなんて。しかも、後ろ向きに進んでいくもんだから、時空さえも逆方向に進んでいるのではないかという錯覚を起こしながら、なおも後ろに後ろに引かれていく。

車窓からは星がキラキラと見えて、景色が前に前に流れていく。

どこまでもどこまでも……

不思議な浮遊感に包まれながら、新幹線は後ろに下がり続けていく。

なんて思っていると、あっという間に新横浜駅を通過して、深夜2:30の東京駅に降り立っていた。

駅には煌々と電気が付き、空気はじめっと蒸し暑く、高揚感はすっかりと疲労感へと変わっていき、戦友のマダムは忽然と姿を消していた。

8時間の時を経てわたしは、物理的に一歩も進めなかったけれど、はじめてのダイバートに後ろに進む夜行新幹線を経験して、旅人スキルだけは大きくあげて帰ってきた。

旅の武勇伝を聞かれたら「夜行新幹線に乗ったことがありましてね……」なんて言うんだ。えへん。

あんなに寒かったのに、圧倒的に足りない水分と糖分のせいで自販機アイスの誘惑に負けそうになりつつ、さらに旅人スキルをあげるべく、吸い寄せられるように列車ホテルに身を預け、朝を待つ。


真夜中の東京駅は、まるでそれがさも当然かのように、ずっとずっと、煌々と光りつづけていた。今は朝の3時なのか昼の3時なのか。今ここにいるわたしは、旅に出たのか、旅の前なのか。全ての現実が非現実に、全ての非現実が現実に、時空がぐわんと揺れたちょうどその頃には、列車ホテルの二列シートでわたしはぐっすりと眠りについた。

朝ごはんは、何を食べようかしら。はて、それは本当に朝ごはんなのだろうか。もう、なんでもいいや。

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