見出し画像

父とトランプ

タイトル、向田邦子さんの「父の詫び状」と「思い出トランプ」を組み合わせたようなものになってしまっているのだけれど、初めて出会った向田邦子さんの作品は、「父の詫び状」で、高校受験の問題文としてだった。

高校受験の日は、教室の南側の窓際一番前の席で試験を受けながら、うつらうつらとしてしまったほど心地の良い日で、国語の問題文「父の詫び状」を読みながら、自分の父を重ね合わせていた。

今読むと、そこまで似てるかな? なんだけど、少し神経質でこだわりが強く、マイペースで厳しい感じは少し似ている気がした。


それ以外のところでは、父はちょっと変わっているというか、とても好き嫌いがはっきりしていて、まぁ、それはそれでいいのだけれど、父はそれを本人に隠さず思いっきり嫌いだ!っていう態度を出すので、子どもながらにちょっとヒヤヒヤしていた事もある。


父は税理士だったのだけれど、顧問先でも気に入らないお客さんには、ぶすっと不機嫌な顔をしていて、あまり口を利かない。 それってどうなん? とは思うけれど、昔はそんなでも通じたのか、お客さんも気難しい先生だなぁ、先生だから仕方ないなぁって付き合ってくれていたのだと思う。そんな時代。

逆に、気に入っている顧問先では、よくしゃべり、子どもっぽいところもあるからなのか、面白い、お茶目、なんて思われていたみたいだ。
どんだけ態度が違うんだよ、極端すぎる。


子どもっぽいと言えば、そう言えば、ごくたまに、突然、気まぐれに、勉強を見てやる、だの、夏休みや冬休みの宿題を一緒にやってやる、とか言い出してきた。

うわっ、めんどくさ、と心の中で思い、大丈夫だよ、と言っても、全然引き下がらないので、仕方なく、教科書だの、工作だのを父のところへ持っていく。

小学生の3年か4年生の冬休みに、カレンダーを作る、っていう宿題があって、この時も、父が宿題を見てやるモードになっていたので、カレンダーの絵に何を描いていいのかわからない、みたいな事を言ったら、そんなものはそこら辺にあるものでいいんだ、と目の前にある湯のみと急須の絵を描き始めた。

ふーん、そんなのものなのか、と自分で描こうと代わってもらおうとしたら、父は段々と筆が乗って楽しくなってきたのか、ちっとも私に用紙を渡してくれず、描かせてくれない。

私の宿題・・・、と言っても、うるさい、みたいな様子で、夢中で筆を動かし代わってくれないものだから、もういいや、と黙っていたら、結局、全部描き終えてしまって、頼んでもないのに、先生が見たら、一発で親が描いたことがわかるカレンダーが出来上がってしまった。


画像1


そんな父との思い出の一つに、トランプ、がある。

それは私がまだ小学1年生くらいの時、父が遊んでくれるものの一つにトランプがあった。よくやったのが、神経衰弱。

こたつの上にカードを伏せて広げておき、その中から2枚引き、同じ数字だったらもう1回引ける。違っていたら、次の人の番になる。それの繰り返しで、全部のカードが取れるまでやって、取った枚数の多い方が勝ち、というルールの神経衰弱だ。

その日は、仮面ライダーのトランプで、仮面ライダーが片手を斜め上に挙げ、変身のポーズをとっている絵柄のやつだった。そのトランプは祖母のものなのだけど、祖母の家に行った時にそのトランプが気に入った私は、祖母から借りてきていたのだった。

父と二人、テーブルの上でカードを両手でぐるぐると混ぜ、広げ、じゃんけんをして、勝った方からカードを2枚裏返す、をいつものように繰り返した。

いつもは父が勝つ。
でも、この日はいつもと違って、私は父と互角に近く、特に後半は次々と同じ数字を引き当て、私の番が続く。心なしか父に焦りの表情が見えた気もする。

父は負けず嫌い、すぐムキになる、そして子どもっぽい。
父親として、大人として、こんなチビに負ける訳がない、負ける訳にはいかない。なんでこいつは次々と同じ数字を引くんだ? と思っていたかはわからないけれど、結局、父はこんなチビの私に負けてしまった。

当然、「もう一回だっ!(ムキーーーーっ!)」となる。


私としては、勝って気持ちがいいものだから、「(ふふん)いいよ、もう一回ね」なーんて、2回戦目のカードをこたつの上でぐるぐると混ぜ始める。


なぜ、私が父に勝てたのか?

実は、このトランプ、仮面ライダーの変身ベルトに秘密があって、ここに文字というかマークみたいなものが印刷してあり、それがカードによって違っていたのだ。

今思うと、ローマ数字だったかもしれない。フォントが飾りっぽいものだったので、Mのような、♍のような、そんなわかりにくいマークっぽい文字だのが描かれていた。

私は全てではないけれど、そのマークのいくつかを覚えていて、あ、このマークはQのカードだ、これは8、これは3だった、なんて引いていたので、そりゃ、ペアを見つけやすい。



父があまりにも納得いっていない顔でトランプをぐるぐると混ぜているので、私も黙ってりゃいいものの、そこは子ども、父にも教えてあげよう、なんて思ったのか、ムキになって本腰入れてきそうな表情の父に種明かしをしてしまった。


そのとたん、父の表情が一変した。


ひとみ(仮)は、こっすいっ!!! 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒っ!!!
  ※こっすい・・・三河弁で「ずるい、ずる賢い」


と混ぜているトランプを次々手に取り、ビリビリ、ビリビリ、と破り始めた。

あまりの予想外の展開に、何が起こったかわからず、とにかく、祖母から借りてきたトランプが次々ビリビリと破られていく様子に、どうしよう、どうしよう、どうしよう、「おばあちゃんのトランプがぁーーーーーーーーーーヒック(←泣いてる)、おばあちゃんから借りたトランプがぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーヒック、ヒック、それ、おばぁちゃんのぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーー、うぇーーーーーーーーーん」ってなって、その後のことは覚えてない。



トランプをセロハンテープでくっつけて修復しようと試みたりしたけれど、真っ二つに破られたトランプはもう元には戻らない。

結局おばあちゃんになんて謝ったんだろう?
母が謝ってくれたのかなぁ。

あ、あと、怒り心頭ではあったけれど、さすがに大人気なかったな、と反省したのか、その年のクリスマスに、父がトランプ買ってくれた。ツルツルっとして、模様がキレイで、ケースも2つ分入るような大きなケースで、広げるとなんか手品みたいなやつ。



もぉさ、子ども相手なんだからさ、そこまでムキになる事ないよな、って思うけど、まぁ、それが父らしくて、今では笑える思い出だし、相手が子どもだろうが、誰だろうが真剣勝負だったのかなー、なんて前向き?に捉えてみる。

口数もさほど多くなく、私も家に帰ったら学校であったことを報告する、っていう性格でもなかったので、たくさんお喋りもしなかったし、父との晩酌も数えるほどだったけれど、もっと話をしてもよかったなぁ、なんて今更ながら思ったりもする。もう全然間に合わないのだけど。

ガンが再発していたから覚悟はしていたし、そのために準備、というのも変だけど、父の仕事の事もあったので、私は会社を辞めて父の事務所へ入り、父の代わりに事務的な事をしたり、それまでよりも接点は多くなってたものの、まさか父が62歳で亡くなるなんて、思ってもみなかった。


画像2


父の誕生日は9月で、もし生きていたら今年86歳だった。ふとトランプ事件を思い出したので、お誕生日の日に投稿しようと思っていたのだけど、ちっとも筆が進まず、書けなかった。でも、せめて、先月の父の誕生日に、って言える間に・・・とギリギリ10月の末日の今日になりました。時間もギリギリ。
相変わらず夏休みの宿題を9月に入ってもやってる組の私です。笑






長文にお付き合いいただき、有難うございました。





ではでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?