2021年10月、アンドリュー・ヤンがForwardという本を出した。そして、Forward partyを結成して参加を呼びかけている。パーティ(政党)を名乗っているが、民主党、共和党に加入したままで参加できるので運動と言ったほうがより適切だろう。まずは、本の最終章を紹介する。
「右でも左でもなく前へ」という言葉は、イタリアではベッペ・グリッロの仲間たちが好んで使う言葉だ。彼らにとってのフォワードは、「国民が署名と投票で直接法律を作れるようにすること」、「ベーシック・インカムを実現して貧困のない社会にすること」、「議員に任期制限を課して、政治家の多選の弊害をなくすこと」だ。前が具体的に何を指すのか、世界の先駆的な人たちははっきりと示し始めている。日本でもこの言葉を耳にすることがあるが、単なるキャッチフレーズで、言葉にふさわしい取り組みは見つからない。
ヤンの本を読んで感心するのは、特にアメリカでは、政治学や社会学、心理学と言った分野で独創的な研究があって、日本ではほとんど知られていないが、ヤンはしっかりとそれをカバーしながら、今の私たちの社会が抱える根本的な問題を探求してそのソリューションを提示していることだ。そういう人がアメリカの大統領選挙で存在感を示す戦いができるというのは、大きな希望だ。
ヤンが紹介する政治意識に関する研究は、大きな示唆を与えてくれる。まとめてみた。
まず、私たちが何より認識すべきなのは、政治の左右対立はもちろん、社会のあちこちに作られている対立というのは、不作為を続けるための演出に過ぎないということだ。社会の進化を阻むために陳腐な対立がつくられている。そもそも人間社会で党派に分かれて争うべき利害の対立などない。ごく一部の人たちが富と権力の集中をすすめ、それを固定化しようとしているに過ぎない。
ジョナサン・ハイトの説について私が言及したいのは、生まれたばかりの子どもやネイティブなコミュニティには、忠誠心や権威という概念はないということだ。あらゆる文化に忠誠心や権威があるというのは、違うだろうが、あらゆる文明にはあるというのは確かにその通りだ。ピラミッド型の権力構造は、左派右派とわずあるが、ピラミッドを維持するために強いられる価値観に同化しやすい人たちがなり高い比率でいる。それが先天的な性質か後天的なものなのかは、もっと検証される必要があるだろう。権威主義(authoritarianism)はデモクラシーの反対概念だが、私たちの社会をヒューマンにするとは、そもそもそうした価値がないほうが、よい社会になるというコンセンサスをつくることに違いない。
最後にヤンが提唱すhuman-centered economyの原則を紹介する。
ヤンはまだマネーシステムに関しては言及がないが、ベン・バーナンキとの興味深いやりとりを紹介している。
世界から貧困とマネーの支配をなくすことがいかに簡単なのかよくわかる言葉だ。もちろん通貨は無から印字によって生まれるのだから、通貨発行機関が発行するのに資金調達は不要だ。インフレが起こらないようにマネーサプライを調整したらいいだけだ。
通貨発行の原則を銀行の利益のためから人が生きるために変えることこそ、変更すべきルールのコアだ。そのコンセンサスさえできれば、社会は人間らしくなる。