空に落ちる

空が近い。
澄んだ青空。あたたかく、眩しい太陽の光。
きれいな景色だ。
最後にみるなら、こんな景色がいいと思っていた。
ささやかな最後の願いが叶った。
今頃になってこんな願いは叶うだなんて、
我ながら皮肉な人生だ。

風が吹く。
頬に当たる風は、
「こっちへおいで」と言っているのか、
「きちゃだめだ」と言っているのか、
もう分からない。
最後にわたしができることは
気持ちが向く方へ行くだけ。

本当にこれでいいのか。
後悔しかない。
やり直したいことだらけ。
取り返したいことも山ほどある。
でも、もう、疲れてしまったのだ。

わたしは、これ以上、
わたしを続けられない。
止まることも、進むことも、戻ることも、
なにもかもできないのなら、
もうここで終わりにしよう。

深く息を吸う。
今まで重くて苦しかった空気が愛おしく思える。
息を吐く。
あと、何回、繰り返すのだろう。

怖くないといったら嘘になる。
体験したことのない、その先。
どうなるかも、何があるのかも分からない。

それでも、いまのわたしを続けるほうが、
もっとこわいのだ。
きっと、これ以上にこわいことなんてない。

だから、大丈夫。
わたしは、いま、進める。

もう1度だけ、空を仰ぐ。
きれいな澄んだ青空だ。
あの透き通るきれいさも、
かげりのない眩しさも
陽の光のあたたかさも、
わたしは一度も持てなかった。

少しでも近づきたいと思ったけど、
いつかは、わたしもきれいになれるって思ったけど
結局はできなかった。
わたしは、いつまで経っても、どうやったって、輝けなかった。
きれいさとは程遠い、わたし。

きれいで、眩しくて、あたたかくて。
わたしもそんなふうになりたかった。
大好きな青空。大嫌いだったよ。

呼吸が落ち着く。
涙はもう出ない。
やっと穏やかになれた。
やっと夢が叶う。
やっと苦しみから解放される。

あぁ、なんていい日なんだろう。
いまの自分が、いちばん好きな自分だと、
胸を張って言える。
自分も、世界も、なにもかも、受け入れられる。

この気持ちのまま行こう。
今日は素晴らしい日だ。
きっと、いまが、人生で1番幸せ。

もう何も迷わない。
道はない。
ただ気持ちが行く方へ。

息を吸って、そして吐く。
いま、世界とわたしが1つになる。
景色を目に焼き付ける。
この景色がみれて、よかった。

ありがとう。さようなら。

遠くで風が吹く音がする。
風はもう、感じない。

サポートしていただけたらニンマリします!ご褒美のおやつ代になりそうです~!