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識 閾

時計の音ばかりがひとり
響き渡る
地下道は一面 天井の
人口灯で照らし出され

足音を落としていったはずの
君の姿は見当たらず
ただ晧晧と
無機質の壁 壁 壁
続く地下道

  知らなくてもいいことがあったよ
  幾つも幾つも
  手を伸ばしてもいないのに
  落ちてきた果実が
  私の足元でやがて朽ち始め
  還る土もないこの場所で
  腐臭を放つ

窓も出口も消えた地下道ではいくら
時計が時を刻もうと
掴んだ砂のよう瞬く間に
この掌から零れ落ちる
この手から 零れ落ちる

何処にいるの
 何処にいったの
耳に残る足音もいつしか薄れ
呑み込まれてゆく、追い続ける私の
足音に次々

巻き戻しのきかない時間を幾つ越えれば
出口に辿り着くんだろう
いくら眼を覆っても突き刺さる
人口灯の下では眠りさえ消え失せ、

  知らなくてもいいことがあったよ
  幾つも幾つも
  手を伸ばしてもいないのに
  落ちてきた果実が
  還る土などないこの足元でやがて
  腐臭を放ち始める

諦めてしまえばもう何も
夢見ることもなく 救われるかも
幻と笑ってしまえばもう何も
望むこともなくいっそ 楽になるかも

 けど

叩いても叩いても割れないこの壁の向こうには
何もないのかもしれない
血だらけになって叩くこの両手を痛めるだけで
何もないのかもしれない
ようやく割れてももう二度と君に会うことは
ないのかもしれない
 けど
  もう一度空が見たい
  もう一度風が見たい
  もう一度土が見たい
  もう一度君に

何もないかもしれない壁の向こうに
何かあるかもしれない壁の向こうに

もう一度

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