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違いを楽しめない時代|業務標準化と飲食店経営

企業や組織が特定の業務やプロセスを一定の基準や手順に従って行うことを一般的に「業務標準化」と呼びます。

一定の基準や手順に従うことにより、社内の従業員のうち誰が業務を行っても効率性や品質を保つことが可能になり、企業の規模を拡大させるためには必須となる概念です。

業務標準化が徹底できている代表的な存在はマクドナルドで、業務標準化によってファーストフードを全世界規模のチェーン店にした先駆け的存在です。

マクドナルドは“出店するすべての店舗におけるメニュー、価格、オペレーション、サービスが同一”という店舗のシステムを標準化することで、それまでにはない経営効率を実現しました。

出典:マクドナルドの窓から覗いた日本(日本マクドナルドホールディングスホームページ)

これにより、全国どこに行っても同じクオリティのハンバーガーを食べることができます。マクドナルドは全世界に店舗を拡大しているので、海外旅行に行った時でさえも同じクオリティのハンバーガーを食べることができるのです(国によってローカライズはありますが、これがまた楽しいものです。)

全国展開をする企業にとって業務標準化は必須の概念であり、実際に全国チェーンの飲食店では業務標準化に取り組んでいるケースがほとんどです。

これは移動が多い消費者にとって、一般的には喜ばしいことです。

しかし、個人的にはこれが少し残念に感じることがあります。店舗によって味や見た目に差が出てしまっているところにこそ、愛着を感じてしまうことがあるからです。

例えば、名古屋のローカル飲食チェーンである「味仙」は店舗によって味と雰囲気がだいぶ異なっています。

僕が良く利用するのはJR名古屋駅のビルに直結しているJR名古屋駅店と名古屋駅から徒歩10分程度に位置する柳橋店です。

JR名古屋駅店は「うまいもん通り」という駅構内の飲食店街の一角にある店舗で、新幹線の利用者を含めた全国のお客さんが並ぶ活気のある店舗です。ここでは多くのお客さんが味仙の代表的なメニューである激辛の「台湾ラーメン」を食べています。

僕が訪れる時はあまりお酒を飲んでいる人は多くなく、観光の記念として「台湾ラーメン」を食べている人が多い印象です。

一方で柳橋店はというと、店内に入るとまず目に入るのがどのお客さんもほぼ瓶ビールを注文しており、賑やかな街中華的飲み屋の様相を呈しているところで、まるで違うお店のように思えます。

こちらの店舗はいい意味で店内がうるさく熱気が充満していて、玄人好みの空気感が漂っています。ある意味、本当に台湾に来たかのような店舗です。ちなみにこの店舗で瓶ビールを注文すると「味仙」のロゴ入りのコップでビールを飲めます。

どちらの店舗も「辛くて旨い」は共通していますが、たくさんの違いがあって気分によって使い分けることができます。

また、京都の代表的な飲食チェーン店である「餃子の王将」も、いい意味で店舗によって味や雰囲気が異なっています。

王将はカウンターで飲食をすればすぐにわかりますが、目の前の厨房で店員さんたちが一生懸命に中華鍋を振りまくっている様子を眺めることができます。

全国展開されている飲食店なので業務標準化はされていますが、こうして真心こめて中華鍋を振っているわけなので、機械によるオートメーションレベルでの業務標準化は行われず、必ず料理人ごとの微妙な個人差が生じるはずです。(ちなみに京都・烏丸御池にある餃子の王将は「OHSYO」と表記をしており、意図的に他店舗と異なる雰囲気を出している)

味仙や王将のように、各店舗の違いと自分の好みを把握していると、業務標準化しきっていない飲食店は店舗選びがより楽しくなります。そして店舗ごとに好みや愛着が湧いてきてチェーンと言えども常連客になりたくなるものです。

もしかしたら、経済成長の生き残りを賭けた企業成長の波に乗るために、あと数年もしたら味仙も王将もマクドナルドレベルの業務標準化を仕掛けてくるかもしれません。

違いを楽しみたいファンとしては「そこまでしないで今のままで…」と願うばかりです。

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