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外神田(秋葉原)のまちづくり・再開発に関する3つの問題

外神田(秋葉原)では170メートルの超高層ビルをつくる再開発計画が進められようとしています。2023年2月10日に都市計画法16条1項に基づく公聴会が行われました。公聴会の公述申込意見のうち7割近くが千代田区の示している都市計画素案に反対でした。

私は、この再開発には、次の3つの大きな問題があると考えています。

①秋葉原らしさが失われる問題
②公共施設が民間と共有の建物に入る問題
③住民主体ではなく行政主体のまちづくりになっている問題

この公聴会では、私も公述人の1人に選ばれましたので、以下、千代田区ホームページの公聴会議事録から抜粋して紹介します。

弁護士の大城聡と申します。私は、すぐ隣の地区である神田須田町の法律事務所で弁護士として10年以上働いています。

本日は、大切な公聴会の場で公述の機会をいただき、誠にありがとうございます。

私は、今、区が進めようとしているまちづくり案、地区計画案には、三つの大きな問題があると考えますので、反対の立場から意見を述べます。

三つの大きな問題、一つ目は秋葉原らしさが失われる問題、二つ目は公共施設が民間と共有の建物に入る問題、三つ目は住民主体ではなく行政主体のまちづくりとなっている問題です。

1 秋葉原らしさが失われる問題

まず、秋葉原らしさが失われる問題についてお話しします。区の計画では、川沿いにホテル、線路沿いに170メートルの超高層ビルを建てることになっています。超高層化すれば床面積は大幅に増えますが、その代わりに今ある道路に面した店の多くは営業を続けることはできなくなります。多くの路面店があり、市場、バザールのような個性と活気があることが秋葉原らしさであり、秋葉原の魅力ではないでしょうか。残念ながら区の計画は、イノベーションではなく全てを一度壊すということですから、この秋葉原らしさがなくなってしまいます。区の計画は、ホテルと高層オフィスというステレオタイプのものであり、一言で言えば超高層の箱物計画です。これでは将来性がありません。秋葉原のよさであるソフト、コンテンツ、アイデア、そういったものを生かす計画になっていないからです。

皆さんは、徳島マチ☆アソビというまちづくりのイベントをご存じでしょうか。徳島で行われている複合エンターテインメントで、アニメとのコラボや人気声優が一堂に会するなど、様々なイベントや展示が次々と行われています。先日、秋葉原に拠点を置く、私よりも年齢の若い経営者の方たちとお話しする機会がありました。秋葉原らしさを生かすまちづくりのヒントとして、この徳島マチ☆アソビのことを教えてもらいました。しかし、この若い経営者の彼らは、今区が進めている地区計画案を知らなかったのです。これまで関わってきたこともないというふうに話していました。

秋葉原は世界のアキバとして注目されています。箱物として超高層ビルやホテルを造るのではなく、イノベーションも選択肢に入れて、若い世代の知恵とアイデアも一緒に生かして、共にまちづくりを考えることが必要だと思いますが、いかがでしょうか。

2 公共施設が民間の共有建物に入る問題

二つ目は公共施設が民間と共有の建物に入る問題です。この地区には、清掃事務所と万世会館の葬祭場という公共施設があります。公共施設が民間と同じ建物に入ると、たとえ公共施設であっても、区は単独で大規模修繕や改修の意思決定ができなくなります。これは大変大きな問題です。万世会館の葬祭場は川沿いでホテルと1棟の建物とする計画になっています。外からお客さんを呼び込む、観光の拠点とするホテルと、地域の住民がしめやかに亡くなった人々をしのび送り出す葬祭場を、同じ1棟の建物に入れることには大変違和感があります。ホテルと葬祭場を1棟の建物に入れる計画には、相互にマイナスの効果しかありません。

そもそも公共施設の建て替え費用、再開発で賄おうとする前提に無理があるのです。区は、公共施設の個別建て替えができないとしていますが、コンサルタント1社にしか意見を聞いていないことが先日の説明会で分かりました。都の土地を購入するか借りれば、再開発に頼らないで公共施設の建て
替えは可能です。区は再開発に組み込むという結論ありきではなく、複数の専門家に個別建て替え案の立案をしてもらい、区民と一緒に比較検討すべきです。その際にはこの場所に公営の葬祭場を続けるかについても区民に意見を広く聞くべきだと思います。葬祭場を維持するのではなく、区内にお住
まいの方がお亡くなりになった場合に葬儀費用の一部を助成するなどの方法も考えられます。
そのようなことも含めて、再開発ありきではなく、広く区民の意見を聞いてはどうでしょうか。

費用面でも精査する必要があります。今の地区計画案はコロナ禍前の計画のままで、オフィス需要の低下、建築費高騰などのマイナス要因を考慮しておらず、見通しが甘く、採算に大きな不安があります。建物の建設費からその後の維持管理、修繕費用までを含めた費用を建築物のライフサイクルコ
ストといいます。建築物のライフサイクルコストを調べると、建設費自体は氷山の一角でしかなく、その後の修繕費、運用費等が圧倒的な割合を占めています。氷山の一角である最初の建設費だけを見て公共施設の在り方を決めてはならないのです。

区はこの再開発の事業費、854億円としていますが、その算定のための根拠資料は示されず、事業費を賄う収入の内訳も示されていません。そして、
先ほどお話しした建築物のライフサイクルコストに関しては、情報が全く開示されていません。

区の公有財産白書74ページでは、公有財産の将来推計について、改修周期40年のパターンと、築後30年で大規模修繕を実施した場合、改修周期60年とするパターンが示されています。いずれのパターンでも、共有建物に公共施設が入れば、区が単独で改修や大規模修繕を決められなくなります。区は現時点で双方のパターンを想定した費用推計を出すべきですが、これらの数字は示されていません。これでは公共施設の維持管理費用がどのようになるのかが分からず、区民が判断する材料がありません。このように、公共施設を民間との共有建物に入れる計画には、今後の修繕などで区が単独で意思決定できなくなるという問題があり、さらには維持管理費用が増えるリスクがあります。この問題だけでも区のまちづくり案、地区計画案には反対せざるを得ません。

さらに、区道を廃止して宅地化し、新たに建てる超高層ビルの床に換えるという点でも問題があります。区は、区道の廃止によって清掃事務所と葬祭場を現状面積同等以上で確保するための原資にすることが公益だと考えているようですが、そもそも個別の建て替えが可能であれば全く必要性がないことになります。区道の廃止に関して公益性、必要性がなく、区の計画は国土交通省の大街区ガイドラインに適合していません。

トルコで大地震があり、東京でも首都直下型地震が心配されています。再開発を進めることは災害対策になり、公益性があるという意見もあります。しかし再開発だけに頼る災害対策は危険です。

高層化すれば、その分、利用者、居住者が増えることによって、災害時のリスクが増加をします。東京都は昨年5月、「首都直下型地震等による東京の被害想定」の見直しを行いました。そこで新たに、超高層ビルではエレベーターなどの生活インフラ復旧に時間がかかることが指摘をされています。再開発すれば災害対策できると安易に考えることはできないのです。

3 住民主体ではなく行政主体のまちづくりになっている問題

三つ目は、住民主体ではなく行政主体のまちづくりになっている問題です。まず驚いたことは、区の説明会で、宅地を有する区は地権者として第一種市街地再開発事業の組合設立に同意すると明言したことです。

第一種市街地再開発事業では、地権者の3分の2以上の同意があれば、地区内の地権者はたとえ反対の意向であっても土地建物の所有権を失い、建物は取り壊されます。だからこそ地権者としての千代田区の判断は慎重であるべきです。まだ都市計画法16条1項の今日の公聴会が行われる前であり、都市計画審議会で地区計画案の審議もされていないその段階で、その後に想定される組合設立に同意すると明言するのは、あまりにも前のめり過ぎる姿勢ではないかと強く危惧しています

区は昨年11月に地区計画見直し方針を策定しました。この53ページにすばらしいことが書いてあります。本章では、地区計画の策定または見直しをするための進め方として、五つのステップを示しますと、その地区計画見直しの方針には書かれています。

五つのステップとは、ステップ1:議論の場の立ち上げ、ステップ2:問題点、課題の整理、ステップ3:将来像の共有、ステップ4:内容の検討、ステップ5:意見集約です。

その後に都市計画法の法定手続を行うとしています。

余談になりますが、都市計画法の法定手続に、今日行われている16条1項の公聴会が抜けておりますので、それを書き加えていただけると、さらにすばらしいと思います。

さて、この外神田一丁目南部地区のまちづくりのこれまでの経緯を見ると、ステップ3の将来像の共有ができていません。これは区が、再開発準備組合という、再開発に賛成する人が集まるグループの声だけに耳を傾け、進めてきたからです。行政は再開発に賛成で前のめりになるのではなく、中立、公正な立場から、その地域で暮らす人、働く人の多様な意見を引き出し、それを集約していくこと、支えていく役割に徹すべきだと考えます。

まちづくりにおいて行政の役割が重要なことは言うまでもありません。
私の父は、もう定年退職しましたが、地方公務員として長年建築行政に関わってきました。その後ろ姿を見ても、行政がまちづくりに関わる大切さを感じています。

この公聴会が行われることで、賛成、反対の立場から、問題点、課題が明確に整理されます。実質的に見ると、今私たちはステップ2:問題点、課題の整理というところにいるのです。

区役所の皆さん、どうか賛成、反対の立場を問わず、将来像が共有でき、内容の検討、意見集約ができるよう、公正、中立な立場から住民主体のまちづくりを進めていただけないでしょうか。

特に、反対意見が多い中で、このまま都市計画法17条の手続に進まないようにお願いいたします。

今、区が進める地区計画案の決定権は樋󠄀口区長にあります。樋󠄀口区長にもお願いです。ぜひこの地域に足を運び、賛成、反対の立場を問わず、地域で働く人、暮らす人と膝を突き合わせて話し合ってください。樋󠄀口区長が就任してからそのような話合いの機会がないのは大変残念です。既定路線だからと大きな再開発を急いで進めるのではなく、立ち止まる小さな勇気を持って、じっくりと地域の人の話にご自身で耳を傾け、住民主体のまちづくりができるように力を尽くしてください。

最後に、都市計画審議会の委員の皆様にもお願いです。この再開発は実質的にはまだステップ2の問題点、課題の整理ができた段階です。住民参加の、住民主体のまちづくりにチャンスを下さい。地区計画策定を急がず、住民主体のまちづくりを行う機会を、そのチャンスをもらえますように、心からお願いいたします。

以上で、区のまちづくり案、地区計画案に反対の立場からの私の公述を終わります。ご清聴ありがとうございます。

以上

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