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②冥王星のセミモジュラーは実験的航海 / modern sounds pluto

セミモジュラーシンセを使って曲を書きました。使用したのはアメリカのメーカー"Modern Sounds"の製品『Pluto』。公式サイトで注文し個人輸入しました。

▼届くまでの記事

今までモジュラーシンセにはあまり興味がなく手を出しませんでしたが、Plutoのデザインやサイズ、音色にグッとくるものがあり、制作に取り入れたいと思いました。

また、演奏における基本スタンスがキーボード奏者?の自分が"モジュラーシンセを導入して曲を作ったらどうなるのか"ということに興味がありました。

実際に色々触ってみると

"今までの音作りとはまったく違う観点で創作意欲を刺激される"

のでとても面白いです。

制作した曲はソフトウェアのピアノとPlutoだけのシンプルなものです。エフェクターや他機材も混ぜると表現の幅は広がると思うのですが、できるだけ素材を生かしたい狙いがあり、あえて機材は限定しました。個人的に

"制限した方がクリエイティビティが発揮されやすい"

という意図があります。

ある日のハーフムーン

楽曲名

"曐閒移動式共振"

セイカンイドウシキキョウシン

あらゆる物質の素になる素粒子の振動を調整することで、星と星の間を移動できる架空の装置をイメージしました

過去の文明で使われていた装置を使い、ひとりの男が故郷の星を離れ、次の星へ向かう途中の心象風景を音で表現しました。

即興でピアノを考えたのでなぜこういうメロディー、コードになったのか深くは分かりませんが、客観的にみると1997年アンドリューニコル監督の名作 

映画「ガタカ」のマイケル・ナイマンの音楽の影響

が出ている感じがします。

理不尽なことへの諦めとそれを他人事のように俯瞰して視点を変えることで導き出されるかすかな希望が共存するような雰囲気です。

記事を書いていると映画「ガタカ」を観たくなってきたので、名言を引用したいと思います。まだ観ていない人ごめんなさい。

映画スクエアのサイトから引用

ヴィンセント(ナレーション)「地球にいる意味なんてないと思っていたのに、突然去りがたい気持ちが湧き上がっている。我々を形作っている原子は、宇宙のかけらだったと言われている。もしかしたら、僕は去るのではなく、故郷に帰るのかもしれない」
Vincent: For someone who was never meant for this world, I must confess I'm suddenly having a hard time leaving it. Of course, they say every atom in our bodies was once part of a star. Maybe I'm not leaving... maybe I'm going home.

映画スクエア

きちんとアレンジをするとさらに雰囲気を出すことができる自信はありますが、この曲はひとまずこれで完成です(即興は勢いが大事)。

その瞬間に浮かんだアイデア、無意識、迷いまでもひっくるめて作品とすることで、意識的に考えて作る曲とは違ったおもしろさが生まれるからです。

機材について


そもそもこの「Pluto」とはどういう機材なのか簡単に解説します。

(下記画像は公式マニュアルから引用)

2つのボイスとシーケンサー、ミニキーボード、リバーブ&ディレイを備えたBuchla Music Easelから80年代のCasioシンセサイザーに至るまで、ポータブル電子楽器の伝統を継承したシンセサイザーです。

いわゆる東海岸の論理的なMoog系ではなく、西海岸の実験的な系譜を受け継いでいます。

ざっくり言うと2つのボイスをmoosと呼ばれる冥王星の5つの衛星にちなんで名付けられた5つのモジュレーションチャンネル(CHARON、STYX、NIX、KERBEROS、HYDRA)のパルス信号を使っていくつかのパラメータをコントロールして音を作っていきます。

コントロールの命令はパッチケーブルを使って出力と入力を接続。
上記画像でいうところの
 -出力 まわりが黒丸
 -入力 まわりが白丸

例えばCHARON(出力)から左端にあるSTEP(入力)を接続すると、CHARONのパルス信号がHIGH(信号が出ている時)の時に「ボイス1のシーケンサーのステップをひとつ進めて」という命令が伝わります。

つまり、

命令する信号が5つあって、それぞれが何の命令をボイス1と2(実際に音がなる部分)に伝えるのかという仕組みです。

一般的なシンセサイザーは音を出す配線や命令系統がすでに固定されているので値を変更することしかできません。一方モジュラーシンセは音を出す命令系統をユーザーが配線する必要があるわけです。なので、音作りが複雑にできる分、仕組みを理解するのは難解です。

Plutoはセミモジュラーシンセに属します。つまり内部ですでに配線が行われているので、全部の配線をユーザーが行う必要はなく、ここぞという所の配線だけをやればOK。

ある程度、

音作りの自由度をたもちつつ、仕組みを100%理解しなくても遊べるような仕組み

になっているので、普段シンセサイザーを扱っているキーボードプレイヤーにとっては入りやすい機材だと思います。

パッチ

今回の曲で組んだパッチが下記。1箇所配線を間違えてるので決して真似しないで(笑)(出力から出力に接続してしまっている。。。なんてこった!)

ちなみに音色メモリー機能なんてありません。物理的にケーブルの配線をする必要があるので当然ですが(笑)

マニュアルについているパッチ記録シート

セッティング

事前準備で演奏用MIDIキーボード「keystep」と「Pluto」をMIDI接続しています。こうすることでコードやノート情報をPlutoに送り、同じスケールで鳴るようにしています。

ピアノはテンポに同期させず揺れたまま弾きました。Plutoのクロックはピアノ演奏に同期していませんが、それと近いような値になるように設定しました。

keystepは給電をかねてUSB-MIDIでPCに接続。Logic Pro XでNOIREピアノを起動し演奏。ピアノはMIDI、Plutoはオーディオで同時レコーディング。ミックス、マスタリングはLogicで行いました。

ミックス時、PlutoにはEQ、コンプ、位相調整のプラグインをかけていますが、リバーブは"Pluto内蔵のもの"しかかけていません。シマー系の音色でレンジが広くいい感じに鳴ってくれました。

曲中で聞こえるピアノ以外の音はすべてPlutoから鳴っています。最大2ボイスなのですが、音色やタイミングによっては倍音成分が多く豊かな響きになっていることと、リバーブの余韻があることで音や演奏自体に広がりが出るので、ボイス数のデメリットは感じませんでした。

動画冒頭で鳴るクラリネット的な音などむしろ音色の幅の広さを垣間みせてくれました。

それからPlutoの音を出して感じたのはS/N比がとてもいいことです。さすがに内部パーツのことまで分かりませんが、質の良いものをつかっているような気がします。

あくまで推測ですがガレージメーカー的な立ち位置で生産されていると思うので、コストがかかっても細部までとことんこだわって作られているような感じがします。

マニュアルを何回か読むことである程度操作を理解したので、次回はボーカルをあわせたり、MIDIで映像を同期させたりして違う雰囲気の曲を作りたいです。

たくさんの可能性がある機材なので、まず表現したいことを決め、そこから不要なものを削っていくようなやり方でアイデアを絞るのがいいかなと思っています。

冥王星のセミモジュラーの旅ははじまったばかり。次はどこへ行こうかな。


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