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上海の日々

土曜出勤した帰り路。
お昼時だしご飯いこー。と、数人でタクシーに乗り合い、浦東のケリーホテルへ向かった。目当ては低層階のレストラン。5つ星ホテルといってもまだ上海の物価が安い時代。小洒落たエスニック料理屋でも1000円もあればお腹いっぱいになれた。

バリ風のでかい観葉植物やトーテムポールの置かれた店内。まったりした雰囲気の中、アイスコーヒーを啜りながら、主任が少年のようなニシシ笑いで、話を切り出す。
「ねぇねぇ、聞いた話なんだけどさァ、政府のスパイって普通にその辺にいるらしいジャン」
同期のSちゃんがこともなげに明るく答える。
「あ、前職でいました。」
ブッ。コーヒーを吹く主任。
皆の視線が一斉にSちゃんに集まる。
「なんかね、前、プーシーの方の会社いたんですけど、結構色んな国の人がいて。同僚で白人のすごい綺麗な女性がいてそのひとがスパイだったんですよね。で、その人と職場内で付き合ってる男性がいたんですけど。」
私含め、みんな興味津津で、
Sちゃんの方に身を乗り出して話を聴いた。
「わたし、その男性の方と同じ部署で、よく話とかしてたんですけど。彼女なのに本名とか教えてもらえないし、パスポートとか免許証1回も見せてもらったこと無いって言ってました笑」
へぇーと感心するのも束の間
Bさん「私のママ友のよく行くお店の老板娘もスパイだったらし〜わよ。ふつ〜に公寓の一階にある便利店みたいなとこの」
C夫さん「日式飲み屋のさくらちゃんもスパイでしょ?」
そんなゴロゴロスパイがいてたまるかい😂
でもあながち百パーセント嘘とも言いきれなくて、そんな中国が好きだった。

★★★★★★★★★

 春節も終わり、2月の職員会議。
 事務の山田さん(若い男性)が挙手し、なにやら嬉しそうな笑顔で説明を始めた。
 我が校がダンスの撮影に協力した謝礼で、職員は、SNH48というアイドルグループのコンサートに無料で招待してもらえる。との内容だった。

 コンサート…?アイドルやポップミュージックのコンサートは、今まで行ったことがなかった私。会議後、中学部の音楽の老師(ラオシー)が、僕は行きたいッ゙☆皆も行こっ?とフランクに周りを誘っているので、音楽に造詣が深い老師が言うなら、おもしろいのかもしれない。と、その場にいた何人かで、事務室にチケットをもらいに行った。

 コンサート当日、金曜夜。勤務を早々に切り上げた私達は、浦西(プーシー)の会場まで、タクシーを飛ばした。【上海大舞台】は18000人入るとても大きな会場で、舞台を中心に円形闘技場のようにすり鉢状に配置された客席が特徴的だった。
 席に座ると撮影禁止の旨がアナウンスされた。ド派手なライトと爆音の音楽にのせて、SNH48の細くて白くて妖精のように可憐な少女たちが舞台に登場した。
 ふと横を見ると「シャオアイ〜〜〜〜〜〜♥」と
涙を流さんばかりに感激している老師がいた。
「シャオアイって誰すか?」間の抜けた質問をした私に
「あの!!!センターの!!!黒髪のいっちばん可愛い子!!!」と教えてくれた。
確かに透き通るような肌と栗色がかった豊かな黒髪、ものすごく端正な顔立ちは遠く客席からでもひときわ目立っていた。
しかしどの子もお人形さんのように可愛く、脚がめちゃくちゃ長く(日本人と比べて中国人て脚めっちゃ長いのよ長い人は。身長も高いし)、仕草もダンスも歌声もアイドル然として…なんの予備知識もなくペンライトも持たずにライブ参戦した私が、一夜にして箱推しファンになってしまうくらいのカリスマ性があった。
AKB48の十八番を中国語で聴くのも悪くないなと思った。アンコールの恋するフォーチュンクッキーでは盛り上がり、パヤパヤしたあの踊りを観客も一緒になって踊った。個人的に上海最後の思い出ソングとして印象に残っていて、今でも街で聴くと懐かしい気持ちになる。
コンサートを堪能した後は、老師に連れられてラーメン屋とバーをはしごし、べろべろになりながらシャオアイはじめとした各々の推しの魅力について皆で語り合う【反省会】なるものを催すにわかオタクの我々であった。

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