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顔のみえるカンケイ

先日、運転中にうとうとして交通事故を起こしてしまった。

事故から5日が経ち、少しだけ気持ちも落ち着いて来た頃のこと。

保険会社の人から「先方の方々が、あなたの身体のことを心配していたので、連絡を取ることがあればお礼を」と言われた私は、「一体いつ挨拶に来るんだ!?」と催促されている気がして青ざめた。

保険会社が間に入ってくれているから、トラブルを避けるため当事者同士はあまり接触しない方がいい。そう言う人もいる。

システム的には、たしかにそれでもいい。面倒なことはお金で解決して後腐れなくドライに。東京にいたらそれで済んだかもしれないが、狭い田舎に住んでいるとそうもいかない。事故現場は、職場のすぐそばだ。さすがに職場は言わなかったが、またいつどこで顔を合わすかもわからない。いつかは行こうと思っていたが、これはまずいと大急ぎで挨拶に行くことにした。菓子折りを持って、小さくなって。

憂鬱だな。行きたくないな。でも、そんなことばかり言っていられない。背筋を伸ばして、ごめんください、と3カ所に謝りに行った。

そこで再会した皆さんは、とてもとても優しかった。ひねくれた私は嫌味だと受け取った「身体は大丈夫か?」は、ことば通り私のことを心配してくれていた。車社会だからか、運転中にウトウトすることにも、車を誰かにぶつけてしまうことにも皆さん身に覚えがあるようで、「人ごとじゃないと思った」と言ってくれた。「お互い気をつけましょうね」と。

店に突っ込んだお花屋さんには、「今度お花でも買いに来てくださいね」と言われ、トヨを壊してしまった花屋の隣の92歳の一人暮らしのおばあさんには「またいつでも遊びに来てね」と言われた。私が車を壊してしまったお花の先生は、「直す?買い替える?悩むところよねー」と車の相談をされた。なんとあたたかいんだ…と本当に救われた。

冷静に話を聞いてみると、このカーブは事故がとても多いらしく、おばあさんのお宅はこれで事故に遭うのが4回目だそうだ。それならば、私を悪と罵るよりも、何か事故防止の対策を取った方がよっぽど生産的なのではないかしら、とあの時の警官の顔がよぎった。

今回私はフェンスにぶつかって止まったからよかったものの、最悪だった時は、そのままおばあさんの家に車が直撃して、家の一部が崩れたそうだ。しかし、乗っていたのが当人でなかったので保険がきかず、自分で事故を起こした側と交渉しなければならず本当に嫌な思いをした、とのことだった。

おばあさんから「あなたのとこの保険屋さんが今までで一番よかった!前のよりいいトヨに変えてもらっちゃったわよ!」と満面の笑みで言われ、若干複雑な気分ではあるもののひとまずホッとした。それもこれも、人的被害がなかったこと、物損全額保障の保険に入っていたことで円満解決できたおかげだ。保険大事…。

挨拶が終わり、ぐったりと疲れたが行ってよかったと心から思った。人間は、やはり顔を付き合わせてコミュニケーションを取らないと、真意はわからないなと思った。してしまったことを重く受け止めて、せめてもの誠意を見せる。これから花が入り用の時は、あそこのお花屋さんに行こうと決めた。そしてそのときは、お隣のおばあちゃんの家にもちょっとだけ寄ってお茶をご馳走になろうと思った。

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