見出し画像

#105 PAX VOBISCUM 〜平和とともにありますよう〜

今年のクリスマス・イブは、母校立教大学の新座キャンパスで行われたクリスマス・イブ礼拝に出席した。僕自身はクリスチャンではないが、キリスト教会の行事には信者ではなくとも参加が認められている。現在ヨーロッパに暮らす者としてキリスト教文化への理解を深めたいという気持ちもある。(写真は立教大学新座チャペル正面)



PAX VOBISCUM

立教大学といえば池袋のイメージを持つ人が大半だと思う。池袋キャンパスには関東大震災や東京大空襲を生き延びた歴史的建物がいくつかある。その池袋キャンパスから電車で約30分の郊外に新座キャンパスがある。その中央に1963年に建設されたチャペルの正面に刻まれているのが、PAX VOBISCUM の文字だ。ラテン語で、元の発音は「パックス・ウォビスコム」、英語では Peace Be With You と訳される。日本語では、「平和とともにありますよう」といったところだ。

🎄     🎄     🎄

キリスト教諸派と日本の大学の関係

キリスト教に馴染みのない人でも、大まかに「カトリック」と「プロテスタント」に分かれることはご存知だと思う。ここで、「立教大学はどちらなのですか?」と聞かれると、少し困る。というのも、キリスト教を先の二者に分類するのは実は少し無理があるからだ。本来なら、カトリック、プロテスタント、イギリス国教会(聖公会)、東方教会(ロシア正教)の4つに分類するのが一番分かりやすいように思う。日本に関連の深い部分だけ、歴史をおさらいしてみる。

ローマを中心に発展したカトリックから、16世紀はじめにドイツで起きた宗教改革を経てプロテスタントが生まれ、その後少しして、同じくカトリックからイギリス国教会(Church of England, C of E と呼ばれる)が誕生。そのイギリス国教会が海を渡ってアメリカへ行き、その「イギリス国教会のアメリカ支部」が日本に来て設立されたのが立教大学だ。

昨夜の立教大学新座チャペル〜1963年完成で今年還暦

ちなみに、カトリックが母体となっている日本の大学には上智大学があり、プロテスタントには青山学院大学がある。上智、青学、立教の3大学が、キリスト教の3大宗派を代表して日本でも活躍しているのは非常に興味深い。
 ちなみにアメリカでは、カトリックは首都ワシントンのジョージタウン大学、プロテスタントはボストン近郊のハーバード大学、イギリス国教会はニューヨークのコロンビア大学と、こちらも大活躍だ。

🎄     🎄     🎄

イギリス国教会における「中道」の発想

意外にも、イギリス国教会と日本にもたらされた仏教には共通した思想「中道」がある。ここでは、僕の解釈ではなく、イギリス国教会と仏教の方々から直接聞いた話を書いてみたい。

仏教の「中道」の「中」の意味は、二者の中央という意味というよりも、内と外の「内」の意味に近いようだ。異なる考え方に接した時、それらの最大公約数的な選択をするのではなく、自己の内面に問いかけることに価値を置く哲学だ。仏教各宗派が少しずつ異なる例えを用いて、「中道」の教えを説いている。

一方、イギリス国教会の「中道」は、ラテン語の Via Media、英語では The Middle Road と言われ、二者の中央を意味する。二者とは、カトリックとプロテスタントだ。教会での祭祀を重視するカトリック教会と、各個人が聖書に向き合って信仰を深めるプロテスタントのどちらにもよらず、両者の良さを活かしつつ進む哲学を意味する。
 言い換えれば「伝統と個人の思想」を調和させる哲学であり、伝統的に学問研究との相性が良かった。英国の両雄、オックスフォード大学とケンブリッジ大学も、この思想の流れをくんでいる。

🎄     🎄     🎄

聖歌に込められた教育的効果?

昨夜のクリスマス・イブ礼拝では参列者も合計5曲の聖歌を歌った(カトリック・イギリス国教会では「聖歌」、プロテスタントでは「讃美歌」と呼ばれる)。そこで面白い「教育的効果」を発見した。

一応昔は音楽屋だったので、聖歌を歌う時に口パクでは情けない。初見でもちゃんと歌いたい。昨日歌った5曲の中で知っていた聖歌は1曲だけ、つまり4曲は楽譜を初見して旋律を追いながら、歌詞を見て歌った。ちなみに昨日の5曲は、F-F-D-Bb-G(全て長調)と、シャープとフラット2つまでの読みやすい楽譜だった。

聖歌は4番まであることが多く、昨日はこんな感じだった。

1番:調号を確認し、移動ドで旋律を追いながら、ほぼハミングで歌う
2番:旋律を把握、少しずつ歌詞をのせて歌えるようになる
3番:ほぼ旋律に合わせて歌詞で歌えるようになる
4番:大きめの声で楽しんで歌う(4番は全体の音量も上がる)

よく考えてみると、これは何かを勉強する時のプロセスと同じだ。分からないことでもまずはとりあえずやってみて、4回ほど繰り返しているうちに自信がつき、楽しめるようになる。キリスト教の儀式の歌の中に、「やればできる」を実感できる教育的意義を見出した夜だった。

🎄     🎄     🎄

素晴らしかった合唱団とその理由

昨夜のクリスマス・イブ礼拝は1時間半にわたる大変充実した会だったが、やはり元音楽屋として最も感動したのは、合唱団が歌った3曲の歌だった(参列者は歌わずに聴く)。最後に、その合唱団の何が素晴らしかったかということを述べて、今年のクリスマスへの想いとしたい。

礼拝のような「ハレの舞台」では、合唱団は全員おそろいの式服で揃えるか、あるいは揃えずとも「上は白、下は黒」のように、全体の色調を揃えることが多い。しかし昨夜の礼拝での合唱団は、全員がバラバラの色の私服だった……赤あり、青あり、緑あり。最初は素人っぽく見えた。

しかし歌い始めると、その印象は正反対になった。式服で揃えた大所帯の合唱団では、個人個人の声が聴衆に届くことはほぼない。しかし昨夜は18人という小規模の合唱団で、個人の声がちゃんと聞こえてきた。特に、二列目中央の青い服の歌い手の声は特別に素晴らしかった。最後の曲では一部ソロもあり、ソロを歌うリーダーと思える最前列の女性の上手さが光る一方、支える残り17人も決して伴奏的にならず、個々のメンバーの声の個性がちゃんと残っていた。

僕は個人的に、「みんなで力を合わせる」ことは素晴らしいと思うが、そのプロセスの中で「個性が犠牲になる」のは嫌だ。個性を尊重しつつ、全体としての完成度を上げることが、音楽でも研究でも、あるいは社会運営でも必要だと思っている。昨日の合唱団はその哲学をそのまま具現化していた。バラバラの色の服、人によって違う声質。それでも全体としての演奏は完成度が非常に高く、音楽の一つの理想形を聴いた想いがした。

昨日の演奏はまだ公開されていないので、VOCES8 による昨日最後の曲、Lully, Lulla, Lullay の演奏をお聴きいただきたい。この曲は16世紀に作曲された原曲を2008年にイギリスの作曲家フィリップ・ストップフォードがリメイクした作品だ。昨日の演奏は、この動画の演奏に全く引けを取らない素晴らしいものだった。

今日はクリスマス、大切な「ひと・こと・もの」に想いを馳せる日にしたい。みなさま、メリークリスマス🎄平和とともにありますよう✨

今日もお読みくださって、ありがとうございました。
(2023年12月25日)

この記事が参加している募集

この経験に学べ

サポートってどういうものなのだろう?もしいただけたら、金額の多少に関わらず、うーんと使い道を考えて、そのお金をどう使ったかを note 記事にします☕️