来津三太

SF小説をかきます。第9回星新一賞優秀賞、第6,10回星新一賞最終選考。書いたもの、選…

来津三太

SF小説をかきます。第9回星新一賞優秀賞、第6,10回星新一賞最終選考。書いたもの、選考落ちのものちょこちょこ公開していきます。

最近の記事

月のこうもり【SF短編】

--- あらすじ --- 吸血鬼が出るんだって。そんなうわさを聞いた少年はその夜、ロケット発射場の見える公園の丘で、お姉さんと出会う。華奢で色白で、こうもりを従え、牙のような八重歯を持つ、不思議なお姉さん。空には、人々のあこがれを失ってしまった月。少年とお姉さんは、ふたり望遠鏡を覗いて月を観察する日々を送る。月の形が移ろう中、少年は近づいていく。月と、父と、お姉さんの秘密に。 第10回星新一賞 最終選考落ち作品を改訂 ---------------- 「吸血鬼が出るんだって

    • 三角形のその先に【SF?ショートショート】

       目が覚めた。  目覚めでぼやけていた視界が、次第に目に映るものの輪郭をはっきりとしていく。目の前にあるのは俺の両足だ。俺は椅子に座っていて、床を見下ろす格好になっている。  頭をあげると、正面の座席と向かい合っていて、そこには女性がうつむいて座っている。彼女も眠っているようだ。  ここは電車の車内だ。彼女の頭の後ろ、車窓からは、外の真っ暗な景色がのぞいていて、暗がりの中に街灯か何かの小さな明かりが、点々と浮かんでいる。まだ頭がはっきりしないが、たぶん仕事帰りの電車の車内で

      • 夢のスローライフ【SF短編小説】

        ー あらすじ ー 男の生活はとても便利で速やかでスムーズで、不自由はどこにもない。それなのに、最近なぜかめまいがする。男は夢の人生を求めてーーー ーーーーーーーー  若い男が座席の窓側の壁にもたれかかって、手のひらほどの大きさしかない小さな窓から憂鬱げな目を外に向けている。ミツハシを乗せた極超音速旅客機は、音の5倍の速度で成層圏を飛行し、出張帰りの彼を速やかに運んでいる。  ミツハシは窓から地上のほうに目をやる。雲の地平がはるか下に白く平たく広がって、そのところどころの隙間

        • 星の光は遠く【SF短編小説】

          ーあらすじー この小さな星の上で、宇宙船に給油をし続けてもう何年たったのだろう。いろいろなことがあったが、それも、今日で最後だ。 ーーーーーー  給油を終えた最後の客が飛び立つ。エンジンのノズルから吹き出す炎で、この小惑星の表面に浮かぶ砂塵が舞い上がる。炭化水素系の推進剤に特有の青い炎の輝きは、はじめ目もくらむほどの明るさだったが、高度が上がるにつれて段々と小さくなり、澄んだ暗闇に浮かぶ星々の光と見分けがつかなくなったのちに、ついには見えなくなった。  昔は、もっと長い時間

        月のこうもり【SF短編】

          理想の恋人【SF短編小説】

          --- あらすじ --- 昼は学生として、夜は風俗店で働く私は、アンドロイドである葵を立派な風俗嬢として育て上げる羽目になった。風俗嬢としては何だか頼りなかった葵も、ちょっとしたアイデアのおかげで少しずつ成長していくのだけど・・・ 第6回星新一賞 最終選考落ち作品を改訂 ----------------  私がその子と初めて出会ったのは、雨の降る日だった。  夕暮れどきの歓楽街。霧のような細かな雨により、道路脇のビルたちのネオンの光が拡散され、街はぼんやりとした雰囲気に包ま

          理想の恋人【SF短編小説】