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ナット・キング・コール「恋こそはすべて」

人生に欠かせないオールタイムベストな音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。


先日、もし男性ヴォーカリストで野球の打順を組むなら、なんてことを書いた。


このとき、ボクは、

 3番 ナット・キング・コール
 4番 フランク・シナトラ
 5番 マット・デニス

と、クリーンアップを組んだ。

まぁ、世界最高の男性ヴォーカリストを上げろ、と言われたら、ボクはまずナット・キング・コール(以下ナッキンコール)を上げるんだけど、でも、やっぱり4番には置かないかな。

彼は長距離が打てない、とかそういうのではなく、なんというか、シナトラみたいな「聴く側の気分を強力に左右するようなカリスマ性」には欠けるから。

でも、彼は、なんというか球に逆らわない。

ナッキンコールの、その果てしなく甘い声。
どんな気分の人でも、許し、甘えさせ、慰める優しい響き・・・。

言ってみれば「広角打法」だ。
外角の球は流し、内角の球は引っ張る。真ん中はセンター返し。

だから3番打者。
それに対し、シナトラは外角のボール球も無理に引っ張っるような強引さがある。これは4番の資質。


・・・野球を例に挙げる時点でなんか昭和くさいなw

ええと、もう少しわかりやすく説明すると・・・


シナトラには、聴いている人の気分を彼の気分に近づけさせるような強力な強制力みたいのがある。

例えば、彼がバラードを歌ったら、聴いている人はメランコリックになり、彼がリズミカルなのを歌ったら、聴いている人は明るくなる。そんな強制力。

彼が「主」で、聴いている人が「従」

だから聴いている人はシナトラに振り回されるわけで、メランコリックに浸りたいときは、そういう曲だけをサーチしてCDをかけないといけない、みたいなことになる。

だけど、ナッキンコールにはそれがない。
聴いている人がどんな気分であれ、それを邪魔しない。

メランコリックになりたかったら、そのままCDをかけていればいい。どんなリズミカルな曲が流れてきても、それがそのままメランコリックに感じられるようなところがある。
逆に明るい気分の時は、どんなに悲しいバラードでも、そんなに悲しく感じられない。

聴いている人が「主」で、ナッキンコールはそれをサポートする「従」。

なんというか、聴いている側がどうとでも聴き方を変えられるような、そんな「懐の深さ」がナッキンコールにはあると思う。


必然的に、ナッキンコールを聴く割合は増えていく。

だって聴いている側が、どんな気分、どんなシチュエーション、どんなメンバーでも、彼ならフィットする。
かといって、BGM的かというとそうではなくて、実に雄弁。

こんな歌い手、他にいないなぁ。


さて。
このCDは、ボクが持っているたくさんのナッキンコールの中でも特に好きな一枚だ。

まぁ有名なアルバム『After Midnight』ももちろん好きなんだけど、この『Love is the Thing』の方がより懐の深さが出ている気がする。

オーケストラ(ゴードン・ジェンキンス・オーケストラ)をバックに歌っているせいかもしれないな。
他のアルバムではピアノ弾き語りなせいか(彼はもともとジャズピアニスト)、ヴォーカルがどこか軽いんだけど、このアルバムにはそれはない。ヴォーカリストとしての彼の持ち味を十二分に出した名作だと思う。

1曲目の「When I Fall in Love」からして絶品。
そして2曲目の「Stardust」なんかは、いままでいろんな人に星の数ほど歌われてきた曲だけど、そのなかのベスト歌唱と言っても過言ではない出来だと思う。
(↓この動画はライブで歌っててかなり音質が悪いけど)


他のアルバムとしては『Just one of Those Things』『Welcome to the Club』も好き。

ちなみに、ジャズピアニストとしての彼もなかなか素晴らしい。
やっぱり持ち味なのか、ピアノの音もとっても優しい。

彼のピアノトリオ中心アルバム『Penthouse Serenade』なんてよくかけるけど、実に優しくて甘くて、どんな気分にもフィットする。

ほんと、人生でナット・キング・コールのお世話になった夜は数知れず。

やっぱ万能の3番打者だなぁ(と、冒頭に戻る)。





チャーリー・チャップリンの映画『モダン・タイムス』の主題歌である「スマイル」はもともとインストゥルメンタルであったが、ナッキンコールが歌うために歌詞が付け加えられた。
もう、最初から歌詞があったんじゃないか、と思わせるような傑作に仕上がっているよね。


※※
ヒット曲「L-O-V-E」はなんと日本語バージョンがある。もちろんナッキンコールが歌っている。


※※※
彼の娘は、言わずと知れたナタリー・コール。
1991年に父親であるナッキンコールの声をオーバーダビングさせた共演デュエット曲「アンフォゲッタブル」でのヒットが記憶に新しいね。この曲でグラミー賞のソング・オヴ・ザ・イヤーに輝いてる。


※※※※
美空ひばりのナッキンコール好きは有名で、1965年にアルバム『ナット・キング・コールをしのんで-ひばりジャズを歌う』を発表している。
↓これは美空ひばりが歌う「スターダスト」。いい。



Love is the Thing
Nat King Cole
1956年録音/東芝EMI

Nat King Cole (vo)
with
Gordon Jenkins Orchestra


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。