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蝉時雨の縁側

母方の祖母の家に来ている。
祖母の家は房総にあり、10年ほど前に祖父が他界してからは、祖母がひとりで暮らしている。
昔はこの家に祖父母と母のきょうだい3人、そして私の曽祖母にあたる人が住んでいた。母屋と離れのある大きな家だ。
私が物心つく頃には、母を含めたきょうだいは皆家を出ており、だからこの家には時の止まった部屋が多くあった。
母やそのきょうだいが使っていた部屋は、一通りの片付けがされているものの、残っている荷物も多く、本棚や机、鏡台はわたしにとって宝箱のように見えた。

わたしが生まれてから今まで、特別な理由のない限り、毎年夏と冬の長期休みはこの家で過ごしてきた。
数えきれない程の思い出の背景に、この家がある。思い入れもある。

しかし、人が使わないと、家の時間は止まってしまう。そして時間の止まった家は、少しずつ朽ちていく。
私たち家族が(というか主に両親が)訪ねた際には、直したり掃除を手伝ったりするのだが、それでも追いつくようなものではない。

いつか、この家を壊さなくてはならない日が来るんだろうな。
今回の滞在中、そう思うことが多かった。
あといくつ思い出を残せるだろうか。
せめてわたしの大事な人を、連れて来ることができたらいいと思う。

エアコンはないけれど
素晴らしい蝉時雨が降る縁側にて

#エッセイ #コラム #小説 #わたしのこと

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