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「君と」

幾つ歳を重ねたら うまく歩けるようになるのだろう
幾つ歳を重ねたら うまく歌えるようになるのだろう

駆け上った歩道橋から見えるのは
排気ガスをまき散らして走る車ばかりで
見たかった夕日はもうとうの昔に
地平線の向こう側 消えてた

目覚まし時計に揺り起こされて
ふやけた瞼をこじ開けてみたけど
こんな曇った眼で一体何が
見えるっていうんだろう

それでも通勤ラッシュ
もみくしゃにされながら仕事に出掛け
僕は今日を過ごしてく

まだ夕焼けがこの眼に
ちゃんと見えていたあの頃

できない逆上がりも
練習して何とか廻れるようになった
反吐が出そうな数学も
山ほどの公式頭に叩き込んで何とか乗り切った

けど

それが何だっていうんだ
今の僕の 一体何になってるっていうんだろう

通じ合わない言葉で
今日も愛想笑いを振りまきながら
通じ合えない言葉で
明日もなんだかんだとやっていく

それで結局

それで結局僕は

気づけば背中丸めて視線落して
これだけの人混みの中せこせこ歩いて
結局何も

今夜ひとり部屋に戻ったらせめて
誰かから電話でもかかってこないだろうか
話がしたい
話がしたい
ちゃんと 通じ合う言葉で

話がしたいんだ
誰かと
僕と
君と

幾つ歳を重ねたら うまく歩けるようになるのだろう
幾つ歳を重ねたら うまく歌えるようになるのだろう
幾つ歳を重ねたら 誰かと本当に話ができるようになるんだろう

伝わらなかった言葉を
伝えられなかった言葉をいくつも
鞄の中詰め込んだまま
僕は部屋に帰る
伝えたい言葉を
ほんとは何よりも
何よりも伝えたい言葉たちをいくつも
抱えて 今夜も

電話は 鳴らない

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