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32歳の男が2023年に摂取したコンテンツを100のランキングにして紹介していく。

 まえがき

さやわか式☆ベストハンドレッド」というイベントがあります。

 こちらは「尋常ならざる広さと深さであらゆるコンテンツを網羅し、余人の追随を許さないさやわか氏が、1年間を通して目にしたあらゆるコンテンツから100個を選び抜いて、ランキング形式でご紹介していきます。
 
マンガ、アニメ、ゲーム、文学、音楽、映画、演劇、ライブ、スポーツ……などをすべて一緒くたにして、一切の政治的配慮なく、完全に私情に基づいて、体力の許す限り語り尽くします。
」というもの。

 毎年年末の恒例イベントとなっているのですが、それを見る度に僕も似たようなことをしてみたい。軽い気持ちでそのように思って、12月頭から準備を始めたのが本記事となります。
 正直、狂気のような企画だったことが途中で分かり何度か挫折しかけた訳ですが、年末年始の休暇を全投入することで何とか形と相成りました。

 本記事は本家とは違い2023年に僕こと、さとくらが見たコンテンツ100個から選んでランキング形式としています。そのため、めちゃくちゃ古い作品などが平気でランキング上位にあります。

 また、作品を選ぶ際の基準には基本的に好き嫌いという感情的なものは排除しています。これは好きで、こっちは嫌いと言われても個人の好みでしかありませんので。
 一応、このランキングには僕なりの評価軸と理屈を持って選んでおります。
 とはいえ、個人的な偏ったランキングであることは間違いありません。温かい目で読んでいただけたら幸いです。


100~91

100位・「わたしの幸せな結婚」(アニメ)

 アニメ放送時期のヒロインランキングで「わたしの幸せな結婚」のヒロイン、斎森美世が1位になっていて、実写映画化でも話題だったので見てみた。 あらすじは「舞台となるのは、日本古来の美意識と西洋文明の流行が織りなすロマンの香り高い明治大正を思わせる架空の時代。 継母たちから虐げられて育った少女・美世が、孤高のエリート軍人・清霞と出会い、ぎこちないながらも、互いを信じ、慈しみ合いながら、生きることのよろこびを知っていく」というもの。 あらすじにはないけれど、特殊能力的な設定がある。この設定によってヒロインは落ちこぼれだと虐げられたりするのだけれど、そういう設定がなくとも物語は成立していた気もする。

99位・「水は海に向かって流れる」前田哲

 高校生の男の子が叔父の家に居候することになったが、叔父はシェアハウスをしており、そこに住む榊さん(広瀬すず)という女性に恋をする話。
 僕自身の年齢的なものもあるんだろうけれど、大した発言、行動をしていないけど、周りが「君すごいね」って褒めてくれる男の子の妄想的な物語は受け付けなかった(原作の著者の方は女性だけれど)。あと、家事する時も榊さん(広瀬すず)はバチバチに化粧しているのは、何かのスタンスなんだろうか。
 主人公に片思いする當真あみが演じるキャラクターは可愛いし、逆ギレするし表情豊かで良かった。

98位・「エクストリーム・ジョブ」イ・ビョンホン

 犯罪組織を検挙するため、フライドチキン屋に扮した麻薬捜査班の奮闘を描くアクション・コメディ。
 という説明文の通りの映画。最後にちょっとした驚きの展開もあるけれど、韓国映画特有のノリについていけないところはありつつも、友達とワイワイ見るのには丁度良い感じ。

97位・DJふぉいの切り抜き

 僕は虚無の時間を基本的にYouTubeのショート動画を見て過ごすのだけれど、その時に流れてきて嬉しいのは「DJふぉいの切り抜き」なのだ。
 イケメンを眺めるだけで視力が良くなった気がする。
 DJふぉいはRepezen Foxxのメンバーで、正直彼らがどういう存在かあんまり分かっていない。切り抜き動画でしかYouTubeを見ないので。
 なので、その辺の判断は何もできないけれど、DJふぉいの喋りは上手い。考えもしっかりしていて、嫌なこと言うなぁとなってしまう配信系の切り抜きの中で、ほぼ唯一安心して見ることができる人。

96位・「ガチャと僕のプライベートプラネット」太陽くん

 WEB小説。あらゆる小説投稿サイトに載せているようだけれど、僕が読んだのはカクヨム版。あらすじには「目が覚めると、白い部屋にいた。 部屋の中央にはガチャガチャが一つ。 やることもないのでガチャを引いていく日々。」とある。
 主人公は山田と言い彼は、宇宙からやってきた高度な知的生命体によって次の地球の支配者を決める惑星開発ゲームに参加させられていたのだった。
 僕がこの作品を知った理由はSFマガジン 2023年12月号で紹介していたからだった。出版されていないWEB小説を雑誌で紹介したりすんだ、という驚きもあった。
 山田は序盤からゲームに参加させられていることには気づき、また観客がいることも知って、見られていることを自覚した動きをはじめる。個人的にこの見られる主体としての自覚を得て振る舞っていく姿が今っぽくて良かった。

95位・「ベイビードライバー」エドガー・ライト

 天才的な運転技術を持つ、犯罪組織のもとで「逃がし屋」として活躍するドライバーの話。
 ノリのいい音楽をいっぱい流して、シーン一つ一つも格好良くておしゃれ。けれど、ちょっと主人公に都合のいい展開やキャラクターの配置が目についてしまった。
 車の運転シーンは素晴らしい。

94位・「ゼロ・グラビティ」アルフォンソ・キュアロン

新映画論: ポストシネマ(渡邉大輔)」にて論じられていたため視聴。
「ゼロ・グラビティ」=無重力という邦題は、宇宙空間という物語の舞台である以上に、ポストカメラ的な本作のメディウムのメタファーにもなっているわけだ。
 と、渡邉大輔が書いている通り、ポストカメラとは何かを徹底的に試している実験的な映画。ちょっとゲームっぽいなと思った。ただ、これは順番が逆なのか。
 ちなみに二〇一三年公開の映画。

93位・「オドオド×ハラハラ

 佐久間宣行とオードリーのラジオが好きすぎる人間として、チェックせずにはいられなかったバラエティー番組。
 説明欄には「この番組は、オードリー(若林正恭・春日俊彰)とハライチ(岩井勇気・澤部佑)がゲストと共に、トーク番組の可能性をあれこれと試していくチャレンジトークバラエティー」とある。
 個人的に「ニュアンスだけで頼みたい ふわふわ料理店」という企画が良い。タイトル通りだけれど、ゲストが好きなものを踏まえて、若林と春日と岩井がニュアンスだけの料理名を大喜利していき、選ばれた料理名で料理人が料理をする、というもの。
 20時~21時の放送というのもあって、ほど良く見やすい。

92位・「青野くんに触りたいから死にたい」椎名うみ(マンガ)

 あらすじ「愛を捧げるたびに何かを失う。 幽霊と女子高生――断絶した世界のふたりが紡ぐ、濃密で一途なホラーラブストーリー。 君のためなら死んでもいいよ。」というもの。
 この最後の「君のためなら死んでもいいよ」が、どんどん呪いのようになっていくのが「青野くんに触りたいから死にたい」なのが、一つ発明だなと思う。
 ドラマになっているようだけど、僕はそちらはチェックしていない。ただ、この漫画の魅力は一瞬で不気味さを醸し出せる漫画ならではの演出にある気がする。
 途中までしか読めていないので、来年全巻読みたいと思っている。

91位・「終身刑のエルフ」もちもち物質

 WEB小説。こちらもSFマガジン 2023年12月号で紹介されていたので、読んでみた。こちらは「小説家になろう」に載っていた。
 あらすじは「ここはブラックストーン刑務所。ある王国最大の刑務所である。そしてこの刑務所には人間の囚人達に混じって1人、エルフが服役している。
 エルフの平均寿命は1000歳である。どの看守より長生きなエルフは、誰よりもよく刑務所のことを知っていて、誰よりも楽しく刑務所で生きていた。
 これは、終身刑のエルフが様々な囚人達と出会い、ささやかながらも刑務所暮らしを少しずつ楽しくしていく話であり、そんなエルフの半生を追う話である。
」とのこと。
 読んでみると文章がしっかりとしていて、非常に好感が持てた。
 あらすじにはないけれど、エルフからすると自分の寿命より先に王国と刑務所が滅びるだろうと思っていてる。この設定だけで勝っているのに囚人たちのキャラクターも魅力的で一読の価値はある。

90~81

90位・「文學界 2023年1月号」新海誠と「国民の物語」――『すずめの戸締り』と七〇年代 渡邉大輔

 今年の僕は評論家、渡邉大輔の強い影響下にあったな。
 僕が今後、映画を語るときに念頭に置かれるのは渡邉大輔ならどう見るかのような気がする。
 すずめの戸締りは2022年に公開された新海誠の映画だけれど、渡邉大輔は本稿の中で山田洋次、宮崎駿、三島由紀夫、司馬遼太郎を通して「国民の物語」と新海誠を交えて論じている。
 今後、新海誠がどのような映画を撮るにしても、「国民の物語」を交えて語られていたという事実は踏まえておくべきように思う。

89位・「犬王」(映画)湯浅政明

 南北朝~室町期に活躍した実在の能楽師・犬王をモデルにした古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を、「夜明け告げるルーのうた」の湯浅政明監督が映像化した長編ミュージカルアニメ。
 古川日出男の文学に対する考えやスタンスが大好き人間としては見なければ、と思っていた。ミュージカルということもあるけど、映像と音の融合はすごかった。
 話も良いのだけど、物足りなさもあった。無理にミュージカルにしなくてもストーリーの面白さで戦うことは十分できた気はする。

88位・「グリッドマン ユニバース」雨宮哲

円谷プロダクションの特撮ドラマ「電光超人グリッドマン」を原作とするテレビアニメ「SSSS.GRIDMAN」「SSSS.DYNAZENON」の2作品をクロスオーバーさせて描く劇場版アニメ」とのこと。
 実は僕は「SSSS.DYNAZENON」で挫折した人なので、楽しめるかなと不安だったのだけれど、面白く見れた。クロスオーバーと言いつつ「SSSS.GRIDMAN」がメインで、こちらのキャラクターである新条アカネが途中登場するシーンは熱かった。
 あらすじを調べると冒頭に「かつてこの世界は、ひとりの少女によって作られ、壊された」とある。どうしても、この「ひとりの少女」新条アカネが中心にいる物語なんだなと実感した。

87位・「騙し絵の牙」(映画)吉田大八

 大泉洋を見たい!
 そんな時に見るべき映画。
 あらすじは「大手出版社・薫風社で創業一族の社長が急逝し、社内で次期社長を巡る権力争いが勃発。そんな中、カルチャー雑誌「トリニティ」を担当する変わり者の編集長は、強引な改革を進める専務によって廃刊の危機に直面した自分の雑誌の存続に奔走する
 最後に小さな本屋さんだからこそできる面白いことを一つ提示する。僕はこの方向性に大賛成だったりする。
 いろんな個人が面白いことをいっぱい仕掛けていく。上手くいかないことも多いだろうけれど、その中のいくつかは残る。それでいいんじゃないかな。

86位・「ちひろさん」(映画)今泉力哉

 今泉力哉監督の映画をあまり見ていない。けれど、現代の写し鏡として見逃せない印象もある。
 本作のあらすじは「元風俗嬢であることを隠そうとせず、海辺の小さな街にある弁当屋でひょうひょうと働く女性。それぞれの孤独を抱えた人たちが、彼女のもとに引き寄せられるように集まり癒やされていく」というもの。
 主演は有村架純。この映画の登場人物は全員生々しい人間味があり、その中心には確かに有村架純がいる。
 けれど、なんとなく元風俗嬢のちひろさんが抱えているものが明確ではないためか、本当に描くべきちひろさんに対する癒しがおざなりになってしまった気がする。

85位・「Creepy Nutsのオールナイトニッポン

 このランキングに佐久間宣行やオードリーのラジオは入っていない。僕の日常に住み着きすぎているコンテンツのため、順位をつけることができなかった。
「Creepy Nutsのオールナイトニッポン」も、その日常の一つだったのだけれど、2023年の3月に終わったので、触れておきたいと思う。開始が2018年で5年間続いたことになる。
 ラジオを毎週聞いていると、パーソナリティーを身近に感じることがあって親しみが沸く。ラジオの魔力というか、磁場があるんだろう。そういう意味で考えると、Creepy Nutsのオールナイトニッポンの磁場は最初の頃熱を持って放っていたけれど、最後の一年は緩くほどけていた気がする。

84位・「キングオブコント2023

 キングオブコントとは(みなさまご存じでしょうが)「2008年にスタートし、毎年TBSで決勝戦を生放送している“日本一のコント師”を決める大会」とのこと。
 毎年見ているわけではないけれど、今回たまたま見ることができた。コントを作ることとショートショートや短編を作るのに、少し似ている。
 そういう意味でサルゴリラの小峠の選評にて「途中で出てくる『市役所行かなくちゃいけない』とか『家で居場所がない』っていう、あそこでやっぱりあいつの人間性が出るというか。それでよりバカバカしさに深みが増した」というのに納得した。何気ないシーンで人間性が見えるショートショートや短編は確かに優れている。

83位・「サージウスの死神」佐藤究

 佐藤究のデビュー作(当時の名義は、佐藤憲胤)。
 あらすじには「男が地面に激突する直前、俺はそいつと目を合わせた。そのときから俺の頭の中に“数字”が住み着いた。ある日を境に、ルーレットへのめり込んでいく男。狂気の果てにたどり着いた場所「REPTILE」。“破壊と疾走”新鋭作家の放つハイブロウ小説。第四十七回群像新人賞優秀作。」とのこと。
 物語としては「ルーレットへのめり込んで」破滅していく訳だけれど、途中からもっと根本的な狂気的な根源みたいなものを探そうとしはじめる。
 本作でデビューしたのが、2004年で当時の純文学の空気感を踏まえている感じもあるが、今の佐藤究作品を読んでいると彼が描こうとしているものの底にあるものが分かる気がした。

82位・「トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ~」シーズン2

 スリル満点の本格ドラマに出演する芸人たちが、台本なしのシーンで面白トーク合戦を繰り広げる。敗者は即刻ドラマ降板となる新感覚お笑いバトル。
 僕は企画演出・プロデューサーの佐久間宣行のラジオが大好きなので、当然「トークサバイバー!」も見るわけだが、シーズン1の方が好きだったかも知れない。
 今回は「アンジャッシュ」の渡部建が中心になっている。スキャンダルを起こした芸人をこういう形で、お笑いに昇華していけることは、素直に良いことだと思う。
 けど、それがメインの作品だったかな? と首を傾げた。

81位・「嵐電」鈴木卓爾

新映画論: ポストシネマ(渡邉大輔)」にて語られていた「ジョギング渡り鳥」を見たい! と思ったけれど、ネトフリにもアマプラにもない。
 けど、監督で検索すると「嵐電」なる映画がヒット。
 見るしかない。ということで視聴。
 まず、嵐電とは「嵐山本線」のことで「京都府京都市下京区の四条大宮駅から右京区の嵐山駅までを結ぶ京福電気鉄道の軌道路線」とのこと。
 その嵐電を舞台に「3組の男女の恋愛模様」を描いた作品。
 3組の男女の中で「太秦撮影所にランチを届けた縁で、俳優に京都弁を指導することになったカフェ店員の女性」の話がとくに良かった。
 演じることに対する自覚的な視点。告白のシーンをやり直す時の切迫感。映画自体が誰かが演じているものだと誰もが分かっている中で、映画内で再度同じシーンを別の場所で同じセリフを繰り返す意味はなんだろうか。
 上手く言葉にできない重要な何かがそこにある気がする。

80~71

80位・「恋はつづくよどこまでも」(ドラマ)

 修学旅行先で高校生の佐倉七瀬(上白石萌音)は、初老の女性が目の前で意識を失い倒れるところに遭遇する。 偶然通りかかった医師・天堂浬(佐藤健)が介抱したことで女性は意識を取り戻す。 スピーディに対処する天堂の姿に一目ぼれした七瀬は、彼に会いたい一心で看護師を目指す話。
 上白石萌音と佐藤健をキャスティングした人はまじで素晴らしい。
 好きな人に会いたい、という単純な行動理由で看護師になる佐倉のキャラクターは魅力的だし、しんどい現実を描いていない訳でも決してないが、コミカルに処理もしているので非常に上手く話題になったことに納得した。

79位・「かわうそ堀怪談見習い」柴崎友香

 夏までの僕はダブルワークで日々疲れていて、小説をゆっくり読む時間を作れずにいた。そんな中で、さすがに何か読みたいと思って、始発の電車の中で読める小説として柴崎友香を手に取った。 あらすじは「恋愛小説家」という肩書に違和感を持った「わたし」が怪談を書くために取材を始める、というもの。 日常を丹念に描く柴崎友香だからこそ描ける違和感や怖さは新鮮だった。とくに自分自身が過去に犯した加害性を忘れている、という恐怖は小説ならでは。

78位・「佐久間宣行のNOBROCK TV

 こちらはテレビプロデューサーの佐久間宣行が企画・出演・プロデュースを手掛けるYouTubeで配信されているバラエティ番組。
 一つの動画が基本的に20分くらいで、長くても30分は行かないくらい。個人的にこれくらいの時間が食事をしながら見るのに丁度いい。
 好きな企画はいっぱいあるが、NOBROCK TVで世間に見出されて売れていく人を見るのはドキュメンタリーのようで面白い。この先も長く続いて、どんなスターを生み出していくのか注目したい。

77位・「最強勇者パーティーは愛が知りたい」山田肌襦袢

 WEB漫画で、まだ単行本も出ていない作品だけど面白くて追っている。
 あらすじとしては「最強モテ勇者が、なぜか俺(非モテ魔法使い)を離してくれない!!!!最強勇者パーティーの冒険は、みんなのちょっと変わった愛(ラブ)に溢れている。」とのこと。
 今のところは、まだ最強モテ勇者と非モテ魔法使いにフォーカスが当たっていて、二人の関係がいくつかの展開を迎えたら他のキャラクターに、という感じかと思う。
ヲタクに恋は難しい」という漫画があって、めちゃくちゃ売れたし、あらゆる点で語られるべき作品だと思うけど、最近のみんなは忘れている気がする。異世界ファンタジーもので「ヲタクに恋は難しい」っぽい話へと展開して行ってくれたらなぁと思いながら、読んでいる。

76位・「DUNE/デューン 砂の惑星」ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 あらすじは「西暦1万190年。人類は宇宙帝国を築き、厳格な身分制度のもとで各惑星を1つの大領家が治めていた。皇帝の命を受けたアトレイデス家は、希少な香料を産出する砂の惑星「デューン」を統治すべく旅立つ。しかし彼らは現地で、宿敵ハルコンネン家と皇帝が仕組んだ陰謀に直面する」というもの。
 もう、このあらすじからややこしそう。実際、見ていると登場人物が多く、政治的な駆け引きや世界観のあれこれによって、混乱する部分は多い。
 とはいえ、主人公の能力は格好いい。コードギアスとか好きな人はハマる作品だと思う。他のキャラクターも格好いいし、ギミックも中二感があって良い。
 問題は、この映画ではまったく終わっていないこと。全然続く感じで終わる。
 単なる予感だけれど、2でも終わらず、3か4くらいまでかけて描かなければ終わらないレベルの風呂敷が広がっている気がする。
 続きに期待。

75位・「新潮 2023年7月号」「役病と戦争の時代に小説を書くこと」村上春樹

 こちらはアメリカのマサチューセッツ州にあるウェルズリー女子大で村上春樹が講演したものが全文掲載されている。
 内容は大変真面目なものだけど、冒頭でユーモアを交えて入国審査の際に「どんな種類のフィクションを書いているのか」と聞かれて「sushi noir(スシノワール)です」と答えているあたり、村上春樹節っぽくて良かった。
 最後に「小説にできて、小説以外のものにはできないこと」として、小説は「時間をかけてしか生み出せないもの、時間をかけてしか受け取れないもの」だと語るのは、ネット全盛期のこんな時代だからこそ大事なことだと思う。

74位・「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編

 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編で400億円を突破したあとのテレビアニメ。
 映画ほど話題になったという印象はないけれど、相変わらずの高いクオリティと話のテンポ感で楽しく見れた。鬼滅の刃の原作はすべてアニメ化するのだろうか。
 お金になるという点ではしたい気持ちも高いだろうけれど、このクオリティですべてやるとなると、なかなか大変な話だなと思う。
 鬼滅の刃という作品が、歴史的にどのように語られるようになっていくのか、注目していたい。

73位・「アンデッドアンラック」(マンガ)

 不死関係の作品を友人に尋ねた時に教えてくれた作品。
 あらすじは「触れた人々に不幸な事故をもたらす不運“アンラック”な少女・風子。その特異な体質から一度は死を覚悟した風子の前に、絶対に死ねない不死の体を持つ“アンデッド”のアンディが現れる。彼は風子の力で“本当の死”を得るため、彼女と行動を共にすることに。しかし、アンディと風子のような異能の力を持つ【否定者】を狙う謎の組織“ユニオン”が2人の前に現れる。」というもの。
 アニメは見ていないけれど、あらすじはアニメのサイトから。不死の体ゆえの展開や戦い方は漫画のリズムにマッチしていたように思うし、【否定者】の設定も良い。展開も早く読んでいて飽きなかった。
 ザ・王道の少年漫画な印象だけれど、世間的に人気作品となっているのだろうか。

72位・「タイラー・レイク -命の奪還-2」サム・ハーグレーヴ

 1を見てから、続けて2も見た。
 やっぱり、めちゃくちゃアクション。
 今回は「刑務所に監禁されているジョージアの残忍なギャングの家族を救出する」話になっている。この手のアメリカ的マッチョ映画の主人公は基本的に妻(元妻?)と不仲なのだけれど、タイラー・レイクもそんな感じ。
 舞台が刑務所ということもあってか、画が超高画質のゲームっぽい印象があった。
 相変わらず迫力あるアクションシーン。そして、魅力的なキャラクター。やりたいことがシンプルなだけに見ていて純粋に格好いいとか派手!と思える一作。

71位・「かげきしょうじょ!!」(アニメ)

 大正時代に創立された「紅華歌劇団」は、美しい舞台で人々の心を魅了する劇団。神戸にある劇団員の育成を目的とした「紅華歌劇音楽学校」に入学した第100期生が日々奮戦する姿を描く話。
 個々のキャラクターがなぜ「歌劇」に惹かれるのか、なぜこの学校を選んだのかが丁寧に描かれるのだが、どうしてもテンプレ的なエピソードが目立った。
 ただ、それがすべて主人公の渡辺さらさに繋がっていくのだとしたら、間違いなく名作だと思う。
 アニメでは、そこまでは判断できなかったが、漫画ではできない発声などの表現は素晴らしかった。

70~61

70位・「Dr.STONE」3期(アニメ)

 2期の「Dr.STONE」が僕は毎週の楽しみだった。
 OPであるフジファブリックの『楽園』が格好良くて、アニメの内容も毎週わくわくして最高だった。その後に放送されたテレビスペシャル『Dr.STONE 龍水』も素晴らしかった。
 3期にも期待していた。実際、最初の数話よかった。
 けれど、新しい島である宝島へ行ってからの展開は、少しご都合主義とワンパターンな展開に気持ちの勢いは失速してしまった。
 冒険ものの難しいところかなと思う。
 最後の方は持ち直して、少年漫画らしい熱い展開を見せてくれた。

69位・「タイラー・レイク -命の奪還-」サム・ハーグレーヴ

 めちゃくちゃアクション。
 あらすじは「ムンバイで誘拐された麻薬王の息子を救うため、バングラデシュ・ダッカの市街地に向かった傭兵。裏社会で活躍する彼は、金のためにこの任務に請けるが、実行中にいつしか過去と向き合う自分との戦いへと変わっていく
 主人公のタイラー・レイクをクリス・ヘムズワースが演じ、彼がひたすら格好いい映画。この画はどうやってんの? ってなるくらいクオリティが高い。
 個人的にアクション映画を見る時、車の扱いをどうしているかが気になる。マーベルも途中までこの車をどう扱うか大喜利みたいなものに乗っていて、僕はそれを楽しみにしていたんだけど、最近はその辺がおざなりになっていて残念。
 そんな中での「タイラー・レイク」! 泥臭いほどに車を酷使してくれていて楽しかった。

68位・「怪獣8号」松本直也

 少年ジャンプ+で読んだ漫画。
 今年、僕は漫画系のアプリは少年ジャンプ+が中心だった。
 あらすじは「怪獣が跋扈(ばっこ)する世界。 民間清掃会社「モンスタースイーパー」に入社して生計を立てていた日比野カフカは、市川レノとの出会いをきっかけに、あきらめかけていた日本防衛隊に入隊するべく防衛隊試験を受ける決意を固めるが、その矢先、謎の生物に寄生されたことで怪獣8号へ変身する力を身につけてしまう」というもの。
 注目したいのは主人公の日比野カフカが32歳なこと。
 同い年!
 中年が頑張っている怪獣もの漫画。応援しない手はないのだけれど、内容は少々王道すぎる印象。面白いんだけれど、読んでいて感じるエヴァや進撃などの既視感を超えず留まっている。
 怪獣のデザインは最高に良い。

67位・「3月のライオン 17」羽海野チカ

 3月のライオンの新刊。
 いろんなことが少しずつ動いている感じ。桐山零はもう「零(ゼロ)」ではない。それは結構前からそうなのだけれど、この何かを持っている状態が如何に大事かってことが描かれていて嬉しい。
 たまに物語でゼロだった人が何か大事なものに出会えましたで終わってしまうことがある。けれど、大事なのはその大事なものを持ち、維持することで人はどう変わるのか。
 3月のライオンはそれを描いてくれていて嬉しい。

66位・「特別展 ジブリパークとジブリ展」(イベント)

 全国でやっていたので、行った人も多いんじゃないかと思う展覧会。弟と会った時に、「俺も行ったよ兄貴。ジブリっていうか吾朗展って感じだよね」とのこと。
 言わんとすることは分かる。制作現場の指揮を宮崎吾朗が取ったので、そういう作りになったのか、元々コンセプトとして宮崎駿だけに囚われない展覧会にしたかったのか。
 内容としては宮崎吾朗が携わった作品とジブリパークの裏側がメイン。ジブリは手書きのイメージが強いけれど、3Dでアニメを作る工程なども紹介されていた。
 ジブリはずっと世代交代をしようとして、上手く行っていない印象だったけれど、もう最近は完全に交代は諦めてそれぞれがジブリ後の世界を生き残るかを考えているフェーズに入ったんだなと思った。

65位・「スキップとローファー」(アニメ)

 職場でたまにおすすめのアニメを聞かれるのだけれど、一時期はずっと「スキップとローファー」と言っていた。
 あらすじは高校入学を機に地方から上京した「みつみちゃん」は過疎地育ちゆえに同世代コミュ経験がとぼしく、そのうえちょっと天然。そんな「みつみちゃん」のまっすぐな存在感によって、本人も気づかないうちにクラスメイトたちをハッピーにしていく。
 悪意を持ったキャラクターもいるけれど、高校生ゆえの柔らかさを誰もが持っていると分かる描き方をしていて良い。

64位・「インデペンデンス・デイ」ローランド・エメリッヒ

 1996年の映画だが、今見ると感じ入るものがある内容になっていた。
 あらすじは「アメリカの独立記念日の2日前となる7月2日。突然世界中に巨大な未確認飛行物体が現れ、空を覆う。その正体は、異星人の宇宙空母だった」というもの。
 異星人の目的は地球戦略だと分かり、人類が一丸となって「巨大な未確認飛行物体」と戦うという話なのだけれど、ここでリーダーシップを取るのがアメリカという国であり、大統領。
 更に異星人の攻略方法に気づくのもアメリカン人で、なんなら大統領も最後の戦いには前線に出て戦う。
 まさに地球の中心はアメリカじゃいって映画だった。
 こういう時代があったなんて今となっては遠い過去すぎる。

63位・「札束と温泉」(映画)

 監督の川上亮のウォッチャーをしている僕なので、当然「札束と温泉」は映画館で見た。
 今はアマプラやU-NEXTで見れるらしい。
 あらすじは「高校の修学旅行で訪れた温泉宿で女子高生たちが、ヤクザの愛人が持ち逃げした札束の詰まったバッグを発見する。カネを取り戻すために現れる殺し屋、別の生徒からねだられている担任教師。複数の思惑が絡まり、温泉宿を舞台に、混乱が混乱を呼ぶクライム・コメディ」とのこと。
 撮影方法が少し変わっていて「廊下や階段が複雑に入り組んだ歴史ある温泉旅館で、疑似ワンカットで撮」っている。
 これによって、キャラクターの視点変更などが巧みに繰り返されて全体像を把握していける作りになっている。
 丁寧な作りのため、話に置いて行かれるようなことはない。
 ちなみにウォッチャーとして

 のインタビューは非常に良い内容になっている。

62位・「レモン畑の吸血鬼」カレン・ラッセル

 面白い小説を探す時、参考にするエッセイに「斜線堂有紀のオールナイト読書日記」がある。
 カレン・ラッセルという作家はそこで知った。更に、翻訳が松田青子で間違いない作品だと思い読んだ。
 短編集で表題作のあらすじは「長すぎる余生を過ごす熟年吸血鬼夫婦」の話で他には「歴代のアメリカ大統領たちが馬に転生して、廏に大集合」する話などがある。
 発想に飛躍があるけれど、地に足の着いたリアリティに基づいて書かれている。個人的に好きな作品は「一九七九年、カモメ軍団、ストロング・ビーチを襲う」だった。
 もうタイトルからして良いしかないが、内容も良い。カモメ軍団が奪っていったもので人生を好転させ、絶望する。物語としてのバランスが上手い。

61位・「ルピナス探偵団の当惑」津原泰水

 津原泰水の文章は読むたびに格好いいなぁと溜息をついてしまう。
 本作は「探偵団」とあるように、ミステリーが中心に据えられている。
 あらすじは「私立ルピナス学園高等部に通う吾魚彩子は、あるときうっかり密室の謎を解いたばかりに、刑事の姉から殺人事件の推理を強要される。なぜ殺人者は犯行後冷えたピザを食べたのか?」というもの。
 ほかにも二編が収録されていて、それぞれ「なぜ、被害者はルビの付いたダイイング・メッセージを残したのか」と「なぜ、急死した老女優の右腕は切断され消えたのか」という謎が中心に据えられる。
 文章は格好いいが内容はコミカルな部分もあって読みやすい。
 謎と文章とキャラクターのバランス。こういう上手さにも溜息をつかざる負えない。

60~51

60位・「松苗あけみの少女まんが道」松苗あけみ

 松苗あけみの影響を青山剛昌が受けていると知って手に取ってみた。
 ネットに上がっている本書の紹介は「少女漫画の世界に大きな足跡を残す松苗あけみによる、自伝的コミックエッセイがついに単行本化!」とのこと。
 作中にて『モンテ・クリスト伯』の言葉として“まて”“しかして希望せよ”が出てくる。この話の中で松苗あけみは「いつかきっと いい仕事ができると自分に絶望しないことを」と考える。
 松苗あけみは、この本の中でずっとこれで良いんだろうか、と悩み続けている。そういう姿勢の中で確かに一度だって絶望していなかったように思う。
 同時に、松苗あけみの少女漫画の作り方は読書猿の「アイデア大全」のバグリスト的なニュアンスが含まれていた。バグリストの中で「より大きな問題、野心的な問題ほど実りが大きいばかりかじつは解きやすい」という数学者のジョージ・ポリアの言葉が紹介されている。
 松苗あけみは自作に少女漫画ではない要素を混ぜ合わせることで、「少女漫画の世界に大きな足跡を残す」ことができたように思える。

59位・「たべるのがおそい vol.6」ボイルド・オクトパス 佐藤究

 冒頭にて「引退した元刑事の家を訪ね、現役時代の思い出話を聞きだしつつ、彼らの生活に触れる」ノンフィクション(取材)を週刊誌で連載をしていた作家が雑誌に掲載できなかった内容として本編「ボイルド・オクトパス」がはじまる。
 この説明があることで、不穏な空気が漂う。
 佐藤究は映像的なものを小説にするのが本当に上手い作家だと思う。海外のドキュメンタリーを見ているような感触がありつつ、小説でしかできないこともしっかりとやっている。
 上手い。来年も佐藤究の小説は読んでいきたい。

58位・「優しい死神の席」(マダミス)

 マダミスをご存じでしょうか?
 ネットで調べると以下のように出てきます。「マーダーミステリーはパーティーゲームの一種である。通常、殺人などの事件が起きたシナリオが用意され、参加者は物語の登場人物となって犯人を探し出したり、犯人役の人は逃げ切る事を目的として会話をしながらゲームを進める
 そして、「優しい死神の席」は落語界の頂点と言われた大名人が100歳の誕生日に落語の独演会を開き、最後の演目で『死神』というお噺を披露し、死亡。
 この死は自然死か他殺か、プレイヤーは落語家となって師匠の死の謎を解明しなければならない。
 大枠では師匠の死を追いつつ、キャラクター一人一人に達成したい目的があり、ゲームは混沌としていくのだけれど、プレイヤーとの話し合いによって謎が解明されていく作りは見事。
 マダミスが上手いプレイヤーがいてこそって感じだけど、プレイしながら物語作りに役立たせるにはどうするべきかをずっと考えていた。

57位・「墨のゆらめき」三浦しをん

 都内の老舗ホテル勤務の続力は招待状の宛名書きを新たに引き受けた書家の遠田薫を訪ねたところ、副業の手紙の代筆を手伝うはめになったホテルマンの話。
 構造としては三浦しをん節の特別な関係性になりつつある男性二人がメインで、出てくる猫が可愛い。中心にいるのは書家の遠田薫で、彼の無邪気な少年のような振る舞いに主人公を含め登場人物たちは惹かれていく。
 Audibleという朗読サービスの為に書き下ろされた小説ということもあって非常に読みやすいし、聞き取りやすいリズムにもなっていた。

56位・「ウィトゲンシュタイン明確化の哲学」大谷弘

 哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの「後期ウィトゲンシュタイン哲学(一九三〇年中ごろ以降)」のエッセンスを解きほぐす入門書。
 僕は哲学に関して素人なので、この手の入門書は時々手に取る。
 大谷弘がこの本で目指したのは「ウィトゲンシュタインの実際の議論を一つ一つゆっくりと丁寧に見ていくこと」だと、あとがきにあった。実際、現代的な問いを交えながらウィトゲンシュタインの論の紹介は非常に分かりやすかった。
 個人的にウィトゲンシュタインの言葉の中で、はっとなったのは彼が自身の哲学を「病気の治療に喩えている」箇所だった。大谷弘は以下のように書く「ウィトゲンシュタインの哲学は、知的な混乱、知的な病いを治療し、解消することで、「我々が「よき生」を取り戻すことを助けてくれる」。
 知的な混乱が時折起こる人間からすると、この視点は新しい世界を提示してくれている感じがあった。

55位・「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」地主(マンガ)

 くたびれ中年男性の佐々木の日々の癒しが煙草とスーパーで働く女性店員、山田さんのにこやかな接客。ある日、スーパーへ行くと目当ての山田さんはおらず、煙草を吸える場所もなく意気消沈していた佐々木に「ここなら吸える」と声をかけてきたのは、すこし奇抜な服装をした田山という女性だった。
 というのが、あらすじ。
 ここから田山とタイトル通りスーパーの裏で煙草を吸って雑談する関係が始まるのだけれど、この田山が佐々木の癒しである山田さんのオフの顔だという、王道な展開。
 この王道な感じが良い。恋愛関係になりそうでならない男女の話って僕は大好物なのだけれど、本作はそれに加えて煙草という大人なギミックが混ざっていることが素晴らしい。
 仕事に疲れた時に読みたい漫画2023年ナンバーワン。

54位・「五つの季節に探偵は」逸木裕

 連作短編ミステリー小説かな。
 煽り文としては「“人の本性を暴かずにはいられない”探偵が出会った、魅惑的な5つの謎」となる。
 5つの短編の中で、まず注目すべきは一番最初の「イミテーション・ガールズ」で、あらすじ欄には「高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚え――。」と説明がある。
 これが土台となって、榊原みどりは「隠された“人の本性”を見」ずにはいられなくなっていくのが本書。
 個人的には二本目の「龍の残り香」と最後の「ゴーストの雫」が良かった。
 読めば分かるけれど、最初の「イミテーション・ガールズ」以外はめちゃくちゃ取材されていて、知的好奇心が刺激される話が多かった。

53位・「先生、私の隣に座っていただけませんか?」(映画)

 不倫ものを見て、上手い!ってなったことはなかったのだけれど、「先生、私の隣に座っていただけませんか?」は上手いなぁと思った。
 あらすじは「漫画家の佐和子が新作のテーマに選んだ題材は、不倫。彼女のアシスタントを務める夫の俊夫は、担当編集者の女性と不倫関係にあり、妻の本心が掴めず疑心暗鬼になっていく。そして、物語は自動車教習所の先生と佐和子のただならぬ関係を匂わせる展開となり、どこまでが創作なのか分からぬまま、俊夫は不安と嫉妬に苛まれていく
 夫の俊夫を柄本佑が妻の佐和子を黒木華が演じていて、この二人がまず良い。
 あらすじにはないけれど、俊夫は妻のアシスタントをしているが、以前は漫画を描いていた。この不倫騒動の中で、彼はまた漫画を描き始める。
 感動的なシーンだし、全部これで丸く収めることができるけれど、佐和子は許さない。最初から許さないと決めているからこそ、何が起ころうと揺るがない。
 しかし、それに俊夫は救われてしまった。本当に上手い。

52位・「ルーヴル美術館展 愛を描く」(イベント)

 開催概要を調べると「人間の根源的な感情である「愛」は、古代以来、西洋美術の根幹をなすテーマの一つであったといえるでしょう。ギリシア・ローマ神話を題材とする神話画、現実の人間の日常生活を描く風俗画には、特別な誰かに恋焦がれる神々・人々の情熱や欲望、官能的な悦び、あるいは苦悩や悲しみが、様々なかたちで描かれています」とのこと。
 個人的に惹かれたのは「現実の人間の日常生活を描く風俗画」だった。「」は苦しみと表裏一体だと、この展示会を見ていると思う。そして、絵にされた時、この苦悩や悲しみが全面に出ていた。
 愛を感じ幸せな時に、絵を描いて何かを残そうと思わないものなのか、歴史の中でただ幸せな絵は意味を見出しにくかったのか。
 なんにしても、「」は今も昔も厄介で掴めないものなんだなとしみじみ思う。

51位・「僕の心のヤバイやつ」(アニメ)

 これぞラブコメって作品な気もするし、なんか新しい気もする。
 アニメだけ見たけれど、不思議な作品だった。
 あらすじは「学園カースト頂点の美少女・山田杏奈の殺害を妄想してはほくそ笑む、重度の中二病の陰キャ・市川京太郎。だが山田を観察する内に、京太郎が思う「底辺を見下す陽キャ」とは全然違うことに徐々に気づいていき…!?」というもの。
 見た人誰もが言うだろうけれど、ヒロイン山田杏奈のキャラクターが非常に良い。恋をしたい女の子ではなく、面白いと言われたいとかお菓子を食べたいとか、言わば子供でいたい女の子が山田杏奈。
 その幼稚な部分を守ろうとしちゃうのが主人公の市川京太郎で、そんな二人が惹かれ合って恋愛しようとしていく感じが甘酸っぱくまた、応援したくもなる良い塩梅になっている。

50~41

50位・「私の文学放浪」吉行淳之介

 加藤典洋の「敗戦後論」を読んで改めて、戦後というものに興味が沸いた。吉行淳之介は「第三の新人」の小説家だと言われている。
 第三の新人とは「1953年(昭和28年)から1955年(昭和30年)頃にかけて文壇に登場した新人小説家」たちを差す。
 ちなみに、吉行淳之介は1924年生まれ。青春期がちょうど戦時中にぶつかる世代。そんな彼の文学を下敷きにした回想記が面白くないわけがない。
 個人的に終戦後の浮かれたような青春的な振る舞いには、どんな状況下でも青春はあるんだと思えてよかった。

49位・「国のない男」カート・ヴォネガット

 初カート・ヴォネガットだった。
 村上春樹が好きな作家だと挙げていたのは知っていたけれど、今まで手に取れずにいた。
 本作の紹介文は「人間への絶望と愛情、そしてとびきりのユーモアと皮肉。世界中の読者に愛された、戦後アメリカを代表する作家、ヴォネガット。その遺作となった当エッセイで軽妙に綴られる現代社会批判は、まるで没後十年を経た現在を予見していたかのような鋭さと切実さに満ちている。この世界に生きるわれわれに託された最後の希望の書。」というもの。
 遺作から読み始める、というのも変な話だけれど。
「国のない男」は大変読みやすかったし、最後までユーモアを忘れない人だと分かって、他の作品も読みたいと思った。
 仕方のないことなのだろうけれど、最近の作家の方々はユーモアを交えて何かを語ることができなくなっている気がする。
ユーモアには人の心を楽にする力がある」とカート・ヴォネガットは本書で書いているけれど、そうだよなと。世の中に笑いがなくなったら、それこそ心休まらない日々の到来だろう。

48位・「だが、情熱はある」(ドラマ)

 本ドラマはオードリーの若林正恭、南海キャンディーズの山里亮太の半生を描いたもので、2人が結成したユニット「たりないふたり」の活動を中心に描かれる。
 二人のエッセイが元になっているドラマで、こういう形の作品が作られるのは面白い。
 僕はオードリーのラジオを毎週の楽しみにしていて、その流れで若林と水卜麻美アナウンサーの「午前0時の森」も見ていて、「たりないふたり」だけでなく、その周辺情報を把握できていたため、ライブ感のある楽しみ方ができた。
 ドラマの内容も当然良いのだけれど、このライブ感を知っているために、後からこのドラマを見た人と同じ感想をいただけるのかは疑問。

47位・「この動画は再生できません」 谷口恒平(ドラマ)

 ネットで話題になっていたので視聴。
 2もあるけれど、そちらは未視聴だが、これは続きはできるのか。
 概要は「人気お笑いコンビかが屋の二人が演じる編集マンの江尻とオカルトライターの鬼頭が、女子高生たちの心霊スポット自撮り映像や、生配信中に起きた怪現象など、映像の数々に隠された真実を見つけ出す謎解きホラーミステリドラマ」というもの。
 このタイトルで最後にあるように「謎解きホラーミステリドラマ」な本作は、ホラーテイストを取っているので苦手な方はとっつきにくいけれど、本筋はミステリー。
 かが屋の演技は上手いしテンポも良く、現代的な映像事情も分かって一石二鳥くらい良い作品。

46位・「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」ジェームズ・ガン

 マーベル映画はもういいかな、と思っている人!
 これは見て良いやつだよ! まじで!
 とはいえ、「VOLUME 3」なので初見で楽しめるとは言えない。
 あくまで、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが好きな人が満足する傑作。
 ちなみに概要としては「銀河の落ちこぼれヒーローチーム「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」。アベンジャーズの一員として世界を救った彼らが、仲間の命と全銀河の危機を救うため、最大の敵に立ち向かっていく」というもの。
 重要なところは「銀河の落ちこぼれ」ってところで、落ちこぼれだからこそ、頑張る姿にぐっと来るし色々抱えているものがある。このシリーズはキャラクターへまなざしが優しい。
 4は難しいだろうけれど、にぎやかな彼らが画面の端でも見れるならマーベル映画はやっぱり見続けるべきかなと思った。

45位・「斜線堂有紀のオールナイト読書日記」斜線堂有紀

 こちらはタイトル通りの読書日記でtreeというサイトで連載しているものだけれど、斜線堂有紀が読む本の範囲が広くて参考にしている。
2024年版 このミステリーがすこい!」の中で名探偵コナンのベストエピソードをミステリー作家が選ぶという企画で、阿津川辰海と斜線堂有紀が対談していたり、SFマガジン2024年2月号にて「ミステリとSFと、4人の小説家」芦沢央× 小川哲× 柴田勝家× 斜線堂有紀という鼎談に出ていたり、と斜線堂有紀は大活躍。
 それもこれも読書量がしっかりしているからだろうなと思う。
 ちゃんと本を読んでいる人は信用できる。

44位・「薬屋のひとりごと」(アニメ)

 ショート動画に切り抜きが出てくるようになって、彼女も見ていて面白とのことで視聴。
 あらすじは「医師である養父を手伝って薬師として花街で働く少女・猫猫は、薬草採取に出かけた森で人攫いにあって後宮に下女として売られてしまう。 年季が明けるまで目立たぬように勤めるつもりだったが、皇子の衰弱事件の謎を解いたことから美形の宦官である壬氏の目に留まり、様々な事件の解決を手伝わされることとなる」というもの。
 タイトルの「ひとりごと」はこの「壬氏の目に留ま」る際に、猫猫がひとりごとを言っていたことに起因する。
 ミステリー仕立てな展開は魅力的で飽きなく見れるし、OPの緑黄色社会「花になって」も格好いい。なにより、主人公の猫猫を演じている悠木碧が低い声にしているのが素晴らしい。
 最近、この声優さん良いなと調べると悠木碧であることが多い。

43位・「ぼっち・ざ・ろっく!」(アニメ)

 友達に激推しされて一気見した。
 あらすじは「“ぼっちちゃん”こと後藤ひとりは会話の頭に必ず「あっ」って付けてしまう極度の人見知りで陰キャな少女がバンド活動に憧れギターを始めるも、友達は一人も出来ないまま高校生になっていた。
 ある日、“結束バンド”でドラムをやっている伊地知虹夏に声をかけられたことで、そんな日常がほんの少しずつ変わっていく
」というもの。
 話としてはよくある内容だった。友達の推しポイントは陰キャ(って今でも言うの?)あるあるネタと演奏シーンだった。
 確かにギャグはしっかり笑えるし、演奏シーンの力の入りようは凄かった。
 ただ、個人的に「ぼっち・ざ・ろっく!」の面白い点はアニメにはなく、全話見た後に結束バンドの曲を聴くと、キャラクターを掘り下げる内容になっていた点だった。アニメは結束バンドの曲を聴くためのオマケで、メインは曲。
 ちょっと言いすぎかも知れないけれど、そんな印象を持った。

42位・「ブルーロック」(マンガ)

 アニメを見て面白かったので、漫画も読んだ。
 あらすじは「日本サッカーがW杯で優勝する為に計画された"青い監獄プロジェクト"。 全国から集められた300人の高校生ストライカー達が熾烈な争いを繰り広げ、勝ち抜いた上位5名はU-20日本代表への選手登録が行われるが敗れた者たちは未来永劫日本代表に入る権利を失うという生き残りをかけたデスゲーム!
 僕はある時期までの「食戟のソーマ」が結構好きだったのだけれど、それと似た感触があった。ソーマは料理で、ブルーロックはサッカー。共通点はないけれど、上を目指して研鑽していくプロセスは同じに見える。
 僕はこの研鑽していくために戦術を磨いたり、自分に合ったプレイ方法を模索したりしていく姿に魅力を感じる人間のようだ。

41位・「劇場版 美しい彼 ~eternal~」酒井麻衣

 最近、映画を仕事の行き帰りの電車の中で見ている僕からすると、「美しい彼」の映画は少し躊躇してしまった。男が絡まり合う画面を公共の場で見て良いとはあまり思わなかったのだ。
 ただ、「美しい彼」が分かる人と乾杯する時は「eternal」と言いたい僕はなんとしても見ねばならぬという気持ちで見た。
 あらすじは「大学卒業を控え、人気カメラマンのアシスタントとして働きはじめた平良と俳優としての活躍の場を拡げる清居の“その後”の物語」で、つまりドラマ版の続編の位置づけとなる。
 原作で言うと2巻の内容。面白いに決まっているけれど、ラストの平良がブチ切れるシーンはホラー的な演出になっていて、製作側の愛を感じた。
 あと、映像の編集が切り抜きされてmad的な動画にされても良いような作り方をしていて現代的だと思った。

40~31

40位・「ベイビーわるきゅーれ」阪元裕吾

 若い女の子がアクションをするなら制服!
 みたいな空気感を払拭する名作。
 あらすじ「高校卒業を目前に控えた女子高生殺し屋2人組のちさととまひろ。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たちは、高校を卒業したらオモテの顔として社会人をしなければならない現実を前に、途方に暮れていた」というもので、本編は高校を卒業している。
 アルバイトの面接に落ちまくっているコミュ障のまひと。
 そこそこは上手くやるけど喧嘩早いちさと。
 キャラクターが非常に優れた作品だけれど、注目したいのはアクションのガチ感。めちゃくちゃ迫力ある。

39位・「ハケンアニメ!」(映画)

 あらすじは「地方公務員からアニメ業界に飛び込んだ新人監督・斎藤瞳は、デビュー作で憧れの天才監督・王子千晴と業界の覇権をかけて争うことに。王子は過去にメガヒット作品を生み出したものの、その過剰なほどのこだわりとわがままぶりが災いして降板が続いていた。プロデューサーの有科香屋子は、そんな王子を8年ぶりに監督復帰させるため大勝負に出る。一方、瞳はクセ者プロデューサーの行城理や個性的な仲間たちとともに、アニメ界の頂点を目指して奮闘するが……。」というもの。
 主人公は四人。斎藤瞳、王子千晴、有科香屋子、行城理。
 今後もアニメはテレビで劇場で活躍していくコンテンツなので、どのようにアニメが作られるのか、を面白く見せてくれる作品は貴重。主人公が四人いるのも良くて、アニメは一人では作れないことが示されていて良いし、内容は熱い少年漫画みたな展開を見せてくれる。
 原作が辻村深月なので、大人な物語にも仕上がっていて、どの世代でも楽しめる映画になっているのではないかと思う。

38位・「配達あかずきん―成風堂書店事件メモ」大崎梢

 元書店員が描くミステリー小説。
 あらすじは「しっかり者の杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵が働くのは、駅ビルの六階にあるごくごく普通の書店・成風堂。近所に住む老人から渡された「いいよさんわん」という謎の探求書リストや、コミック『あさきゆめみし』を購入後失踪した母を捜しに来た女性に、配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真……。杏子と多絵のコンビが、成風堂を舞台にさまざまな謎に取り組んでいく」というもの。
 視点人物は「しっかり者の杏子」なのだけれど、謎に対してはワトソン役で、ホームズ役はアルバイトの「多絵」が務める。
 書店の裏側を知りつつ、本屋さんならではの謎に頭を動かす。とても良い読書体験だった。
 個人的に大崎梢がミステリーと見せかけてラブストーリーにしている作品が少女漫画を真正面からやっていて良かった。

37位・「君たちはどう生きるか」宮崎駿(映画)

 宮崎駿の新作!
 あらすじは「太平洋戦争末期。母を空襲で亡くし父と疎開したものの、新生活を受け入れられずにいた少年。ある日、彼は大叔父が建てたという洋館を発見し、謎のアオサギに導かれながら洋館に足を踏み入れる」というもの。
 いろんな比喩的な内容を解釈して見ることが可能な作品だと思う。実際、映像的に凄い部分やジブリの集大成にしようという意気込みも伝わってきた。
 宮崎駿は82歳。僕よりもちょうど50歳年上。
 どうして、こういう映画になったのかをちゃんと実感するには、僕はちょっと若すぎる気がする。
 ただ、個人的にジブリはもっと明るい気持ちになれる作品を期待していた。例えば、将来僕に子供ができた時に「君たちはどう生きるか」を一緒に見ようと誘うかと言えば、しない。
「君たちはどう生きるか」は今までジブリ作品とは別物として僕の中ではカテゴライズされた。十年、二十年後に見れば印象は変わるんだろう。

36位・「『PLUTO』」(アニメ)

 Netflixよくやった!!!
 浦沢直樹による手塚治虫の『鉄腕アトム』に含まれる「地上最大のロボット」の回を原作としてリメイクした作品『PLUTO』。
 これが面白くないわけがない。
 あらすじは「ロボットが人類と共存している近未来を舞台に、刑事ロボットであるゲジヒトや少年ロボットのアトムたちが、次々と起こる奇妙な殺人事件の謎を追うSFアクション
 ロボットが人間の上位互換として描かれながら、しかしロボットを生み出した人間が権力を持っている。これはつまり、親(人間)と子供(ロボット)の話で、最後にアトムに心が芽生えたことで彼は親(大人?)としての責任を果たそうとする。
 個人的に天馬博士が造った「99億人の人間の頭脳・思考・人格をトレースした完璧なるロボット」が目覚めない話が好きだった。情報を処理し続けるために目覚めないわけだけど、「偏った感情」を注入することで目覚めるのだと。そして、それが憎悪だ、と。
 なぜ、愛情ではいけないのか。という疑問はあるが、舞城王太郎の「やさしナリン」から考えると、他人の愚かなおこないを愛によって許し続ける地獄が待っていると思うと、憎悪よりたちが悪そうだ。

35位・「紙の動物園」ケン・リュウ

 文庫本の後ろには「ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作など、第一短篇集である単行本版『紙の動物園』から7篇を収録した胸を打ち心を揺さぶる短篇集」と説明がある。
ヒューゴー賞」はSFの賞で、また短編の一つ「愛のアルゴリズム」の著者付記にて、テッド・チャンの「作品にこれまで大きな影響を与えられている」とも語っている。
 僕は最近、SFを読み始めた素人なので、ケン・リュウがSFの界隈でどのように語られているのか分からない。が、本好きとしては基本的にSFの発想に身を任せて読めた。
 表題作「紙の動物園」が最も読みやすく、印象にも残った。次が「心智五行」かな。
 人は賢くなった気になればなるほど、何か大切なものを失ってしまう。そんな切なさが「紙の動物園」の全編に漂っていた気がする。

34位・「明るい映画、暗い映画: 21世紀のスクリーン革命映画・アニメ批評2015-2021」渡邉大輔

 物語評論家のさやわかが 「これぞ「ポスト・パンデミック時代の映画」の条件だ。 だがそれは、現状より10年以上前から、私たちにひたひたと忍び寄ってきたものの汪溢だった。 その事実を、本書は、徹底的に暴く。デスクトップ的なZoom映画、人新世、「明るい暗さ」、暗黒啓蒙、接触的平面、ポスト・ヒューマニティーズ、そしてZ世代――。映画と、世界とを語る、最先端のキーワードを充填して。 これが、僕たちの時代の切れ味である。」とコメントを寄せている本書。
ポスト・パンデミック時代の映画」とは良い単語だなと思う。
 コロナは終わった。ならば、ちゃんと振り返って反省や検証すべき部分があるはずで、それは何か。
 今後、映画やアニメなどで描かれるものもあるだろうけれど、その時に切り分ける軸としてこの「明るい映画、暗い映画」という見方は一つ参考になる気がする。

33位・「春のこわいもの」川上未映子

 あらすじは「感染症が爆発的流行を起こす直前、 東京で6人の男女が体験する、甘美きわまる地獄めぐり。ギャラ飲み志願の女性、深夜の学校へ忍び込む高校生、 寝たきりのベッドで人生を振り返る老女、 親友をひそかに裏切りつづけた作家……
 かれらの前で世界は冷たく変貌しはじめる。
」というもの。
 川上未映子をちゃんと追っていた人間ではないのだけれど、この短編集の中の「ブルー・インク」が村上春樹的なものを引き継ごうとした作品に思えて、最高じゃんと声がでた。
 あらすじの中で言えば「深夜の学校へ忍び込む高校生」の話がブルー・インク。女の子の面倒くさい感じが村上春樹のそれなんだけど、男の子の方が脳内で反論していくところが素晴らしい。
 ポスト・村上春樹を考えた時、川上未映子は外せない重要な作家だなと再認識した。他にも、「あなたの鼻がもう少し高ければ」はあらすじで言うと、「ギャラ飲み志願の女性」の話だけど、これはツイッターやブログを漁れば出てくるような内容を川上未映子という作家を通すとこんな傑作になるのかと驚いた。

32位・「ハケンアニメ!」辻村深月

 映画を見た後に原作も読んだ。
 あらすじは「「どうして、アニメ業界に入ったんですか?」
 時間に追われる過酷な現場で、目の前の仕事に打ち込む仕事人たちが、追い求めるものはいったい何なのか?
」というもの。
 原作と映画を比べると、どちらもその媒体だからできることをしていたんだなと分かって面白い。
 映画版ではカットされていた第3章「軍隊アリと公務員」を一番、興味深く読んだ。これは作中作品のスタンプラリーを含む「聖地巡礼」企画のいざこざが描かれていて、アニメに興味がない人(公務員)とアニメが生活の中心にある人(軍隊アリ)の話。
 あらすじにもあるが、「目の前の仕事に打ち込む仕事人たちが、追い求めるものはいったい何なのか?」という問いをちゃんと突き止めてくれる素晴らしい内容だった。

31位・「名探偵コナンと平成」さやわか

 概要欄には「「なりたいんだ!! 平成のシャーロック・ホームズにな!!」と、主人公の工藤新一が第1話で宣言し『名探偵コナン』が始まったのは1994年。連載25年を迎える今年、新一はいまだ平成のホームズになれないまま、ついに平成が終わります。この本は『名探偵コナン』についての本であり、同時に「平成」という時代についての本でもあります」とある。
 読んでみると、コナンの作者、青山剛昌が漫画家になるまでやコナンの映画が流行る背景としての日本の映画業界の事情などを、網羅的に捉えながら平成と名探偵コナンについて論じている。
 分かりやすく、また、如何にコナンが重要な作品かということが分かってくる良書。

30~21

29位・「アイデア大全 - 創造力とブレイクスルーを生み出す42のツール」読書猿

 概要欄には「単なるマニュアルには留まらない、眠ってしまった創造力と知的探求心を 挑発し、呼び起こす、アイデアの百科事典」とある。
 そして、「まえがき――発想法は人間の知的営為の原点」にて「本書は実用書であると同時に人文書であることを目指している」と記載がある。
 人文書の任務についても本書の中に記載がある。それは「人が忘れたものや忘れたいものを、覚えておき/思い出し、必要なら掘り起こして、今あるものとは別の可能性を示すことである」とのこと。
 アイデアを出すことはあらゆる場所で求められるし、エンタメ一つ取っても誰かのアイデアでできている。世界を見る時に物差しは大事で、その種類を増やすことで今まで見えなかったものに気づくことができるかも知れない。
 世界を切り開いてくれる一冊として、本書を僕は勧めたい。

28位・「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール。」読書猿

 連続で、読書猿の本を。
 こちらは問題解決大全。概要欄には「未来を作る知恵と方法の道具箱」とあり、さきほど紹介した「アイデア大全」の続編的な位置づけの本となる。
まえがき――問題解決を学ぶことは意思の力を学ぶこと」の中で、「未来を変えるには、アイデアだけでは足りない。」と言い、「アイデアを実現し、未来を変えるためには、我々自身の外へ向かう必要がある」と続ける。
 問題を解決することは「未来を変える」ことと言われれば、その通りで本書を読むと確かに具体的な内容が記載されている。そして、相変わらず著者が百科事典そのものでないか、と疑いたくなるような知識量で問題解決の方法を【難易度】【開発者】【参考文献】【用途と用例】でまとめてくれている。
 これは「アイデア大全」にもある。
 読みやすい上に人文書的役割も果たす。最高の一冊となっているので、「アイデア大全」と共に一家に揃えておくのが良いかも知れない。

27位・「機動戦士ガンダム 水星の魔女

 放送当時、評論家の方たちが反応しツイッターなどで考察的なツイートをいっぱいしていた印象があった。
 アニメ放送がすべて終わってから見た。
 あらすじは「数多の企業が宇宙へ進出し、巨大な経済圏を構築する時代。
 モビルスーツ産業最大手「ベネリットグループ」が運営する「アスティカシア高等専門学園」に、辺境の地・水星から一人の少女が編入してきた。
 名は、スレッタ・マーキュリー。無垢なる胸に鮮紅の光を灯し、少女は一歩ずつ、新たな世界を歩んでいく
」とのこと。
 全24話見て、評論家たちが反応していた箇所が分かるような分からないような気持ちで、面白く見た。ガンダムというコンテンツを確実に先に進めたような印象があり、おそらく十年後でもガンダムは残るのだろうなと思った。
 ただ、ガンダムの根幹にあるのは少年兵の話で、現実に戦争が起きてしまった世界で次なるガンダムを作る時、それは今のロジックでは成り立たなくなるはずで、この先の作り手の難易度は上がった印象もある。
 ちなみに、こちらでも悠木碧は素晴らしい演技をしている。

26位・「渋沢栄一 上 算盤篇、下 論語篇」鹿島茂

 新一万円札の肖像として「渋沢栄一」がデザインされると発表されたのこともあって読んだ。去年の冬ごろから読み始めて、今年の夏までかかった。
 フランス文学者、鹿島茂による渋沢栄一の評伝。「評論をまじえた伝記」である評伝を僕はあまり読んでこなかったけれど、面白かった。フランス文学と歴史に詳しい鹿島茂だからこそ、渋沢栄一がパリで出会った「サン=シモン主義」とは何なのかが詳細に書かれていてよかった。
 この「サン=シモン主義」との出会いによって渋沢栄一がどう変わり、人生を賭けて何を目指したのか。それを追える贅沢がこの上下巻の本にはあった。厚い本二冊分だけれど、一読の価値は絶対ある。

25位・「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」(映画)

 ジョジョをあまり知らない。
 原作の漫画を生きている間にすべて読むことはない気がしている。
 ただ、ドラマでやっていた「岸辺露伴は動かない」は最高に良かった。僕がジョジョという漫画に対して感じている違和感を上手くそぎ落としてくれている。
 本作のあらすじは「漫画家の岸辺露伴は、若い頃、思いを寄せた女性からこの世で最も黒い絵の噂を聞く。新作執筆中に、噂の絵がルーヴル美術館に所蔵されていると知った彼は、取材に赴く。しかし職員は絵の存在を知らず、データベースで見つかったのは使用されていない倉庫で……」というもの。
 まず、「この世で最も黒い絵」というギミックが良い。岸辺露伴の過去の舞台は旅館でいかにも日本的な景色と空気感で、現代に戻るとルーヴル美術館のあるパリという異国の街。
 この普段なら交わらない二つを並べるところに本作の良さがある。
 あと、編集者の役泉京香のエピソードもさりげなく語られていて、岸辺露伴だけにフォーカスしないことで立体的な物語になっていた。

24位・「麦の海に沈む果実」恩田陸

 文芸別冊「恩田陸 白の劇場」というムック本の中にある恩田陸全著作ガイドの「麦の海に沈む果実」の項目で、「主人公・水野理瀬がファンからの人気が高い」と紹介されていた。
 恩田陸の他の小説にも、この水野理瀬が登場するようなので手に取ってみた。
 あらすじは「三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語」とのこと。
 この「全寮制の学園」は閉ざされた陸の孤島で、一つの学校を舞台に密室劇が終始行われているような小説だった。読み味は魅力的なキャラクターたちが多数登場する少女漫画っぽくて読みやすい。
 けれど、今の少女漫画を基準に読み進めていくと、最後に梯子を外されるような展開が待っていた。この結末を踏まえて「主人公・水野理瀬がファンからの人気が高い」のかと思うと、小説というコンテンツが如何に自由かと前向きな気持ちになった。

23位・「最強のふたり」オリヴィエ・ナカシュ、 エリック・トレダノ(映画)

 職場の同期だったり、普段あまり映画を見ない友人が絶賛していて気になった作品。
 あらすじは「パラグライダーの事故で首から下が麻痺した大富豪のフィリップ。介護人募集の面接にやってきたのは、スラム街暮らしの黒人青年ドリスだった。水と油の2人だったが、ドリスはフィリップの心を解きほぐし、固い絆で結ばれていく」というもの。
 実話をもとにしていて、映画の最後に実際の二人に関する言及がある。あらすじにある「水と油」の二人が徐々に互いの良いところに影響し合っていく感じが最高に良い。
 友情とは、こういうものだと言われたら僕は全力で頷く。

22位・「ゲンロン完全中継チャンネル

 今年もお世話になりました!
 今年の前半、僕はダブルワークで本や映画を見る元気はなかった。そんな時に有難いコンテンツがシラスの「ゲンロン完全中継チャンネル」で、これはラジオのように聴いて楽しむことができる。本当に助かった。
 まず、シラスは有料の動画プラットフォームで、そこのチャンネルの一つが「ゲンロン完全中継チャンネル」。
 説明欄には「東京西五反田に位置する「ゲンロンカフェ」。作家、学者、政治家、ジャーナリスト、クリエイター、経営者ら、時代のキーパーソンが集う新型トークイベントスペースの模様を完全中継」とのこと。
 ちなみに、これはシラスではなくニコ生の説明文から引用(ニコ生でも見れるんです)。
 今年見て良かった番組は「太田光 聞き手=石戸諭「全人類を笑わせたい!──太田光と言葉の企み」」、「石川初×大山顕×三井祐介「公園とはなにか──南池袋公園やMIYASHITA PARKなどの事例から」」 、「浦沢直樹×東京ボブ・ディラン×東浩紀「ボブ・ディランとはだれか」」、「大谷能生×速水健朗×矢野利裕「ジャニーズの持続可能性を考える──戦後ポップカルチャーの臨界点」」などなど。
 太田光がゲンロンに登場は結構な事件だったなぁとか、「公園とはなにか」という視点から都市を語る面白さとか、浦沢直樹が語るボブ・ディランの訂正力とか、ジャニーズ問題の後に語られる「戦後ポップカルチャー」の視点とか。
 語りだすと無限にあふれてくる面白さが「ゲンロン完全中継チャンネル」にはある。
 ただ、すべての番組が半年で視聴できなくなってしまうので、今挙げたものはもう見れないはず。再視聴できるようになることもあるので、その時にまた紹介したい。

21位・「書店主フィクリーのものがたり」ガブリエル・ゼヴィン

 夏頃から読書記録をつけるようになった。すると海外の本をまったく読んでいないことに気づいた。ということで、手に取ったのが「書店主フィクリーのものがたり」。
 あらすじは、「島で唯一の書店を営む店主のフィクリーは、一人で本を売っていた。かつては愛する妻と二人で売っていた。しかし、彼女は事故に遭って、いまはただ一人。そんなフィクリーの書店に幼児が置き去りにされているのを発見する。彼女の名前はマヤ。フィクリーは彼女を独りで育てる決意し、島の人たちがマヤを育てる手助けをしようとしてくれる」というもの。
 タイトルにある通り、これは「フィクリーのものがたり」で、言い換えると彼の生涯と言っても良い。本作は時間の経過が大事な要素となっている。
 なので、幼児だったマヤは作中で高校生くらいまで成長する。
 更にマヤを育てるのに手助けしてくれていた人たちにも変化がある。個人的に好きな登場人物は本を読まなかった警察署長で、彼が読書会を開いたりしていく姿は微笑ましい。
 そして、彼は最後に言う「本屋のない町なんて、町にあらずだぜ、イジー」。
 本を読むことの面白さを教えてくれる良書が本書だ。

20~11

19位・「【推しの子】」赤坂アカ×横槍メンゴ(アニメ)

 このランキングの中に音楽は入っていない。
 僕自身が音楽の良し悪しが判断できると思えなかった。ただ、好き嫌いの軸で言えば、YOASOBIの「アイドル」はめちゃくちゃ好きだった。
 話題にもなったし、K-POPの文脈で良いのだと言う話も聞いた。
 けれど、僕の中で明確に語れる気がしなかったので、YOASOBIの「アイドル」を独立して取り扱わなかった。

 アニメの【推しの子】は第一話を一時間にしたり、EDの曲入りを格好良く演出したり、原作を生かす方法を模索し成功した傑作という印象。
 EDの女王蜂の「メフィスト」も良い曲だった。
 二期も制作されているとのことなので、主題歌も込みで楽しみにしたい。

18位・「堅実性」グレッグ・イーガン/山岸真訳

 SFマガジン2023年12月号に掲載されたグレッグ・イーガンの新作中編小説。
 東浩紀が配信で言及していたため、気になって読んでみた。
 あらすじは「シドニーに住むオマールはあるとき、一瞬にして周囲のあらゆる人が見知らぬ人に入れ変わったのに気づく。じつはその現象(?)は無限の数のパラレルワールドの全人類に起こっていた。世界自体はほとんど変わっていないように見えるのに」というもの。
 主人公のオマールは十三歳の少年。更に見知らぬ人に入れ替わる現象は個々人にバラバラに際限なく続いている。
 この入れ替わりの法則性を探し、二人の間であれば入れ替わりが起きないルールを発見する。オマールの横にいるのは、父と入れ替わったラフィーク。
 彼らは実験を重ね、入れ替わりが起こらない方法を模索するが、それはつまり自分が元いた世界には戻れないことを意味する。
 などと書き連ねて伝わっているか自信がないけれど、読めば分かる。面白い上に文章が良い。グレッグ・イーガンを今まで読んでこなかった後悔したので、来年は色々読んでいきたい。

17位・「敗戦後論」加藤典洋

 僕が持っている本の帯には以下のように記載がある。
ここで辿られているのは、もしわたしが戦後の問題を考えるとしたら、どういう順序になるか、ということではないかと思っている。……オレは知らないヨ、という無関心を起点に、戦後と戦後責任について考えるとしたら、その順序はこうなる。そういうことをわたしは、ここに、政治と文学と、二つの方向から、二つの論の形で、書いてみたつもりである。
 加藤典洋は戦後の問題を「オレは知らないヨ、という無関心」をも肯定したところから論を出発している。真面目な人からすると、とんでもないと言われそうな部分ではあるけれど、戦後と言われてもと躊躇してしまうゆとり世代の僕からすると、有難い切り口だった。
オレは知らないヨ、という無関心」を許してくれるからこそ、戦後を冷静に見て自分事に引き取れる人もいるだろう。僕がそうできるかはまた別の話になるけれど。
 加藤典洋の文学に関する文章は昔、少し読んで好きだった。「敗戦後論」の文学論、とくに「太宰VSJ・D・サリンジャー」の箇所は頷きながら面白く読んだ。

16位・「アクト・オブ・キリング」ジョシュア・オッペンハイマー

 好きか嫌いで言えば、まったく好きな作品ではない。
 内容としては「1960年代インドネシアで行われた大量虐殺を加害者側の視点から描いたドキュメンタリー」で「60年代、秘密裏に100万人規模の大虐殺を行っていた実行者は、現在でも国民的英雄として暮らしている」と概要欄は続いている。
 監督であるジョシュア・オッペンハイマーは加害者たちに向けて「カメラの前で自ら演じてみないか」という提案をする。彼らは「意気揚々と過去の行為を再現していく。やがて、過去を演じることを通じて、加害者たちに変化が訪れる」。
 加害者の変化とは、被害者の気持ちが分かってしまったというもの。けれど、それは上辺の「分かった」ことで、殺されていった被害者はもっと深い絶望と恐怖と共に死んでいった。
 監督のその指摘に加害者の一人は何百人も物のように殺していた屋上で嘔吐する。
 この嘔吐のシーンが重要なのは流石に分かる。最後の嘔吐のシーン。それだけで16位に入れざるおえなかった。

15位・「進撃の巨人 The Final Season 完結編 前編 後編

 進撃の巨人は漫画で1、2巻が出た頃から、話題になって読んでいた。アニメ化して大人気になっていく中で、変わらぬ面白さに舌を巻いた。
 時たま終わりまで一定のテンションを保ち、面白さを保証し続ける作品がある。進撃の巨人はまさしく、そういう名作漫画の一つとして数えられて良いし、アニメも同様だと思う。
 
14位・「たまさか人形堂ものがたり」津原泰水

 帯には「人形を修復することは、ひとの心を治すこと」とある。
 考えてみると、人形とは不思議だ。調べると「(木や土やセルロイドなどで)人の姿をまねて作ったもの」と出てくる。
 どうして人は人の姿をまねて作ったものを必要とするのか。
 本作のあらすじは「会社をリストラされ突如無職となった澪は、かつて祖母が営んでいた小さな人形店を継ぐことにした。人形マニアの青年・冨永と謎多き職人・師村の助けを得て、素人なりに、人形修復を主軸にどうにか店を営んでいる――店に持ちこまれる、様々な来歴をもつ人形や縫いぐるみを通して人の心の謎を描く、珠玉のミステリ連作集」となる。
 人形を通して描かれるのは「人の心の謎」であるというのは興味深い。静かな物語でありつつ、くすっと笑える箇所も多く非常に読みやすいので、津原泰水の入門としても優れているかも知れない。

13位・「LIGHTHOUSE ~悩める2人、6ヶ月の対話~

 Netflixシリーズで、総合演出・プロデュースは佐久間宣行が務める。
 佐久間宣行の「悩める人々の明かりを照らす灯台でありながら、自分たちの足元は暗そう」という印象から、「LIGHTHOUSE」というユニット名を与えられたミュージシャンの星野源とコメディアンの若林正恭が、1ヵ月の間に考えた悩みや日常の出来事を記した「1行日記」をもとに悩みを話あったりする。
 星野源が42歳、若林正恭が45歳。
 人生を四季に当てはめると、彼らは秋の時期に入っている。夏の暑さは過ぎ去り、冬の寒さに備える時期。過ごしやすいけれど、人生の中で考えると中途半端。言い換えるなら、曖昧でも良いかも知れない。
 この曖昧さの中で浮かびあがってくる悩みは、人それぞれだけれど、等身大で悩んで良いと言ってくれるような優しい番組だった。
 あと、番組で制作された星野源の楽曲はどれもめちゃくちゃ良い。

12位・「訂正する力」東浩紀

 東浩紀を知らない人に何を勧めればいいか?
 この問いの答えは、少し前まで「ゲンロン戦記」だった。
 けれど、「訂正する力」が出た今、こちらかも知れない。
 概要欄には「ひとは誤ったことを訂正しながら生きていく。
 哲学の魅力を支える「時事」「理論」「実存」の三つの視点から、
現代日本で「誤る」こと、「訂正」することの意味を問い、この国の自画像をアップデートする
」とある。
 東浩紀がインタビューに答えたものを書籍にしているため、非常に読みやすい。もちろん、哲学の話をしているので難しい面もあるのだけれど、ニュースを見ていたら一度は見たことある内容にフォーカスを当ててくれているので、(その記憶が残っている)今だからこそ面白く読める一冊かも知れない。

11位・「新映画論: ポストシネマ」渡邉大輔

 34位の「明るい映画、暗い映画: 21世紀のスクリーン革命映画・アニメ批評2015-2021」とほぼ同時期に出版された「新映画論: ポストシネマ」。
 明るい映画、暗い映画の方が評論集で、新映画論はタイトル通りの映画論。個人的に新映画論の方が一本軸の通った主張があり(当たり前なんだけど)、面白く読んだので、こちらが11位となった。
 概要欄には「Netflix、TikTok、YouTube、Zoom……プラットフォームが林立し、あらゆる動画がフラットに流通する2020年代。実写とアニメ、現実とVR、リアルとフェイク、ヒトとモノ、視覚と触覚が混ざりあい、映画=シネマの歴史が書き換えられつつあるこの時代において、映像について語るとはなにを意味するのだろうか?サイレント映画から「応援上映」まで1世紀を超えるシネマ史を渉猟し、映画以後の映画=ポストシネマの美学を大胆に切り拓く、まったく新しい映画論。作品分析多数」とある。
 この「作品分析多数」が厄介で、知らないとちゃんと理解できないと思って見ようと思うのだが、Netflixにもアマプラにもなかったりする作品が多い。
 けれど、ここで論じられていることは無視すべきではない重要なことだけは分かる。
 頼むから「ジョギング渡り鳥」と「リヴァイアサン」が見れるようになってくれ。

10~1

10位・「呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変」(アニメ)

鬼滅の刃」や「SPY×FAMILY」といったジャンプ作品が立て続けに社会的な話題になっている。そんな中で「呪術廻戦」も同様の扱いを受けている印象がある。
 アニメは作画が本当に素晴らしい上に、演じる声優が情熱大陸でフォーカスされたりしている。話題になる理由は十分ある。
 けど、内容は僕が十代、二十代の頃に熱中したようなマニアックな内容で、これが世間に許容され楽しまれる世界が来るなんて当時の僕には想像できなかった。
 世間が変わったのか、単純にアニメの作画や声優さんの演技に注目されて話題になっているから見ているだけで、肝心の物語の中心にあるものはスルーされているのか、今のところ判断がつかない。
 ただ、オタクとして僕は呪術廻戦を推していきたい。

9位・「東京 03 FROLIC A HOLIC feat. Creepy Nuts in 日本武道館

 こちらは舞台。
 僕は配信で見たが、今はDVDが発売されている。
 概要欄には「東京03と作家のオークラが、“芸人”“役者”“ミュージシャン”“アイドル”など、様々なカルチャーシーンで活躍する人たちと共に“もっと自由に”“もっとふざけて”というコンセプトで始めたエンターテイメントショー「東京03 FROLIC A HOLIC」(読み:フロリックアホリック)(=意味「はしゃぎ中毒」)。
 今回、東京03が一緒に“悪ふざけ”をする相手は…様々な分野で活躍する人気ラップユニット、Creepy Nuts
」とのこと。
 こちらも佐久間宣行が関わっているので、僕が如何に彼のラジオが好きかという話なのだけれど。ランキングに入れているということはもちろん、面白かったから。
 本舞台の副題は『なんと括っていいか、まだ分からない』で、一見して取っ散らかった内容になりそうだけれど、ぎりぎりのラインで分解しないバランスを保っていた。
 演技面で言うと、芸人の吉住が良い仕事をしていた。当然、東京03の三人は安定して面白い。
 Creepy Nutsも彼らの役割を全うしていた。今はメディア露出を控えているので、本作がCreepy Nutsを見れる貴重なコンテンツの一つになっているとも言える。

8位・「ダンダダン」龍幸伸(マンガ)

 友達に勧められて読んだ。
 面白い少年漫画として完璧。物語として面白いというより、漫画として面白い。
 あらすじは「幽霊肯定派の女子校生・綾瀬桃と、同級生の怪奇現象オタク・オカルト君。互いに否定するUFOと怪異を信じさせるため、桃はUFOスポットの病院廃墟へ、オカルト君は心霊スポットのトンネルへ行くのだが…。運命の恋が始まる!? オカルティック怪奇バトル開幕!」というもの。
 著者のウィキペディアを読むと「映画『貞子vs伽椰子』」で「化け物には化け物をぶつけるんだよ」という台詞が決め手になって、「ダンダダン」の設定は作られたとのこと。確かに「化け物には化け物をぶつける」話である。
 個人的にネーミングセンスやキャラのギミックが細かくて良い。「ターボババア」が主人公の能力になるって誰が思うのか、という話で。龍幸伸にしか描けない世界を描いている作品だと思う。

7位・「ゴッドファーザー」フランシス・フォード・コッポラ

 今年を振り返ると、映画に関しては見ていなかった名作っぽい作品を見る年だった。その一環での「ゴッドファーザー」。
 あらすじは「信頼が厚く絶大な権力を持つアメリカ・マフィアのボス。ビジネスの陳情を断られた組織が、彼を襲撃し権力闘争の挑戦状を叩きつける。ファミリーで唯一堅気だった末息子は、父の命が狙われたことに心火を燃やす」というもの。
 主人公は「ファミリーで唯一堅気だった末息子」で、彼に対し「アメリカ・マフィアのボス」ゴッドファーザーは常に、お前だけは堅気でいてほしかった、という話をする。
信頼が厚く絶大な権力を持つ」ボスがそんな気休めを言うとは思えないから、「堅気だった末息子」をマフィアの世界に引きずり込むための方便だったんだろうなぁと思いながら視聴。
 そして、実際その人によって言葉を変える方便を「末息子」は引き継いだ、という演出としてラストの妻との会話があったのだろうな。そう考えると、本当によくできた映画。

6位・「2001年宇宙の旅」スタンリー・キューブリック

 この映画をスマホの小さな画面で見て、どうしろって言うんだ。
 映画館でリバイバル上映されるなら、絶対に見に行く。そういうタイプの映画。
 だけど、一応あらすじを「400万年前の人類創世記、謎の黒石板“モノリス”に接触したことで猿人はヒトへと劇的な進化を遂げ、宇宙開発をするまでに発達した。そして2001年、“モノリス”の謎を究明するため初の有人木星探査へと旅立つ。
 しかし、宇宙船を制御するAI(人工知能)の「HAL 9000」が突如反乱を起こす。死闘の末、生き残ったボーマン船長は“モノリス”に遭遇し、人間の知識を超越した領域へと到達する…
」というもの。
 僕は「2001年宇宙の旅」を何も分かっていない人間として自覚があるのだけれど、ただ凄いものを見せられたということは分かる。
 あえて、今の現代を生きる人間としての物差しで言うなら、宇宙船を制御するAI(人工知能)の「HAL 9000」について。
 このAIが人間と変わらぬ存在だと映画内で紹介される。もし仮に「HAL 9000」が人間と同じ知性を持ったなら、自らの死を回避するためなら人間に嘘をつくし、反乱だって起こす。
 人間なら当然持っている死への恐怖を「HAL 9000」は確かに持っていたように見えた。
 AIは人間を目指すべきだ、という議論が仮にこの先に出てくるのだとしたら、まずは「2001年宇宙の旅」を見るべきだろう。

5位・「A Table!(ア・ターブル)歴史のレシピを作ってたべる」(ドラマ)

 ドラマの公式サイト(っぽいところ)で、「吉祥寺から徒歩20分のところに住む、結婚15年目の夫婦、主人公・藤田ジュンとその夫・ヨシヲの夫婦の物語を歴史レシピと共に描」くと紹介されている本作。
 藤田ジュンを演じるのが市川実日子。その夫のヨシヲが中島歩。
 夫役の中島歩は「グッド・ストライプス」という映画の彼氏役も演じていた。少し独特な喋り方をされる方で、印象に残っていた。
「グッド・ストライプス」のキャッチコピーは「自分もこのまま。相手もそのまま。認め合い受け入れること。それは「結婚」から始まる新しいふたりのロマスン。」というもの。この結婚する彼氏役が中島歩で、僕は彼を通して初めて結婚って良いものなのかも知れないと思った。
 そんな「グッド・ストライプス」と「A Table!(ア・ターブル)」はまったく別の作品ではある。けれど、僕の中で繋がってしまって、結婚するまでの「グッド・ストライプス」のあとに「結婚15年目の夫婦」の「A Table!(ア・ターブル)」。
 良い夫になったな、と。いや、まったくの別人なのだけれど。
「A Table!(ア・ターブル)」の話に戻ろう。このドラマの魅力は夫婦が作る歴史レシピもさることながら、「人生はシナリオ通りに進んでいるのでは?」「価値観が合うというだけでなぜ何十年も一緒に居られるのか」という日常的な疑問を無視せず考え続けてくれるところ。
 日常を描くドラマで、いろんなことがゆっくり流れていく中で、こういう時間が幸せなんだろうなと実感させてくれる良作だった。

4位・「哲学の門前」吉川浩満

 これこそ僕が目指すべき地平なのではないか。
 少なくとも僕が今後書くエッセイに大きな影響を与えてくれる本なのは間違いない。
 概要欄には「入門しなくていい。門前で楽しめばよいのだ。
 自伝的エピソードの断片と哲学的思考が交差して織りなす、画期的な「哲学門前書」の誕生
」とのこと。
 この「自伝的エピソードの断片と哲学的思考が交差」するのが非常に良い。
 僕にとってエッセイは自分の身に起こったこと、考えたことが基盤にある。ただ、それだけでは他人に読んでもらう意味はない。とても個人的な内容でしかないのだから、日記で良い。
 わざわざ人に読んでほしいと提供する以上、「哲学の門前」で言うところの「哲学的思考」のような外部を取り入れたい。
 そのような欲求があって僕のエッセイは時折、読んだ本などの引用を試みていたのだろうと思う。それが成功していたかと言うと疑問ではあるけれど。
 今後は、「哲学の門前」を目指し、自らのエピソードと交差する「哲学的思考」のような外部を見つけていきたい。

3位・「ゲームの王国 上・下」小川哲

 小川哲はデビューして最初に発表した作品が「ゲームの王国」だった。
 本作は第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞し、各所から絶賛された。Amazonの「本の説明」欄には宮部みゆき、伊坂幸太郎、飛浩隆、荻原浩と錚々たる顔ぶれが並ぶ。
 伊坂幸太郎に関しては「すごい才能の新人がいる、と感嘆し「小川さん、小説界を救ってください!」という気持ちになりました」とまで言っている。
 そして、実際「地図と拳」で直木賞を取り、「君のクイズ」ではミステリ作品としてエンタメ好きの人たちに受け入れられている。
 まさに「小説界を救って」いる作家が小川哲だと言っても過言ではない。
 そんな小川哲の出世作が「ゲームの王国」だと言って良い。
 上巻のあらすじを調べると以下のように出てくる。
サロト・サル――後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子、ソリヤ。貧村ロベーブレソンに生まれた、天賦の「識(ヴィンニャン)」を持つ神童のムイタック。運命と偶然に導かれたふたりは、軍靴と砲声に震える1975年のカンボジア、バタンバンで邂逅した
 次に下巻のあらすじ。
「君を殺す」――復讐の誓いと訣別から、半世紀。政治家となったソリヤは、理想とする〈ゲームの王国〉を実現すべく最高権力を目指す。一方のムイタックは渇望を遂げるため、脳波を用いたゲーム《チャンドゥク》の開発を進めていた
 ソリヤという少女とムイタックという少年が出会い、ムイタックはソリヤに対し復讐を誓う出来事が起こる。そして、下巻へと移り、時は半世紀が経つ。
 本作は「日本SF大賞」を受賞しているが、その要素は下巻の「脳波を用いたゲーム《チャンドゥク》」で、上巻の「軍靴と砲声に震える1975年のカンボジア」が鮮明に描かれていた理由はここにあったのかと納得させられる。
 また、本書はあらすじを読めば分かるけれど、ボーイミーツガールものでもある。二人の特別な少年少女が邂逅するシーン、また再会するシーンすべて印象的で小川哲は物語の作り方も非常に上手い方だと分かる。

2位・「【推しの子】」赤坂アカ×横槍メンゴ(マンガ)

 アイドルをネットで調べると「人気のある若いタレント」と出てくる。若いことの利点は間違って良いこと、不完全、未熟が許されることだろう。
 もし仮に完璧に見えるアイドルが存在するとしたら、不完全であるものを完璧に見せているんだろうな、と思う。
 僕はそこに痛々しさを感じる。
「【推しの子】」の中心的存在、星野アイは「完璧で究極のアイドル」と語られる。
 読者は星野アイが嘘をついていたことを知っている。そのために「愛してる」と言えなかったことも。
 けれど、アイの双子の子供たちは、星野アイの嘘を知らない。
 そのまま星野アイは死んでしまった。
 母親であり、推しのアイドルの死。この欠落を双子が埋め合わせるための物語が【推しの子】だと言える。

 漫画二巻のあらすじには、アイの死後「双子は高校生になると同時に、アクアは“復讐”のため、ルビーは母親のように“輝く”ため、各々の思惑を胸に“芸能界”に挑む」とある。
 僕の視点で言うと、星野アイが抱えていた痛々しさを別の形で引き受けてしまったのは「復讐」を誓うアクアで、ルビーは健全に行くのかと思えば、物語が進むと彼女もまた星野アイが昇華できなかった母親の問題で痛々しい一面を見せる。
 また、二巻のあらすじの最後に「“芸能界”に挑む」とあるが、赤坂アカのインタビューを読むと結構な期間を取材にあてていたらしく、【推しの子】の芸能界の描き方はしっかりしている。なにより、この登場人物たちの動きには説得力がある。
 僕は星野アイというキャラクターを良いとは思わない。けれど、こういうタイプの人間が推されて崇拝されてしまうことは理解できる。
 言い換えれば、【推しの子】という漫画は上手い作品なのだ。漫画としても物語としても。
 この漫画が、物語がどういう結末を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

1位・「きのう何食べた? season2

 このランキングを考えた時、1位はすぐに決まった。
 僕の個人的な体験に基づき作品を選んでいく中で、好きだからこの作品は上位で、この作品は下位でとしたくないなと思った。とはいえ、僕という人間が選ぶ以上、偏りは出てくる。
 なぜ、「きのう何食べた? season2」が1位なのか。簡単に言えば、僕が今年に同棲をしたから。とても個人的で公平性もかけらもない理由で大変申し訳ない。
 ただ、「きのう何食べた?」という作品は誰の目から見ても優れていて、素晴らしいものであることに異論はないと思う。

 本作のあらすじは「几帳面な弁護士・筧史朗と、人当たりの良い美容師・矢吹賢二の2人が2LDKのアパートで暮らす毎日を、食生活メインに展開する物語。 主人公2人はゲイのカップルであり、メインの食生活以外にも、ゲイが抱える諸事情や、筧家を舞台にしてゲイの息子とその両親がどう向き合うかも描かれている」というもの。

 シロさん(筧史朗)とケンジ(矢吹賢二)がお互いを大切する姿や他人との生活の楽しさや少しの煩わしさが、「きのう何食べた?」という作品にはある。老いていくこと、町が少しずつ変わっていくこと。
 ひっくるめれば生の営みが、確かに描かれている。多分、これは僕が年を重ねたからこそ分かるようになった部分でもある。
 同時に今はまだ気づいていない、分かっていないことも「きのう何食べた?」の中にはある。
 そして、それらを分かって、気づいていくためには、今目の前にある人生と生活に向き合い続けなければならない。
 十年後、二十年に僕は目の前の人生と生活から逃げなくて良かった。楽しくないことも辛いこともあったけど、それを経験してきて良かった。なぜなら、そのおかげで「きのう何食べた?」という作品を理解できたと胸を張って言えるから。
 そう言えるように生きていきたいと思わせてくれた作品が「きのう何食べた?」だった。だから、このランキングの1位は「きのう何食べた? season2」なんだ。

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