オックスフォード留学を振り返る~出願編~

荒木 啓史

初めてオックスフォードを訪れたのは、今からちょうど5年前の2014年11月末。当時勤めていた三菱総合研究所(MRI)のプロジェクトの一環でしたが、イギリスらしい曇天と寒気、典型的なフィッシュ・アンド・チップスに加えて、強い印象に残ったのがオックスフォードの街が醸し出すアカデミックな空気でした。よく「オックスフォード大学はロンドンにあるんだよね?」と聞かれることがありますが、オックスフォード(市街地)はロンドン中心部から電車・バスで1時間~1時間半ほど離れた場所にあり、比較的小ぢんまりとした大学街です。しかし、街を構成する伝統的な建物やモダンな教育研究施設などを目の当たりにして感じる知的な雰囲気は圧倒的で、かねてより海外大学院で博士号を取得したいと考えていた私にとって、オックスフォードはあまりに魅力的でした。

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それから約半年後の2015年初夏、引き続きMRIの研究員として働く傍ら、本格的にオックスフォード大学留学に向けた準備に取り掛かりました(どうして2014年末から2015年春先までは動かなかったの?と疑問に思う方がいるかもしれませんが、日本のシンクタンクで働いていると、年末~年度末の時期は、なかなか仕事以外の時間がとれないのです・・・)。その際、まず迷ったのは、修士課程を目指すか博士課程を目指すか。当時、既に修士号は持っていたので可能であれば博士課程から始めたいと思っていましたが、周囲の情報によると学部・修士ともに日本の大学で日本語で論文を書いて学位を取得してきた場合、オックスフォード大学の博士課程にいきなり入学を認められる可能性は非常に低いとのこと。また、例えばアメリカの大学と比べると顕著ですが、オックスフォード(も含めてイギリス全般)の大学院博士課程は基本的にコースワークがなく、博士論文執筆に向けた研究にフォーカスすることになるため、自ら積極的に授業等を受講しにいかなければ、なかなか体系的に(強制的に!?)最先端の知見を「教えて」もらうことができない、という点も個人的には気になりました。しかし結局、MRIで経験してきた海外プロジェクトが一つの業績として評価してもらえるかもしれない、また子供2人を抱える身としては少しでも早く博士号を取得したい、必要な知識は授業に出なくとも自分で論文を読んだり直接教員とディスカッションしたりすることで身につければよい、といった考えから修士課程ではなく最初から博士課程への進学を目指すことにしました。

そして結局、2015年の年末までかけて申請書類を作成し、2016年の年始に提出、同年3月に合格通知が届き、9月からオックスフォードでの新生活がスタートしました。それから約3年、自分自身そして家族にとって最高の研究・生活環境(除く天気・食事)を満喫し、過日最後の口頭試問を含めて課程を修了し、晴れて「Leave to Supplicate」なるものを受け取りました(Leave to Supplicateについては別途解説します)。しかしもちろん、出願から修了に至るプロセスでは、すべてがスムーズに進んだわけではありません。そもそも出願時に必要な研究計画について、後にオックスフォードで指導教員になっていただいた教授に事前相談したところ、いかに私の研究計画が世界トップレベルの大学で通用しないか鋭く指摘され、メールの最後には「これが厳しい現実ですので、ご理解ください」と書かれてしまう状況でした・・・。こうしたストーリーも含めて、自身の留学経験を振り返ることは、これからオックスフォードに限らず海外大学院での博士号取得を目指す方に何かしら参考になるかもしれない。そんな思いから、私の担当ブログでは、これから数回にわたってオックスフォード大学留学に関わるエピソードなどをご紹介していきます。今回はまず、多くの人にとって留学の実質的なスタート地点となる出願(特に研究計画の作成)に焦点を当ててみたいと思います。

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