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第七話 FP&Aの分析が経営陣の不安を取り除き、社員の業務負荷を減らす

米系外資企業の財務部門でFP&A部門長や担当者として、長年、多くの経営陣に仕えてきました。経営陣は表面上は冷静に見えても、頭の中では「あれやこれが起きたら、業績はどうなるんだろ」などと、良からぬ事象が起きる場面を四六時中想定しています。

経営陣は「不安要素」については想像力も創造力も抜群で、思いつくたびに部下に、「あの商談がうまくいかなかった場合、今年の売上どうなる?』「円安が今より5円すすんだら、今年の利益どうなる?」などと、追加の計算作業を頼みまくります。

今日は、FP&Aで用いられる分析手法を使って、「いかに経営陣の不安を取り除き、同時に社員の業務負荷も減らし、正しい方向に経営を導くか」についてお話しします。

目次

  1. 経営陣の不安を取り除く

  2. 不安の要因が1つの場合

  3. 不安の要因が2つある場合

1. 経営陣の不安というオバケを取り除く

経営陣にとって、不安が最大レベルの状態というのは「どの程度の悪いことが起きるのか、見当もつかない」時です。いってみれば、相手がおばけや透明人間のようなものです。よって、部下は「リスクの範囲」を見える化してあげるだけで、経営陣の心配は「無限大→有限」に、大幅に改善されます。

FP&A部門は「シナリオ分析」「感度分析」といった分析手法を使って「起こる可能性のある悪い結末を具体化する」します。次のセクションでこのツールの使い方を具体的にご説明します。

2. 不安要素がひとつの場合

まず初めに経営陣が不安に思っている要素がひとつだけの場合です。仮に、年初に作成した予算利益を50とします。

仮定
-「売上減少」が唯一の利益を押し下げる不安要素
-  年初に立てた予算利益は「50」

経営陣の頭の中は「売上減によって、今年の利益は当初計画からどれだけ下がるのか」で頭がいっぱいです。

そこで、部下は売上に関して以下の3つの場合を想定して、利益を計算します。

売上シナリオ

  • 当初の予算通り

  • 最新の見込み

  • 最悪の場合

上の3つの場合を想定して利益予測を計算すると以下の表のようになりました。これがオバケの見える化です。

  

年初の利益目標が50であるのに対して、今現在の最新の見込みだと利益は40、最悪の場合は30になります。

これにより、経営陣としては利益がゼロやマイナスになるリスクはないことを知り、最悪のシナリオの大きさが見えるだけで少し不安が取り除かれます。

また、この表とともに、FP&A部門は「、いかに予算売上に回復させるかの解決策案を経営陣に提案します。例えば、最悪の場合、当初計画していた50の利益に対して、30になるリスクがあり、20足りなくなります。よって、例えば「テレビCMを減らして広告予算を15削減しましょう」「スーパーのチラシ予算を5減らしましょう」といった感じです。それが最善の策でなくても、経営陣にとってはリスク削減のための叩き台なり、議論のトリガーになります。

次に、不安要素が二つ存在する場合のシナリオ分析についてお話しします。

2. 不安要素が2つある場合。

経営陣は、「売上減」だけでなく、昨今のインフレによる「原材料費の高騰」にも不安を感じています。売上減少と原材料費高によるダブルパンチで、利益がどうなるかを、以下のような形で、具体化してあげます。

  

横軸に売上、縦軸に原材料費がそれぞれどうなるか、3パターン用意します。もしも売上も原材料費も最悪の場合には、利益は当初の目標の50から10にまで下がることがわかります。上司はここでも「最悪でも利益はゼロやマイナスにならないな。10は出せるな。」とリスクの大きさを具体的に認識できます。

この表の利点は売上と原材料費がそれぞれどう動くかによって、利益にどう影響するかのパターンが一覧表になっていることです。一度作って、上司に渡してしまえば、あとは経営陣が頭の中でシミュレーションできます。空想が思いつくたびに、いちいちFP&A担当者に「売上はXXXX、原材料費は〇〇〇の場合、利益はいくらになるの?」といった質問をする必要がなくなります。

なので、最初にこの表のようなものを作って上司に渡しておけば、部下も毎回、呼び出されて作業をせずに済みます。

ここでは説明ように単純化して、売上と原材料費の各要素につき、3シナリオずつ設定しましたが、実際のビジネスではより細かくシナリオを設定すると良いでしょう。

例えば、横軸の売上について、当初予算から-1%、-2%、-3%、-4%といった感じで、1%刻みで、最悪シナリオの-10%まで設定します。同様に縦軸の原材料費も+1%、+2%、+3%といった感じで最悪シナリオの+10%まで設定します。これにより、1%の売上、原材料費の変化がそれぞれ利益にどの程度影響するかが具体的に読み取れます。

私の過去の経験上、利益に影響する要因はほぼ決まっていて、たいていの場合、主要な2つの要因が利益の7-8割を決めることが多いようです。よって以上のような形で経営陣に会社が直面しているリスクを限定してあげると、不安が少し和らぎます。

理由は次に会社が取るべきアクションが明確になるからです。今後は目標利益に足りない分をどう補うかの議論に集中できます。

まとめ

今日は経営陣に対する不安の見える化と部下の業務負荷軽減の両方を同時に達成する方法についてお話ししました。

私のFP&A経験では日本人はもとより、アングロサクソンもラテンも、経営陣はみな前述のリスク範囲の具体化によって、落ち着きを取り戻します。また、社員も経営陣からの計算依頼から解放され、より前向きな仕事、すなわち今後のリスク削減のための対策案に集中できます。

ぜひ、ご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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