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⑻島の停電

 長いスコールを雨宿りでやり過ごし、商店街のある島の先端に戻ると、だんだん日が暮れてきた。だけど近くの家やお店は暗いままで、どうやら停電しているようだ。腹も減ったけど、それよりも汗をかいていて着替えをしたい。
 

なんだか楽しそうな島の人たち。

 宿に戻ってシャワーを浴びようとしたら、水が出てこない。お湯が出てこないのはいいとして、水は出るだろうとたかを括っていたのでガッカリしてしまう。表に出ると宿の人がいて、
「シャワー浴びたい?一部屋だけ出るところがあるから、そこを使いな」
と、向かいの方にある部屋の鍵を開けてくれた。どうして一部屋だけ出るのかわからなかったが、嬉しかった。ありがとう、とお礼を言って水シャワーを浴びた。

 さっぱりして、少し散歩したけど停電は全然復旧しない。レストランも当然営業できないので、小さい商店で手作りのサモサを二つと、ココナッツウォーターの缶を買った。旅行者は蝋燭で明かりをとって談笑している。どうせ電気があってもなくても、特にやることもないし、それがこの島のいいところだ。ぼくは真っ暗な宿に戻って、川べりのテーブルで流れる水の音を聞きながらサモサに齧りついた。

 それからさらに一時間ぐらいすると突然あっけなく電気が点いた。やっぱりけっこう安心する。多分旅行者のだろう、フォーという歓声が遠くから聞こえた。

翌日はよく晴れた。

 

 ぼくが前回訪れた時、10年前に島に電気が引かれたと聞いた。その時、10年前に来たかったなあ、と思ったことを思い出した。だいたい三時間くらいの束の間だったけど、ぼくにとってはよい思い出になったと思う。



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