『小さい“つ“が消えた日』15周年
つぶらなひとみにくるんとしたフォルム、かがんだ姿はひらがなの小さい「つ」みたい! 五十音がこんな姿だったら…そんな想像がふくらむお話が世に出て15年がたちました(初版は2008年)。今も語り継がれながら、ファンを増やしています。
■ストーリー
物語のはじまりはこんなふう…
作者はステファノ・フォン・ローさん。ドイツの方です。
あれ?? ドイツの方が日本語のひらがなを主人公にした本を書いたのですか?
そうなのです。日本留学時代、促音(小さい「つ」)の発音に苦労した体験がもとになっています。「発音しにくいな…音がないなら、なくたっていいんじゃない?」…そんな体験から、自分は必要ない存在なんだと悲しくなった小さい「つ」が五十音村を出て、そうすると人間の話す言葉が混乱してしまう…という日本語ファンタジーが生まれました。
待って。五十音村って、何!? そんな文字たちの村があるの??
「あ」は五十音の先頭だから威張ってばかり、「い」さんは大金持ち(遺産)、長老は「こ」さん(古参)、「ら」は最近存在感が薄く…と、言葉あそびの要素もあって個性的なキャラクターに癒されます。文字にこんな個性があるなんて楽しいですね!
物語に素敵な絵を描いてくれたトロステン・クロケンブリンクさんは植物学者で、日本には来たことがないのだそう。作者のステファノさんの話をもとに日本の風物を絵にしたのだとか。(なので、車が左ハンドルだったりします笑)
イラストが編集部に届いたとき、「くるくる巻きにされたカレンダーの裏にぎっしり絵が描いてあってびっくりした。どれがどのキャラクターか謎解きするところから始まった」(担当者談)そうです。
「君がいないとだめなんだ」という強いメッセージと、個性ある五十音のキャラクターの魅力も相俟って増刷を重ね、現在9刷に達しています。
■舞台になっています
2013年の初演以来、学校公演を中心にのべ83ステージもミュージカル上演している「イッツフォーリーズ」の𡈽屋友紀子さんはこう語ってくれました。
「2013年に俳優たちによる企画として始まり、出演者23名で上演しました。その後パペットを使って2016年に全国公演をスタート。原作のテーマである『おかえり』の歌声が全国各地に広がったことを嬉しく思います」(プロデューサー・𡈽屋友紀子さん)
「小さい“つ”が抱える心の痛みを自分のことのように感じてくれる客席の子どもたち。小学生の男の子が客席で号泣したこともありました。他者も自分自身も大切にすることを、温かく包み込んでそっと伝えてくれるこの本に出会えたことは、私たちの劇団にとってかけがえのない財産です」(明羽美姫さん・2013〜2020年まで小さい“つ”役)
「この作品との出逢いは、私に新しい挑戦させてくれました。壁にぶち当たるたび、小さい“つ”くんのたくましい姿が思い浮かびます!」(森島美玖さん・2022年から小さい“つ”役)
■教材にも採用
近年は検定教科書に掲載されるなど、国語教育界隈からもお薦めの声が続々届いています。
2016年には中学生の国語教科書でも紹介されたほか、進研ゼミ「チャレンジ3年生」の冊子『考える力・プラス講座』やZ会の5年生向け情報誌「エブリ情報局」にも掲載されているので、目にした方もいらっしゃるかもしれませんね。
■翻訳版
実は、ドイツ語版(日本語で書いた本を著者自らがドイツ語訳しています)、中国語版もあります。世界にはばたく「小さい“つ”」ってどんなお話? 私、気になります!
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