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総合商社5社の22年度決算を総まとめ

5大商社(伊藤忠、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅)の2022年度決算の重要ポイントをまとめました。

この企業分析noteを読むと、以下のようなことが分かります。

当noteの主な内容
・商社決算でのサプライズは?
・株主還元の方針と追加還元の可能性
・2023年度の利益見通し
・商社の業績を見る時の大事なポイント

すべて無料で読めます。商社に投資をしている方、商社業界に興味がある方、商社への就職・転職を考えている方の参考になりましたら幸いです。

皆様からのリアクションが執筆のモチベーションになっているので、もしこのnoteが参考になりましたら、noteへのスキや以下のツイートのRTをぜひよろしくお願いします。

それでは、ここからが商社の決算まとめ本文です。

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結論:総合商社の2022年度決算まとめ

まずは各社の決算のポイントを結論としてまとめます。

時間がない方はこの章を読むだけでも、商社5社の決算の大事なポイントは把握できると思います。

伊藤忠:一過性の損益や会社側が新年度の計画に入れている保守的なバッファーを除くと、23年度は5大商社の中で唯一の増益計画。コンセンサスも上振れ。株主還元についても今回から「総還元性向40%を目途に追加的な還元を行う」という方針が加わっており、ポジティブな内容。23年度計画にはバッファー▲500億円も含まれるため、23年度中の業績上振れと追加還元に期待。

三菱商事:3,000億円という大規模な自社株買い(発行済み株式数の6.0%相当)を発表。5大商社の中で最もポジティブな変化。株主還元の方針も「総還元性向30~40%」から「総還元性向40%」に引き上げられた。23年度純利益は▲22%の減益計画だが、保守的なバッファー▲200億円も含まれる。

三井物産:資源価格の上昇で大幅増益となった22年度に対して、23年度はその反動で▲22%の減益計画(バッファーはなし)。利益計画のコンセンサス上振れ幅は5大商社の中で最も大きい。25年度を最終年度とする新しい中期経営計画を発表。利益目標は普通だったが、株主還元方針が拡充された点がポジティブ(基礎営業キャッシュフローに対する株主還元の割合を33%から37%に引き上げ。累進配当も導入)。期中の追加還元に期待。

住友商事:200億円の自社株買い(発行済み株式数の1.0%相当)を発表。23年度の純利益は▲15%減益の計画だがコンセンサスを上振れ。株主還元の方針は従来から変化なし。すでに株主還元の目標をクリアしているため、追加還元のハードルは他社よりも高い。

丸紅:300億円の自社株買い(発行済み株式数の2.0%相当)を発表。23年度の純利益は▲23%減益の計画でコンセンサスを下振れ。株主還元の方針に変化はなく(22年度3Qに変更したばかりなので)、決算後の株価反応はややネガティブだった。

続いて、利益が市場期待値と比べてどうだったのか、各社の株主還元の方針、商社の業績・株価を見る上で大事なポイントという順番でまとめていきます。


2023年度会社計画とコンセンサスの比較

まずは決算の内容が市場の期待値と比べてどうだったのかをまとめます。

「2022年度の純利益 vs 会社計画」「2023年度の純利益計画 vs コンセンサス予想」を表にまとめました。株価にとっては特に後者の方が重要です。

総合商社5社の純利益(会社計画、コンセンサスとの比較)

23年度会社計画がコンセンサスに対して上振れたのは三井物産と住友商事でした。三井物産は22年度実績における計画上振れ幅も大きいです。

伊藤忠はコンセンサスとほぼ変わらない水準の会社計画ですが、7,800億円の利益計画には500億円のバッファーも含まれています(期初計画は▲500億円のバッファーも含めた保守的な数値が開示されている)。バッファーを足し戻すと今期は増益の計画で、コンセンサス上振れとなります。

伊藤忠の純利益の推移

一方で、丸紅と三菱商事の23年度計画はコンセンサスに対して下振れました。ただ、どちらも自社株買いを発表しているため、株価にネガティブとはなりませんでした。

それぞれの会社の利益動向についても後述しますが、まずは投資家の関心度が高い商社の株主還元についてまとめます。今回は株主還元を積極化してくる会社が目立ち、株価にはポジティブな内容となっています。


総合商社の株主還元方針まとめ

各社の株主還元の金額と総還元性向は以下の通りです。

今回の決算では三菱商事、丸紅、住友商事が自社株買いを発表しました。

特に三菱商事の自社株買いは3,000億円(発行済み株式数の6.0%相当)とかなり大規模で、ポジティブサプライズでした。

総合商社の自社株買いの発表(22年度決算発表時)
三菱商事:3,000億円(発行済み株式数の6.0%相当)
丸紅:300億円(同2.1%)
住友商事:200億円(同1.0%)
伊藤忠、三井物産:発表なし


新年度の株主還元方針

今回の決算で発表された各社の株主還元方針は以下の通りです。

先日、バフェットが商社経営陣とミーティングしたことが影響しているのか分かりませんが、各社の株主還元方針は以下のように拡充されています。

伊藤忠:(従来)23年度まで配当性向30%をコミット→(新年度)総還元性向40%を目途に追加還元を実施
三菱商事:(従来)総還元性向30~40%を目途→(新年度)総還元性向の目途を40%に引き上げ
三井物産:(従来)基礎営業キャッシュフローに対して33%の還元が目標→(新年度)比率を33%から37%に引き上げて、累進配当を導入
住友商事:従来から変更なし
丸紅:従来から変更なし(22年度3Q決算の時に配当性向25%から総還元性向30~35%に目標を引き上げて、累進配当を導入済み)

伊藤忠、三菱商事、三井物産がそれぞれ株主還元を拡充しています。丸紅は従来方針から変更ありませんでしたが、22年度3Q決算の時にすでに引き上げているので、今回は大きな変更はありません。

こうして商社の株主還元方針を見比べると、伊藤忠・三菱商事・三井物産の3社は横並びで積極的な還元姿勢が伝わってきます。一方で住友商事と丸紅は大手3社に比べるとやや劣る水準ですね。ですが最近の変化幅だと丸紅の還元積極化がとても目立っているので、両社ともに今後の変化に期待です。


減配リスクはあるのか?

各社で採用されている累進配当とは、「配当の維持または増配を続ける」という株主還元方針です。住友商事以外の4社はこの累進配当制度を導入しており、減配リスクが非常に低くなります

住友商事は累進配当の代わりに「DOE 3.5~4.5%」という株主還元方針を導入しています。配当性向は「利益の〇〇%を配当に回します」という株主還元となりますが、DOEは株主資本配当率の略で、「株主資本に対して〇%を配当に回します」という株主還元方針となります。

利益に比べると株主資本は減るリスクが低いので、DOEの目標を設定している会社は減配リスクが低くなります。とはいえ、減配しないことにコミットしている累進配当制度に比べるとやや減配リスクが高いです。

住友商事の株主還元方針

また、住友商事以外の4社は累進配当を導入していますが、伊藤忠だけ株主還元の方針に「累進配当(連続増配)」と書かれており、増配に対しても強くコミットしています。同じ累進配当を導入している会社でも、今期の配当を横ばいと出してきた丸紅と比べると株主還元の姿勢に差を感じます。

伊藤忠商事の株主還元方針


今後の追加還元の可能性

今回の決算では三菱商事の自社株買いがポジティブサプライズでしたが、伊藤忠と三井物産は今のままだと総還元性向の目標に届かないので、期中に追加の株主還元を出してくる可能性があります。

丸紅はここ数年で株主還元をかなり積極化しており、総合商社の中でも特に株価のパフォーマンスが強いです。ただ、それでも今の総還元性向は30~35%と他の総合商社と比べるとやや低いので、今後のさらなる還元拡大に期待したいところです。

丸紅の株主還元方針

住友商事はすでに株主還元の目標に達しているので、利益が計画を上振れない限り追加の株主還元は見込めません。伊藤忠・三井物産は「利益が上振れなくても追加還元が期待できる」という状況なので、住友商事は追加還元の期待値がやや低い状況となります。


2023年度の純利益見通し

続いて、2023年度の純利益計画を見ていきましょう。

各社の純利益(21~22年度実績と23年度計画)は以下の通りです。資源・非資源に分けて表示しています。

総合商社の純利益推移(21~23年度)

参考までに一過性費用を除いた実態ベースでの利益もまとめておきます。

総合商社の純利益推移(21~23年度)

資源価格のアップダウンによって、伊藤忠以外の4社は「22年度大幅増益→23年度は減益」という動きになっています。伊藤忠は実態ベースだと22年度が14%増益、23年度が2%増益という計画なので、資源価格の影響を受けながらも安定した利益推移になっています。


伊藤忠の23年度利益見通し

資源価格の下落によって他の商社が23年度の大幅減益を見込んでいる中で、伊藤忠の純利益は22年度▲2%減益、23年度▲3%減益計画と相対的に安定して推移しています。

22年度は▲2%の微減益となりましたが、以下のように21年度で1,300億円の一過性利益を計上していたので、それを除くと14%の増益でした。そして23年度の会社計画にも一過性要因とバッファーが含まれているので、それらを除くと23年度は実質ベースで2%の増益となります。これはコンセンサス予想を上回る水準です。

23年度における伊藤忠のセグメント別利益計画は以下の通りです。

23年度の純利益計画をセグメント別に見ると、鉄鉱石・石炭などの市況下落によるエネルギー・化学品と金属の減益を、食料、情報・金融、繊維といった非資源事業の増益で補う形になっています。その他及び修正消去も▲411億円の減益ですが、この中に損失バッファー▲500億が入っています。

変動が大きい主なセグメントの増減益要因は以下の通りです。

伊藤忠の増減益要因(22年度→23年度計画)
食料(+408億):市況下落により食糧関連取引の採算は悪化。Doleおよび畜産関連事業が回復。日本アクセスなどの食品流通事業も堅調。前期にあった一過性損失▲225億からの反動もあり。
情報・金融(+134億):海外リテール金融事業では調達金利上昇の影響あり。ファンド保有株式の評価損益が改善。半導体不足の影響g会緩和され伊藤忠テクノが増益。来店数回復によりほけんの窓口グループも回復。
繊維(+75億):コロナ影響軽減で小売り市況が回復。スポーツ分野を中心にアパレル事業が伸長。
金属(▲104億):カナダ鉄鉱石事業の通期取り込みによる増益はあるが、鉄鉱石・石炭価格の下落、円高の影響により減益。
エネルギー・化学品(▲278億):市況価格下落により上流権益事業が減益。前期に好調だったエネルギートレーディング事業の反動減。

 

三菱商事の23年度利益見通し

三菱商事の純利益は、資源価格の上昇によって22年度に前年比+26%の大幅増益となり、23年度はその反動で▲22%の減益計画です。以下のスライドのように資源価格の影響を抜き出して表示してくれているのが分かりやすいですね。

23年度のセグメント別利益見通しは以下の通りです。

市況の下落によって天然ガス事業や金属資源事業が大幅減益となる見込みです。加えて、前年に不動産運用会社の売却益が含まれていた複合都市開発も大幅減益です。一方で、海外発電事業における資産売却益を見込んでいる電力ソリューション事業では増益を見込んでいます。

セグメント別の利益動向は市況変動や売却益による影響が大きくて、事業環境が良くなっている/悪くなっているかは分かりにくいですね。

ちなみに、三菱商事の23年度計画にも▲200億円のバッファーが含まれているため、やや保守的な会社計画となっています。


三井物産の23年度利益見通し

三井物産の純利益も三菱商事と同じようなトレンドで、22年度に前年比+24%の大幅増益となって、23年度はその反動で▲22%の減益計画です。減益ではありますが、コンセンサスを大きく上回っているのでポジティブです。

純利益の変動を要因別にまとめているのが以下のスライドです。

前年比では▲2,500億円の減益計画ですが、そのうち▲1,550億円が鉄鉱石や原油などの市況下落や為替による影響となっています。LNGや化学品のトレーディング事業も前期は好調だったため、その反動によって基礎収益力も▲1,590億円の減益要因になっています。

そしてセグメント別の利益見通しは以下の通りです。

うーん、特に追加コメントはありません。三菱商事とほんと似たような動きになっています。

そして、三井物産は2025年度を最終年度とする新しい中期経営計画も発表しました。新中計の定量目標は以下の通りです。

基礎営業キャッシュ・フローの目標が1兆円(23年度計画が8,700億円)、純利益の目標が9,200億円(同8,800億円)なので、損益は緩やかな拡大が見込まれています。

すでに株主還元の章でも説明していますが、今回の大きな変化は株主還元方針ですね。基礎営業キャッシュフローに対する株主還元の割合が33%から37%に引き上げられ、さらに累進配当も導入されました。


総合商社の業績と株価を見る上で大事なポイント

セグメント別の利益見通しをまとめてきましたが、今更ながら改めて「商社ってめっちゃいろんな事業やってるなー」という印象です。

これ、セグメント別に純利益を予想しようと思っても、絶対に当たらないですね。なのでセグメント別の利益動向を細かく当てようとするよりも、商社を見る上では以下のポイントがより重要になってくると思います。

総合商社の業績と株価を見る上で大事なポイント
①各社の投資計画とキャッシュアロケーション:何に投資して、どれぐらいの営業キャッシュフローが見込めて、株主還元余力がどれぐらい残るのか
②前提条件と現在の市況:資源価格などの前提条件、利益感応度、現在の市況から会社計画に対する上振れ・下振れ余地を計算する。
③株主還元方針:まずは現在の株主還元方針から追加的な増配・自社株買いが起きるかを予想する。次に、経営陣のコメントなどから株主還元方針そのものに変化が起きないかを考える。
④株価バリュエーション:特に配当利回りが重要。純利益の予想は難しいですが配当は比較的予想しやすいです。

真面目に業績を予想している方(アナリスト)は、商社が投資しているプロジェクトごとの動向や一過性の損益の動向をしっかりと追っているわけですが、一般人がそこまでやるのは無理ですし必要もないと思います。ただ、やっている人が少ないからこそ、まじめにやっている人であれば決算プレーで稼げそうな領域ではあります。


住友商事・丸紅の23年度利益見通し(おまけ)

ということで、細かくセグメント別の利益をまとめることにあまり意味がないと気付いたので、住友商事と丸紅のセグメント別利益の見通しは会社資料のコピペで終わらせます(手抜きですみませんw でも、たぶん読者の皆様もこの利益見通しのまとめは読んでて面白くないと思います汗)。

以下は住友商事の23年度利益見通しです。

続いて丸紅のセグメント別利益見通し。

以上が商社の2022年度決算のまとめでした。

最後の方はかなり手抜きになりましたが、商社を見る上で一番重要な株主還元方針のところはしっかりとまとめられたと思うので、その部分をしっかり読んでもらえればと思います。

この記事が参考になったという方、そして今後もこういった企業分析noteを書いてほしいという方は、ぜひ以下のツイートをRTお願いします。

無料noteなので、皆様からの反応が執筆のモチベーションになっています。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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